etc1.水着選び
「この服が動きやすそう」
「それは服じゃなくて水着よ。それに、これだとほとんど下着じゃないの」
「水着?」
アルナとシエラは、休みの日に買い物にやってきていた。
気付けば布地の薄い下着が並べられた場所にいる――シエラが水着を手に持って、首をかしげた。
「この辺りで海となると、南部の方にくだったところになるかしら。川でも使うかもしれないけれど」
「そうなの? 別になくても大丈夫だと思うけど」
「なくてもって……裸ってこと?」
「うん」
「うん――じゃないでしょう! 海でも川でも裸なんて、その……破廉恥なことだから」
「はれんち?」
アルナは視線を逸らして顔を赤くしながら、こくりと頷く。
シエラが相変わらず、きょとんとした表情で水着を見ている。
――他の大陸にも渡っているシエラならば、海にも当然行ったことはあるだろう。
だが、彼女の話を聞く限りでは、きっと遊ぶ目的で海には行ったことはないのかもしれない。
「そう、ね。機会があれば、一緒に海にも行ってみたいわ」
「! アルナは海に行きたい?」
「シエラと一緒にね。せっかくだから、買っていきましょうか。川遊びにも使えるから」
「うんっ」
アルナの言葉に、やや食い気味に頷くシエラ。
『川遊び』という言葉に大きく反応を示していた。特にシエラは遊ぶことに関してはどこまでも前向きだ。アルナは苦笑いを浮かべながら、店内にある水着を見ていく。
「シエラはこれなんかいいんじゃないかしら?」
「どれ?」
アルナは一つの水着を手に取る。
黒の水着で、胸元はレースのようになっている。
それをシエラに手渡すと、
「かっこいい」
「……可愛いの方が正しいんじゃないかしら?」
シエラの第一声はかっこいい――アルナの思っていたものとは違った。
だが、シエラはその水着を持って、早速その場で制服に手をかける。
「――って、ここで脱いだらダメよ!」
「……? 試着してもいいって言ってたよ」
「そこは覚えるのね……。きちんと『試着室』があるでしょう。そこで着替えないとダメ」
「そっか。でも、アルナが選んでくれたからわたしはこれでいいよ」
着る前からそんな風に答えるシエラ。
アルナが選べば何でもいい、と答えてしまいそうだ。そこがシエラらしいところなのだが。
「一先ずサイズも合わせないとね」
「じゃあ、アルナのはわたしが選んであげる」
「シエラが?」
「うん、待ってて」
シエラが頷いて、並んだ水着に視線を向ける。
シエラの感覚は普通の人間とは異なる――それは、アルナもよく分かっている。
けれど、シエラが選んでくれた物ならば、アルナも喜んで受け入れるつもりだった。
「これ」
――そんなシエラが選んだのは、とんでもなく布地の少ない水着であった。
いや、もはや水着なのかどうかもアルナには判断できない。
大事なところはかろうじて隠せるレベル――アルナはそれを見ただけでも動揺してしまう。
喜んで受け入れる、と先ほどまで考えていたアルナの気持ちが一瞬で揺らいでしまうほどだった。
「シ、シエラ……? さすがにそれは、ちょっと……」
「……ダメ?」
「うっ、えっと……」
頭ごなしに拒否することもできるが、シエラの表情は少し悲しそうに見えた。
いつも無表情だからこそ、わずかな変化でもアルナには伝わってしまう――もちろん、喜んで受け取りたい。だが、よりにもよって、こんな布地の少ない水着を選ぶとは予想もできなかった。
アルナは一先ず冷静に、シエラがこの水着を選んだ理由を尋ねることする。
「どうしてこれを……?」
「アルナに似合いそう」
「似合……!? こ、これは私には少し刺激が強いと思うのね……?」
「刺激?」
「そう、もうちょっと、もうちょっとだけ布があった方が、私は、好きかな……って」
歯切れ悪く、アルナは続ける。
シエラはアルナの意図をくみ取ってくれたのか、理解したように頷くと、
「じゃあ、こっち」
――子供用の露出の少ない水着を選んでくれた。
アルナはまた、苦笑いを浮かべながらそれを見る。
「……ダメかな」
今度はアルナの表情をはじめから読み取って、シエラが確信したように呟く。
少ししゅんとした表情に、アルナも申し訳なくなってしまう。
アルナはシエラの手を取ると、
「……私がわがままでごめんなさい。シエラが選んでくれるならどれも嬉しいわよ。だから、もう一回だけ選んでくれる?」
アルナの絞り出した選択――それは、シエラにもう一度水着を選んでもらうという賭けのようなものだった。
シエラがアルナの言葉を聞いて頷くと、再び並べられた水着の方を向く。
……明らかに『普通ではない』水着に視線がいきそうなシエラの注意を引きながら、アルナは無事に白のビキニを獲得するのだった。
7/25の第一巻発売記念SSとなります。
水着を選ぶアルナとシエラの日常回です!
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