第五話 そこにパフェがあるから
その夜。
王都に来た目的『女王に会う』が空振りに終わり、今も尚連絡がこない。
となると、
「さーて、どうしたものか……」
掲げた夢、魔法使いになるために行動することがベストなのだろうが、そう簡単なことではない。
そもそもの大前提として、魔法は一家相伝のものがほとんどだ。魔法の適正が血によって受け継がれやすいという背景から形成されたこの格式は、魔法使いでない家の人間を魔法使いにするということに対して非常に不向き。
手っ取り早い方法としては魔法使いの家に弟子入りするというのが一番なのだが、古くから存在する有名な魔法使いの家系であればあるほど、その魔法を秘匿したがる傾向にある。
俺は勿論魔法使いになりたい。だが、魔法使いになれさえすれば何でも良いわけではないのだ。
魔法使いになった上で、あの望みを達成したい。そのためには、少しでも魔法への造詣が深い魔法使いに弟子入りしたい……。
だが、貫禄のゴミ魔力のせいもあって、俺には魔法使いのコネがない。
強いて言うなら、元パーティーメンバーのホマがそれに当たるが……
「アイツ、宮廷魔法使いの出なんだよなあ……」
宮廷魔法使い――――昔、何代か前の王が作ったと言われている、魔法研究のための王の直属の組織。一般的な魔法使いと違って、それぞれ己の魔法を持ち寄って共有することが前提のため、魔法の幅が段違いだ。
俺の目的からすれば宮廷魔法使いが一番適しているのだが、個人的に良い印象を抱いていないために却下である。
そのせいでホマと仲良くなれなかったのは、少し心残りではあるが。そうしていれば、他のメンバーとの関係性も変わり、クビなんてことは発生しなかったかもしれない。
そんな今更すぎることを考えながらも、俺はとある酒場に入店する。
「おっ、アインちゃん久し振り! いらっしゃーい!」
俺を見るなり笑って手を振る少女は、酒場『賑やか島』のオーナーの娘、カリファ。快活な赤毛の少女であり、気配りもできる良い子だ。
その名に違わず『賑やか島』は毎夜繁盛する人気の酒場。その理由はオーナーの料理は勿論、接客担当のカリファ目当てで来店している客もいるほどだ。
「あれ? いつも髪縛ってなかったっけ? 髪型変えたの?」
「あー、髪留め無くしちまってな」
流石カリファ、客をよく見ている……まあ、こんな酒場に見た目幼女の俺が来たら目立つし、そりゃ覚えるか。
いつもは戦いの時に邪魔にならないようにポニーテールにしているのだが、今はその髪留めがないため放っておいている。因みに髪を切るという選択肢はない。絶対にない。髪を切れば幼女から少年にイメージが変わるかもしれないが、それでも絶対に切らない。
ともかくカウンター席に座り、いつものように注文。
「ヘブンフィッシュの唐揚げとピュッチャジュース」
「かしこまりました!」
曰く、『天国に行けるほど美味い』と言われる魚、ヘブンフィッシュ。その唐揚げと、酸味のあるピュッチャという果物のジュース、これがまた合うのだ。俺は『賑やか島』に来る時は、毎回これを食べている。
俺も成人男性、ここは酒場。本当は唐揚げに酒を合わせたいのだが、周囲から『え? 飲ませて大丈夫なの?』みたいな視線を感じれば、美味い酒も進まないので仕方ない。
●
食べ終わる頃には、酒場にとっていい時間帯、飲みに来た常連たちに、本格的に酔いが回る頃合いだ。
「美味かった……」
俺は恍惚とした表情で食器を置く。
俺は今、ヘブンを見ているのかもしれない。勇者パーティーとして進軍していた間は携帯食料ばかりだったので、久々に食べる唐揚げは天国の味がした。
「ねえねえアインちゃん、まだお腹に余裕はある?」
そのタイミングを見計らったかのように、カリファがカウンターから話しかけてくる。
俺の体は子供、胃袋も小さいため大人よりは少食である。だが、普段から体内でアホみたいな量のエネルギーを消費しているからか、そんじょそこらの子供とは比べ物にならない程度には食欲がある。
「おう、まだ食えるぞ。何売ってくれんだ?」
「察するのはっや……最近パパがデザート作りに凝っててさあ、試作品を私に食べさせるんだけど、私甘いものあんまり好きじゃなくて……」
「マジ? 食うわ。いくら?」
「試作品だからタダでいいって。パフェなんだけど、好き?」
「めっちゃ好き。オーナーの次に好きだぜ」
俺の食いつきっぷりが面白かったのか、カリファは笑いながら厨房へと入っていった。
他の常連でも良いところを、デザートは俺で試すあたり、やっぱり俺って幼女だと思われているんだろうな、と思いながらも胸の高鳴りが止められない。やはりこの体だからなのか、俺はかなりの甘党なのだ。
今までデザートはピュッチャを丸ごと食べるくらいしかなかったため、偉大なるメニューの進化の兆しに拍手を送りたくなる。『賑やか島』はまだまだ賑やかになるぞ。
「……ん?」
パフェを待っている間、俺はふとカウンター席の端へと目を向ける。
そこに座っていたのは若い黒髪の女性。連れはいないらしい。特に何か食べるでもなく、ピュッチャジュースをちびちびと飲んでいた。
なんだか酒場を楽しめていないような気もするが、他人にそこまで思われる筋合いすらないだろう。
とは言っても少し違和感が――――
ガシャン!
「おいおいおい、何してくれてんだあ? 服が汚れちまったじゃねえか」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
何やら音がする方を向くと、テーブル席のあたりで、明らかによっぱらっている大男が、カリファに詰め寄っていた。
状況を見た限りで察するに、どうやらカリファと大男がぶつかってしまったらしい。いくつかの皿やコップが床に散らばっている。
「どう落とし前つけてくれるんだ?」
「ごめんなさい、お詫び致しますので、ひとまず床の掃除を……」
「ああ?」
すげえ、カリファの肝が座りすぎて、大男相手に全然屈してない。酔っ払いとの場数が違うもんな。
まあ確かに、床に皿の破片とかが散らばってると危な――――あれ?
「ナメてるとブッ飛ばすぞゴラァ!」
「きゃっ!」
カリファの態度が気に障ったのか、大男がカリファを突き飛ばす。悲鳴をあげたカリファが体勢を崩して尻餅をついた。
「今日の飯をタダするのは当然、服の弁償代も貰おうか。ざっと10万ゴルダってところか?」
男の来ている服が貧相というわけではないが、まったくそんなに高い服には見えない。だが、さも払うのが当然かのように男はカリファを見下ろす。
「そっちからぶつかって来たんだから、払うのが当然だよなあ?」
「あの、そもそもあなたが酔ってぶつかって――――」
「俺は客だぞ! 接客風情が逆らうんじゃねえ! 酷い目に会わされてえのか!?」
そう捲し立てる大男を見て、俺は静かにカウンターの席を離れ、カリファとの間に立つ。
「あ? なんだガキ」
「やめろ。カリファがぶつかったのかもしれないが、酔ってるお前の注意不足でもあることくらい分かれ。脳が図体に比例してねえのか」
おっと。余計なことまで追加で言ってしまうのは、俺の直すべき悪い癖だな。しかし、今回ばかりは言葉を選ばない。
「ああ!? ガキは引っ込んでろ! ブッ飛ばされてえのか!?」
「それはこっちの台詞だ。カリファにノータリンが酔っ払ったとき特有のダル絡みしてんじゃねえよ。それに――――」
俺は床に座り込んでいるカリファ――――の近くに散らばった皿の一部を見る。そこには、白くて、いかにも甘そうな何かが落ちてしまっているのだ。あれは何だと思う?
「俺のパフェに何してくれてんだぁ!?」
そう、俺は結構ブチ切れていた。
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