124.興味のあること
『ブルーウェル博物館』には多く、歴史的に価値のある物が展示されている。
特に多いのは、実際に使われていたという『武器』である。
入口からすぐに目に入るのは、人の身の丈を超える大きな剣――ガラスケースの中に飾られたそれは、威圧感を放っている。
シエラはそれを、じっと見据えていた。
(この大きさ……一応、わたしでも使えるかな?)
シエラが見るのはその剣の『歴史』ではなく、実用性だ。
剣の柄を見る限り、少なくとも小柄な少女であるシエラが扱うための代物ではない。
大の男であっても、両手でなければきっと握ることはできないだろう。
剣の大きさを考えれば、振るにも遠心力が強くなりすぎる――一対一の戦闘よりは、一体多を想定したものであると考察できた。
(でも、使い勝手はよくなさそう)
シエラは素直にそんな感想を抱く。
こんな大きな得物を使わずとも、魔力の刃を放てば、補える程度のレンジはある。
この武器では目立ってしまうだろうし、はっきり言ってしまえばあまり実用的ではない。
けれど、目の前にした威圧感という意味であれば――シエラには意味はないが、普通の人間からすれば恐怖するものなのかもしれない。
実際、アルナはこの剣を見て驚いていた。
「こんな大きな物、本当に人間に使えるのかしら……?」
「さすがに非現実的と言わざるを得ないんじゃないかな。まあ、確かにこんな物を振ることができる人間がいるのなら、かなりの強者だろうけど」
ローリィは剣を眺めながら、そんなことを口にする。
まさに隣に『振ることができる少女』がいるのだが、ローリィもさすがに、シエラがこれほどの剣を扱えるとは思っていないらしい。
実際のところ、シエラに使えない武器はほとんどないと言っていい。
父であるエインズ・ワーカーから、あらゆる武器の使い方を教わったからだ。
もっとも、シエラは一番しっくりくる上に使い勝手のいい『装魔術』ばかりを使う。
あくまで色んな武器を扱うのは、その武器の使い方を覚えることで、武器自体の弱点を認識することにあった。
ただ、さすがにエインズからもこれほど大きな得物の扱い方を教えてもらったことはない。大剣と同じような扱い方ではいけるかもしれないが。
「シエラ、次行くわよ?」
「もう少し見ていく」
「そう? なら、私達は奥に向かうから、後でついてきてね?」
「うん、分かった」
アルナとローリィは先へと向かう。
シエラは入口のところから、すでに色々と興味のある物があった。
主に武器というところに限定されるが、シエラはそこで展示されている武器の一つ一つをゆっくりと確認していた。
自分ならどう扱うか、という戦闘シミュレーションを脳内で行うため、吟味するのに時間がかかるのだ。
シエラは博物館に興味などなかったが、こういった武器が展示されているのなら、思ったよりも楽しめそうだと感じていた。
一言に剣と言っても、先ほどの大剣から、刃に『返し』のついたものや、刃自体がノコギリ状になっているものなど様々だ。
どちらかと言えば、戦闘よりも『拷問』などに向いていそうではある。
シエラは尋問や拷問と言ったものはあまり得意としない。
そもそもエインズから教わったこともほとんどなく、戦場で生きる知識の一つとして知っている程度だ。
以前にアルナを狙った暗殺者を尋問するために生かしておいたが、結果として失敗したことを思い出す。
尋問の対象が絶対に逃げたり、自死を選択できたりするような状況にしてはならないのだ。
その点については、以前のことで学習している。
今は、敵を捕らえるよりも『殺して』しまった方が手っ取り早いと考えているが。――アルナを狙う敵を、軒並み倒せば何の問題もない、と。
「あ、あの……シエラ・ワーカーさん、ですか?」
そんな風に考えていると、不意に少女の声が耳に届いた。
ちらりと視線を向けると、長い前髪で両目が隠れた少女がそこにはいた。
「あなたは……誰だっけ?」
「あ、ご、ごめんなさい! わ、わたしのことなんて、覚えてない、ですよね……」
「……?」
そう言われて、シエラは思考を巡らせる。
少女の恰好は珍しいが、どこかで見た記憶がある。革製のメイド服――ほんの少しだけだが、ここ最近の話だ。
最近は勉強に脳を働かせているおかげか、シエラも多少は物覚えがよくなっていた。
それが功を奏して、シエラはその少女のことを思い出す。
「あ、あの塔にいた人」
「! そ、そうです!」
「名前は――知らない」
「あ……」
シエラの言葉を聞いて、一瞬だけ喜んだ少女――ウイは落胆した様子を見せた。
「え、えっと、メルベル・ロックフィールズ様に仕えている者、です」
「メルベル……誰だっけ?」
「……」
二人は顔を合わせたまま、静かに沈黙した。
シエラの記憶力に期待してはならない。





