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99.シエラのやるべきこと

 その後、コウが宿に三人追加があるという方向で話をつけたという。

 部屋についてはシエラ達の使っている部屋で問題ないということにしたが、少なくとも宿の中では自由に行き来できるように、リーゼとフィリスにはウィッグが用意された。

 マーヤについては、狙っている相手がリーゼを陥れようとしている相手しかいない以上、この場においては隠す必要がない。

 リーゼとフィリスは遅れてきた生徒という扱いで、マーヤはフィリスの妹ということにしている。事情があって連れて来た、というようにコウが上手くまとめてくれたようだ。

 三人が自由に宿を出入りできるわけではないが、一先ずリーゼ達はしばらく森で生活していたこともあってか、身体を洗いたいという願い出もあって風呂場に向かった。

 シエラ達が入るには少し早い時間ではあったが、どのみちこの状況では周辺の見学などに向かっている場合でもないだろう。

 ……コウは、「私が見ておくから行って来てもいいよ」と言っていたが。

 まだ昼を過ぎたくらいで、自由時間は夕刻まである――他の生徒達が戻って来るような時間でもない。

 浴場は宿に泊まる人数に合わせて、それなりの広さがあったが貸し切りの状態に近かった。そんな中、


「森の中にいたのだから、身体はしっかり洗わないといけませんわね」

「わたしは土の匂い好き!」

「いいこと、マーヤ。今はそんな風に言っていられるかもしれないけれど、わたくしくらいの年齢になればそんなことではいけませんわ。女性としての基本的な身嗜みというものを……」

「リーゼ様、それよりも入浴は迅速に。私達はここではウィッグもありませんので」

「……分かっていますわ! フィリス、貴方はマーヤが身体を洗うのを手伝いなさい」

「承知しました」


 少し離れたところで、リーゼ達がそんな会話を繰り広げている。

 六人一緒で行動することになっても、まだ同盟を結んでから時間も経過していない。

 おそらく戦闘が可能なメンバーも、コウを含めても四人――つまり、半分しか戦力として扱うことはできない状況だ。

 リーゼやフィリスを追うのは王国の騎士達、マーヤを狙う暗殺者の存在もいる。

 はっきり言ってしまえば、状況はかなり好ましくないだろう。


(……父さんならどうするかな)


 シエラは身体を洗いながら、そんなことを考えていた。

 父であるエインズとシエラ――二人が揃えば国一つと戦うことができるとも言われる。

 そのうちの一人であるシエラがいれば、仮に騎士が集まったところで負けることはないかもしれない。

 気掛かりなのは、今一緒にいるフィリスという《騎士》。

 彼女もまた、王国に所属する騎士の一人なのだ。


(あのレベルだとしたら、何人までいけるかな……?)


 フィリスとは剣をまだ数度交えただけ。それでも、彼女がシエラとまともに打ち合えるだけの実力があることは分かっている。

 ……仮に、王国の騎士にそのレベルの人間が何人もいるのだとしたら。


(フィリスを追いかけてくる人はそれなりに強いことになる。それに、マーヤを狙う暗殺者……)


 そちらも間違いなく実力者だ。

 シエラの一撃で殺せたかどうか分からない――シエラはそう言っていたが、あの距離ではおそらく殺せていない。何となく、そんな気はしていた。


「……」

「シエラ? 手、止まっているわよ」

「あ、うん」

「……考え事? 珍しいわね」


 アルナがシエラの顔を覗き込み、そんな風に言う。

 だが、すぐにアルナが苦笑を浮かべると、


「……って、今の状況を考えれば当然よね。シエラにばかり頼って……」

「別にいいよ。私が守れるって言ったから」

「……ありがとう」

「うん。ローリィも頑張ってくれるから」

「……ここで僕に振るな。まあ、アルナちゃんの頼みなら頑張るけど」


 丁度髪を洗っているタイミングだったのか、目を閉じたままちらりとローリィが顔を向ける。

 ローリィはまだ、リーゼやフィリスに対して警戒心を露わにしている。リーゼの態度を見れば、それは仕方ないのかもしれない。

 ただ、ローリィも子供のマーヤが狙われているという状況は見過ごせないのは同じだろう。


「ローリィも、ありがとう。そう言えば、ローリィは何かお願いとかない?」

「……お願い?」

「そう、お願い。……と言っても、私にできることなんて限られているけれど」

「僕にはそんなもの、必要ないよ。……アルナちゃんと一緒にいられれば――」

「わたしはアイスが食べたい」

「今のタイミングで言うな!」


 ローリィの言葉を遮ってほしいものをねだったことで、ローリィが少し怒ったような仕草を見せる。

 そんなやり取りを見て、アルナがくすりと笑顔を見せた。


「でも、もう少し他のところも見学したい……そんな気持ちはあるわね」

「じゃあ、今度また来よう」

「お前はいつも簡単に言うな……」

「そうね。でも、まだ一日目だし。回れなかったところは、また今度行きましょうか」


 シエラの言葉にそう、アルナが答える。

 いつもはアルナを守るだけ。今回は、マーヤも含めて守る。

 だから少し難しく考えてしまうところはあったのかもしれない。


(わたしのやることは一つ、アルナとマーヤを守る)


 シエラはそう認識する。

 ……そう考えれば、難しいことなどない。

 シエラは改めて、自身のやるべきことを再確認したのだった。

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