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僕たちの愛羅武勇

──それは、史上最悪のラブコメ。


私立三日月学園高等学校。

そこは山奥に存在する県内最低偏差値の全寮制の男子高校。

時代の流れか生徒数が減り廃校危機にある三日月学園は来年度から共学化すべく試験編入という形で街中にある太陽女学院へと生徒を送り出すことを決めた。

異性と会話する事なく悶々とした青春を送っていた三日月学園の生徒達は歓喜の声を上げ、民主主義という名の暴力による【選別の儀】を行っている最中、高遠飛鳥は生徒會長に呼び出された。

「女装して編入しろ」という會長の命令に逆らえない飛鳥の飛鳥の明日はどうなる!?

史上最悪。第一話に女子が存在しない男臭さ純度100%のラブコメここに開幕。



「なぁなぁ、高遠。この匂いどう思う? モテるかな?」

「トイレの芳香剤を香水替わりにするのはやめろ。普通に臭い」

「高遠……この髪型どうよ? 街ではマッシュってのが流行ってるんだよな?」

「マッチョな河童にしか見えないから坊主頭にしてこい。まだその方がマシだ」

「ヘアピンってどうつければいいんだ?」

「角刈りのお前には一生必要がない」


 酷い景色だった。

 夜の教室で間違いだらけのモテ理論を振りかざす同級生達にため息しか出てこない。

 その他にもバリカンで眉毛の手入れをしようとして消滅させた奴。何故かアイプチを始めた奴。十人十色で全員バカという救えない状況を嘆きたい。

 

「高遠……! 俺を蹴ってくれ! 頼む!」

「気持ち悪い!」


 興奮しながら近づいてきた同級生を護身の為持っていた木刀で殴り飛ばす。

 「うおおおおおお!」と謎の喝采が上がる。同級生たちの視線は僕の下腹部に集中していた。

 ああ、と自分の格好を認識する。僕は今セーラー服を着ている。ご丁寧にウイッグまでつけて。

 

「なんで僕がこんな目に……っ!」


 ──何故こんな最悪な事になったかというと、話は今日の午前中まで遡る。











 八月の頭。

 風一つ吹き込まない体育館。

 全校生徒は未だに学ラン着用。


 これだけで、現状がいかに酷いものであるかがお分かり頂けたであろう。

 彼らが自主的に学ランを着ている中、僕だけが指定された夏服のシャツを着ている。


「……まだ【選別の儀】は始まらんのか……っ!?」


 隣で毒づく同級生は、暑さに耐えられず肩から袖部分を切り落としてしまっている。

 所謂ノースリーブの学ランだ。彼が今冬どう過ごすのか見ものである。

 苛立ちは周囲に伝播し、他の同級生や後輩もむずむずしてきたようだ。性質が赤ちゃんや獣に近いものを感じる。しかし、その苛立ちが頂点に達しようとした時、僕達が集められていた体育館のドアが開いた。


「「「「「「「押忍っっっ!!!!!!!!」」」」」」」


 野太い獣達の声が重なる。先輩方のお出ましだ。

 この学校の生徒會の先輩方だ。この人達も例に漏れずバカなので学ラン着用なのは言うまでもない。

 全員身長百八十超えの筋骨隆々、顔に傷やら髭やら、容姿はどうみてもカタギではないし十八歳でもないしオッサンにしか見えない。


「それでは、選別の儀を始める……! が、その前に知将・高遠。前まで来い」


 會長閣下の言葉にその場に居た全員の視線が僕に集まったので立ち上がる。

 【知将・高遠】僕につけられた悲しいあだ名だ。

 一年次の中間テストでこの学校創立から初の全教科満点をとった事から来ている。義務教育をきちんと終えていれば余裕なテストだった事は言うまでもないだろう。昨年、僕の入学と共に赴任してきた数学の先生が分数の割り算をテストに出したら、赤点続出、阿鼻叫喚の騒ぎになった事は記憶に新しい。


「押忍! 二年、高遠飛鳥! 参上致しました!」


 前時代的な挨拶を終え、安めの姿勢を作る。

 正直、自分の高い声はあまり好きではない。この野太い声しか出せない集団にいると猶更目立つ。

 尚最悪なのは、自分の声を聴いてうっとりしている人間が居る事だ。テノールとバスしか存在しない音楽の授業を受け続けていると、脳に甚大な損傷を受けるのが見て取れる。


「貴様をこれより、女子と仲良くする會の會長に任命するっ! 選別に残った者は高遠を中心とし、使命を果たすように!」


「押忍! 身命を賭して職責を果たします!」


「うむ。それでは選別の儀、始めェッ!!!」


 意味がわからないまま勢いで返事をする。

 この学校において先輩方からの指令は絶対だ。意味がわからずとも兎に角返事。頭が悪くてもこれさえできれば生きていける。同時、背後で獣と化した同級生と下級生達が奇声を上げながら殴り合いを始めた。

 この学校における民主主義の表現の一つだ。強い奴が正義。生徒會長も、学級委員も、部長ですらも暴力で決まる。人である事を半ば放棄しつつある彼らを冷めた目で見ながら僕は、會長の「来い」とい指示に従い、体育館を後にした。



  ♦♦♦♦






 私立三日月学園高等学校。

 地球最後の男達の楽園だ。公共交通機関が存在しない僻地の山奥に全寮制の高校としてその学校は或る。

 力の有り余ったチンパンジーに近い子供たちを全国からこの娯楽の存在しない山奥へと集め、その青春の全てをスポーツに捧げさせる事により多くのアスリートを輩出した名門校であった。

 しかし、そのやり方に味を占めた三日月学園はいつしか時代に取り残されていった。前時代的な指導。県内最低レベルの偏差値。頭の良さより血の気の多さ。この学校が無駄にうさぎ跳び2時間やっている間に、他の学校は科学的なトレーニングを取り入れ進化をしている現代において三日月学園は大会で結果を残す事ができなくなっていた。

 あれよあれよという間に入学者数は年々減り、僕のような訳ありの生徒や世間に見放された人間が集う地獄のような学校となり、気が付けば廃校騒ぎ。スクールアイドルでもやって入学者数を増やそうにも顔も頭も悪い男しか存在しない為、もはや救いようがない悲しき教育機関となっている。


「高遠。──貴様は顔が良いな」


 この学校において僕はモテる方の部類だ。

 自分の中性的な容姿は昔はからかわれるだけで嫌なものだったが、この学校に来て認識が更に悪化した。

 角度によっては女性に見えるという事で、僕が着替えている写真が学校内で高値で流通している事を知った時の気持ちを想像してみて欲しい。


「押忍。この学校ではあまり気持ちの良いものではないですが……」

「貴様の写真を見て俺は確信した。貴様こそが、今回の【試験編入】の救世主となるとな」


 試験編入──これがこのクソ暑いというのに体育館で殴り合いをするハメになった最大の理由だった。

 入学者数が年々減り続けている三日月学園はついにこの度、経営母体が同じ太陽女学院と合併し、男女共学高校への道を歩み始めた。その為の第一歩として、夏休み明けから我ら三日月学園の生徒達が太陽女学院へと二学期の間試験編入する事になったのである。

 行ける人数は一年生二年生合わせて30人程。その権利を賭けて獣達は今、体育館で殴り合っている。もうこの時点で失敗する未来しか見えなかった。


「僕がですか?」

「聞いた話によれば、貴様は異性との交際経験があるそうだな?」

「ええ……。中学生の頃ですかね。高校生と付き合ってました」


 會長閣下。自分で質問しておいて機嫌がなるくなるの本当にやめてほしい。目に殺意の光が宿っている。


「……まぁ、貴様の経歴からいえば妥当だな。元だが、世代別日本代表にまで選ばれてモテないわけがないからな……っ!」


 僕は知っている。會長閣下も柔道ではあるが、世代別日本代表だという事を。

 僕は知っている。會長閣下は顔が凶悪過ぎて自分の妹ですら目を合わせてくれない事を。

 昔の事はあまり話すのは好きではないので、とりあえずその件については返事はしないでおく事にした。

 

「貴様を女子と仲良くする會の頭にすえたのは他でもない。選別に残った奴らの暴走を止める事。犯罪を防ぐ事。この試験編入を成功させる事を頼みたいからだ」


「……わかりました。それで、目の前にあるこれは何ですか?」


 會長閣下に連れられて来た先は生徒會室だ。真面目な話をして気にしてはいなかったが、目の前には女子の制服とウイッグが置いてある。嫌な予感しかしない。


「貴様は女子生徒として試験編入に参加しろ。上手く女子の輪の中に溶け込んで問題を起こさないようにするのだ」

「男子校なのに女子が編入って無理がありませんか?」

「貴様は知らんだろうが、この学校は元々共学校だ。女子が入学してこないだけなのだ。まぁ、工業高校みたいなもんだな」

「そんなバカな……! それに、先生だって許すわけないでしょう!」

「引率の稲垣教諭は既に買収済みだ。校長とも取引をして話はつけてある。向こうだって、成功はしてほしいだろうからな」

「そんな……っ!」

「拒否権がない事もないが、この学校のルールはお前もわかっているだろう?」


 力こそが正義。目の前の會長閣下は一年から生徒會長の座に君臨する化物だ。僕が勝てる筈もない。やるしかないのだ。


「わかりました……。身命を賭して職責を果たします」

「うむ。夜に再び体育館で選別者達を集めて会議を行う。貴様も女子の恰好で参加しろ。奴らに異性への耐性をつけなければならん」


 會長閣下が制服とウイッグ。そして化粧品やら何やらが詰まったバッグを渡してきた。

 あいつらの場合マジで襲ってきそうだから困る。仕方がないのでウイッグをかぶり、シャツを脱いで制服の上着だけを着て鏡を見てみる。


「やば……僕可愛いな」

 

 髪型一つでここまで変わるのかというぐらいの変貌っぷりだ。化粧までしたらどうなるのだろうか。

 自分のポテンシャルが怖い。綺麗になる事がこんなにも高揚するだなんて思いもしなかった。

 會長閣下も僕の出来に満足しているのか、少しだけ目が怖い。


「流石の破壊力だ、高遠。試験編入を頼むぞ」


 こうして僕の最悪の女装潜入作戦が始まった。

 燻り続けてこのまま男達の園で静かに終わっていく筈だった僕の青春が、再び動き出す気配がした。









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― 新着の感想 ―
[一言] 高遠は学校に合わなそうなのにわりと適応しているのが、謎です。
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