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42.シエラ、対抗する

「――というわけで、編入生がうちのクラスに二人目っていうのも偏りがあるけど、とりあえず自己紹介よろしく!」

「ローリィ・ナルシェです。宜しくお願いしますね」


 担任のコウ・フェベルからの言葉を受けて、笑顔で答えるローリィに、クラスが少しざわつく。

 主に女子生徒達が、その姿を見て騒いでいた。

 シエラのときもそうだったが、ローリィはローリィで実に特徴的だ。

 ――まず、制服を着ておらず、着ているのは執事服のままだ。

 まだ制服が用意できていないというあたり、編入することも突然決まったのかもしれない。


「カルトール家の執事なんだって」

「私達と同じくらい……というか、同じクラスだからそうよね」


 クラスに馴染み始めたとはいえ、まだアルナと距離感のある生徒は多い。

 そんな中、突然クラスにやってきたのはアルナの家に仕えているというローリィ。

 シエラはちらりとアルナの方を見る。

 努めて冷静な表情をしているが、手の方を見ると強く握っているのが分かる。


「はいはーい、静かにね。じゃあ、席はあそこで」

「分かりました。ありがとうございます、先生」

「次、勝手に姿消したら怒るからね」

「ははっ、肝に命じておきます」


 ホームルームの前にクラスにやってきたのも、ローリィの独断だったらしい。

 にこやかな表情のまま、アルナとシエラの横を通り過ぎると、


「それではアルナお嬢様、また後で」

「っ!」


 一言だけ呟くように言った。

 アルナの表情はやや怒っているようにも見える。

 それは普段とはまた違った表情だ。


(あまり、仲良くないのかな)


 アルナの家の事情は――シエラも聞いている。

 アルナの弟を守る者はいても、アルナ自身を守る者はいない、と。

 そのためにアルナを狙う者から、シエラが守ることになったのだから。

 その後、授業中も表向きには冷静に見えるが、シエラにはアルナが苛立っているのがよく分かった。

 一限目の授業が終わるやいなや、アルナが立ち上がってローリィの方へと向かう。


「……どういうつもりなのかしら?」

「理由はまだ話せていませんでしたね。そうですね……ではこちらへ」


 そう言って、ローリィがアルナを誘導する。

 アルナもそれについていくが――ピタリとローリィが教室を出る前に足を止めた。


「その前に、あなたは?」

「え?」


 アルナの後ろにさりげなくついていたのは、シエラだ。

 ローリィとアルナの視線を受けて、シエラも後ろを振り返る。


「あなたですよ、あなた。銀髪の」

「わたし? シエラだよ」

「名前を聞いているわけではありませんが……何故ついてこようとしているのかと聞いているのです」

「ダメなの?」


 ローリィの言葉に、シエラは問い返す。

 ローリィは少し呆れたような表情を浮かべて答える。


「これはカルトール家の話なので――」

「シエラは構わないわ」


 ローリィの言葉を遮って、アルナがそう答えた。

 ローリィは少しだけ驚いた表情をして、アルナとシエラを見る。

 スッと目を細めて一瞬、シエラを睨んだようにも見えたが、


「……いいでしょう。アルナお嬢様がそう言うのなら」


 ローリィが再び歩き出した。

 学園内で執事服のローリィと、カルトール家の娘であるアルナ。

 そして、講師を倒したシエラという異色の組み合わせは目立ちに目立っていたが――視線を振り払いながら、屋上へとやってきた。

 ローリィがそこで、またアルナの前に膝をつく。


「申し訳ありませんでした、アルナお嬢様」

「な、なに、突然……?」

「突然などではありません。僕はずっと、アルナお嬢様の護衛を志願しておりました。今回、《王位継承者》の顔合わせがあるとのことで、そのご報告と共にアルナお嬢様の護衛として、僕が派遣されたのです」

「顔合わせですって……!? それに護衛って……!」


 アルナが驚きの表情でその言葉を口にする。

 ローリィがこくりと頷いて答える。


「アルナお嬢様の身に危険が迫っていることはすでに把握しております。一番危険なときに傍にいられず申し訳ありません。これからは――!」

「シエラ……?」


 アルナとローリィの間に割って入ったのは、シエラだった。

 いつも通り表情は変わらず、無表情のままローリィに視線を下ろす。


「シエラさん、でしたか? 今は話の途中ですが」

「アルナはわたしが守るから」

「! シエラ……」


 シエラの言葉を聞いてか、安堵したような声を漏らすアルナ。

 逆に、ローリィから敵意のようなものが感じられた。


「なるほど……そういう関係、ですか」


 スッと立ち上がったローリィは、シエラに対しても笑顔を向ける。


「では、今日でその関係は終わらせてください。これはカルトール家の問題なので」

「よく分からないけど、わたしはアルナのことを守るから」

「……話の通じない方ですね。その必要はないと言っているのですよ。これからは、僕がアルナお嬢様をお守りするので」

「……必要ない。わたしがいるから」

「あ、えっと……二人とも、一旦落ち着きましょう……?」


 いつになく対抗心を燃やすように話すシエラと、相対するローリィ。

 そんな二人に対して、気がつけばアルナが一番冷静になっているのだった。

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