第十七話 寄生魔物
テトが施した聴覚強化の持続時間は3分程度。既に2分弱消費しているため、残り1分程度でマッティスに追い付かなければならない。だが、差は縮まっているものの、やはりマッティスの走力が想像よりも強いと確信していた。
運動が苦手なフリをしていたのか、魔道具を用いているのか――――恐らく後者だと結論付けるティムは、木々の間を爆走する。
全身への強化魔法の持続時間は、聴覚よりも長い5分。残りは4分程度だ。しかし、余裕はない。
走力が魔道具で補強されている以上、魔道具による何らかの自衛手段も整っていると考えるべきだ。万が一戦いになったとしたら、状況次第では手こずる可能性もある。そして持続時間が切れたら、逆にティムが不利ですらある。
しかし、アインはもっと危険なことを請け負っているのだ。テトを連れてこれなかったことは痛いが、それでも全力でやるしかない。
自身を鼓舞するティムの耳に、足音が鳴り響く。
この距離なら――――
「い、たァ!」
残り十数秒。ギリギリのタイミングで、視界にマッティスを捉える。強化魔法の残り時間は3分。ティムは油断なく剣を抜き、迫った。
逃げ切れないと悟ったのか、立ち止まったマッティスがゆっくりと振り返る。
しかし、それが観念しての停止ではないことは、振り返るマッティスの表情から読み取れた。
「強化魔法ですか。恐らくあの使い魔によるものでしょうか? やはり実に興味深いですねえ――――ですが」
マッティスが右手をティムに向け――――突如指が伸びた。
ただの指であるはずのそれに、ティムは鋭利な刃物を想起する。強化魔法での身のこなしで3本の指を回避し――――2本の指が脇腹を貫通した。
「ぐぁ……!?」
「ふむ。強度は申し分なし。後は私の扱い次第ですね」
マッティスの指が収縮し、ティムの体から指が抜ける。普通の長さに戻った指を眺めながら、マッティスは呟いた。
ティムはテトを、そしてテトの魔法を信頼している。
そんじょそこらの魔法使いよりも強力な魔法を、テトが使えることを知っている。だからこそ、指が伸びたという事実は勿論、強化魔法を施した体をいとも容易く貫通して見せた指に、驚きを隠せない。
脇腹の痛みに耐えつつも、ティムは再び剣を構える。事を構えなければいけないのは確定した。なんとしてでも、自分がやらなければならない。
しかしマッティスは、楽しそうにティムに聞く。
「そうだ、一度あなたとは話がしたいと思っていたんですよ。同類として」
「同類……!?」
「あなた、契約魔法の使い手でしょう?」
一々マッティスの話を聞いている時間は、ティムには残されていない。しかしマッティスへと振るう剣は、両手から伸びた10本の指に阻まれる。
契約魔法。それは、主と使い魔の間に必ず交わされる魔法。使い魔がいるということは即ち、契約魔法の使い手であることを意味する。
だからといって答える意欲が湧くわけもなく言葉を発さないティムだったが、マッティスはそれを肯定と受け取ったらしい。
「私も同じ契約魔法の使い手として、聞きたいことがあったんですよ」
「……」
「自分の思い通りに魔物を使い潰すって、どういう気持ちなのかなってね」
ティムが目を見開き、時間がないにも関わらず、思わず立ち止まる。
「何だと?」
「魔物が自分のために命をも投げ捨てて礎になってくれることに対する私の愉悦や快感は、あいにく他人から理解を得られたことがなくてですね……同じ契約魔法を持つあなたなら分かってくれると――――おっと」
「もう一度、言ってみろッ!」
完全に激昂したティムの剣には、相手を生かしておこうという慈悲は既に消えている。しかし、それでもマッティスの指は突破できない。
「先程のアイセンティ・ピーグとこの両腕――――『ワイダー・グリッパーズ』は、私が作り出した人工魔物なんです。いやあ、人工魔物はいいですよ。創造主が一方的な契約を結べる。一切の意思を介在させず、文字通り私の腕として扱うことだってできました」
「黙れぇ!」
「あなたも同類でしょう、一方的に使い魔に魔法を使うよう命令し、自身で研鑽を積むことはしない」
恐らく剣の技量について話しているのであろうマッティスは、冷静にティムの剣を弾き、再び体を指で貫く。
しかし、ティムから怒りは消えない。それは恐らく、マッティスの指摘の……研鑽の部分。
ティムは、自分には能がないことを自覚している。兄に憧れて持った剣も下手の横好きでしかなく、テトの強化魔法がないとまともに戦うことすらできない。
障害物にしかなれない、というのは誇張ではない。
ティムは、ひたすらに弱者だった。
「剣の速度が落ちてきていますね。そろそろ持続時間が切れる頃合いですか?」
ティムが膝から崩れ落ちるのを見て、嘲笑うマッティス。
事実、強化魔法を施してから、4分30秒が経過しようとしていた。もうすぐ、その加護から離れる。
「遺跡でも刺して、今も何度も刺されているというのに、意外とガッツありますねえ。それとも強化魔法のお陰ですか? 聞きたいことは聞けましたし、終いにしましょうか」
その言葉を聞き、ティムは焦る。
せめて王都へ入られないようにしなければいけない。でなければアインやレイたちに合わせる顔がない。
だからティムは、切り札を――――切らずに、見せることにした。
2000文字って、ひょっとして少ない……?
『ワイダー・グリッパーズ』
腕型の人工魔物。マッティスが、契約魔法を用いて自身が効率よく強くなる方法を考えたとき、自分の体を魔物として創造することだった。ひとまず腕を人工魔物に置き換えることには成功している。ゆくゆくは両足にまで置換させるつもりだった。
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