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社内政治

 この連載の第8部分「月が導く遊侠と御政道」は2回加筆しているのですが、そこで取り上げたマイソフお気に入りの『月が導く異世界道中』で第19巻が出ました(2023年12月)。


 第16巻で登場した神々の「贈り物」、つまり「亜空」に追加された空間には、主人公ライドウ(深澄真)に友好的な神々を祀る神社と寺と神殿がありました。そこで祈るといくらか魔力が召し上げられ、奉納されることがわかり、それだけならよかったのでありますが、神社の管理人として巫女さんがついてきました。主人公は巫女を従者として受け入れ、(たまき)と名付けますが、従順な環が主人公との模擬戦を許されると、ちらりと主人公への悪意を見せたことを感じ取ります(第19巻で明かされる)。主人公は環を亜空の中でだけ召し使うことにして、外の世界に対して何もさせず(第17巻)、しかしこれからはそうした悪意とも向き合わねばならないと漏らします(第19巻)。


 これは、この連載で繰り返し語ってきた侠の論理からの飛躍です。裏切り者には死あるのみ、というのが侠の世界です。今まではいざとなったら亜空に引きこもればいいやという方向であったのが、「大異を捨てて小同につく」と揶揄されることもある政治的同盟の世界に入っていこうというのです。ライトノベルが誕生以来ずっと嫌っていた、大人の、薄汚い、合従連衡の世界です。「大人に勝てるのは大人だけだから、大人にならなきゃいけない」という「ふしぎの海のナディア」の台詞がよみがえったわけですね。


 ネタバレを避けて私は読んでいないのですが、アルファポリスにあるこの小説のWeb版はとうに完結しているようです。書籍版がどんどん膨らむばかりで話が進まないのは、従者たちの思惑や競合勢力の思惑を丁寧に描いているからなのですが、それはそうした内部組織、あるいは下請け企業の「協力会」のように緩やかにつながっているが一体ではない中間組織を意識し、描いているということでもあります。


 この連載の第25部分「ところで赤胴鈴之助だが」で簡単に取り上げた『最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~』は、長らく更新が止まって「(エタ)ったか? 逝ったのか?」と気をもんでいたところ、書籍版最新刊がWeb版に追いついたところできっちり更新再開されてご同慶の至りです。この主人公セイカは転生元が平安の陰陽師で、政争に巻き込まれて謀殺されたので今度は遁世を決め込むつもりが、どうしても救いたい対象が次々に現れるせいで、政治勢力と結んだり戦ったりする羽目になります。唯一の例外ユキを除いて、使役する妖は一方的に従えているものであり、会話すらほとんどないので、ライドウのように社内政治を意識する必要はありません。それとは別に固定パーティーのようになった仲間がいますが、彼女たちとの戦力差は(少なくとも直接戦闘では)隔絶しているので、保護対象といった立ち位置になってしまいます。




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