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65.シエラ、目を覚ます

 ふらふらと、覚束ない足取りでシエラは構える。

 強い眠気で、頭は回らず目蓋も重い。

 気を抜けばまた眠りについてしまいそうだった。


(剣は、ある)


 眠った状態でも《装魔術》を維持できるシエラだからこそ、必要なのは握っているかどうかの感覚だ。

 深い眠りであったが、強く感じた殺気が、シエラの動物的本能を刺激した。

 だから、シエラは目覚めることができたのだが。


「……」


 こくり、と《赤い剣》を支えにしながらも頭が揺れる。

 敵を前にしても、まだ眠気は消えない。


「――」


 アルナの声は聞こえる。

 だが、寝惚けた状態のシエラはアルナが何を言っているかまでは聞き取れない。

 その間にも、シエラの前に佇む人形は動き始める。

 ギリギリと音を立てると、美しい女性のような顔がパクリと割れた。

 中から出てきたのは角のように生える刃と、鬼のような形相。

 腰を折り曲げて、四つん這いの格好になると、全身から刃が現れる。

 人形にも、作り手や使い手によってその特徴は大きく変わる。


(直接、操作するやつ、かな……)


 今のシエラはそれを判断できるほどにも思考が定まっていない。

 先に動いたのは人形の方だった。

 地面を抉り、身体を回転させながら跳躍する。

 高速回転する刃が音を立ててシエラに迫る。

 シエラの身体が揺れた。


「――っ!」


 アルナの叫び声が耳に届く。

 シエラは周囲を確認しながら、乱暴に剣を振るった。

 ――赤い斬撃が、弧を描いて大地を割く。

 触れた木々を綺麗に両断し、薙ぎ倒していく。

 勢いに任せたままの斬撃は、手加減が効かない。

 むしろ、狙いは定まらないままに威力だけは高かった。

 だが、人形は止まらない。

 空中で跳ぶ方向を変えたのだ。

 そのまま、シエラに向かって刃の生やした両腕を広げる。

 シエラは、人形の下をくぐるように抜けた。

 ガシャガシャと音を立てて、人形が地面を転がる。

 シエラもまた、地面を転がった。

 一度横になってしまうと再び眠ってしまうかもしれない。

 シエラはすぐに起き上がると、今度は空中へと斬撃を繰り出す。


(……物理的な糸、じゃない)


 強い眠気の中でも、シエラは必死に思考する。

 空中での人形の軌道を考えると、遠隔ではなく何者かが直接操作しているのだ。

 だが、糸はおそらく魔力によって作られたもの。

 それは細く普通の人間には目に見ることもできない。

 シエラでも、今の状態では視認することはできなかった。

 人形は再び立ち上がると、美しいメイド姿へと戻る。

 人形使いの特徴がよく出ていた――戦闘中でも、人形の使い方をはっきりと魅せるように操っている。

 まるで、はっきりと人形使いであるということを強調するかのようだ。

 だが、シエラは人形よりも別のものを気にしていた。


(丁度いいもの……見つけた)


 シエラもまた、すでにあるものを見つけていた。

 人形は地面を四つん這いのまま駆け出すと、身体に仕込んだ刃を射出しながらシエラの方へと向かってくる。

 シエラはそれをかわしながら、跳躍した。

 ふわりと、銀色の長い髪がなびいて華奢な身体が宙を舞う。

 勢いのまま、シエラは着地に失敗したかのように地面に落ちる。

 両腕を地面について、目の前にあるシエラの頭より少し大きな石に目掛けて、強く額を打ち付けた。


「シエラ……!?」


 ガンッ――大きな音と共に、アルナの驚く声がよく耳に届く。

 シエラの額とぶつかった石は砕け、シエラの額からも勢いよく出血する。

 ポタポタと垂れる血を見ながら、


「目――覚めた」


 そう呟いた。

 額から垂れる血を舐めとり、シエラは四つん這いのまま迫る人形を視認する。

 獣の構えで、シエラは低い姿勢で駆け出す。

 一歩、二歩、三歩――そこで互いに一撃を放つ。

 様々な方角から包み込むように迫る刃に対して、シエラは怯むことなく剣を振るう。

 上半身と下半身が分かたれた人形は、バラバラと刃を散りばめながら吹き飛ぶ。

 シエラはさらに剣を振り下ろし、確実に人形を破壊する。

 人形使いの後を追おうと糸を確認するが、すでにその場に魔力の糸は残されていない。

 人形が破壊されるのを見て、すぐに引き上げたようだ。


(この感じだと、人形使いは一人の手練れの方かな?)


 シエラがそんなことを考えていると、アルナがシエラの下へと心配そうに駆け寄る。


「またこんな怪我……」

「ごめん、服破れちゃった」


 アルナの心配をよそに、シエラが言い放ったのはアルナからもらった服の方だった。

 スカートは破れ、さらにシエラの滴る血によって赤く染まっている場所が目立つ。

 アルナは少し怒ったような表情をして、


「服なんていくらでも代わりはあるわ。今は貴方の怪我の方が心配よ……」


 そう言いながら、アルナが優しくハンカチで押さえてくれる。

 シエラ自身は目覚ましのために頭をぶつけたため、怪我についてはほとんど気にしていなかった。

 仮にもっと大怪我だったとしても、シエラならば気にしないが。


(これで二度目の攻撃……でも、次は確実に本体を殺す)


 シエラはそう心に誓いながら、静かに壊れた人形を見据えた。

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タイトル変更となりまして、書籍版1巻が7月に発売です! 宜しくお願い致します!
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