第十三話 因みにレイはムカデが苦手
その光景を目の当たりにして、脳が異常に回転しているのを感じる。
ティムが刺された箇所は腹、急いで治療すれば命の危険性はないだろう。しかし、主を刺されたテトも、振り返ったレイも動揺してしまっていて、すぐに動けそうな気配はない。
何故マッティスがティムを刺したのかは分からないが、今理由はどうでもいい。
列の最後尾だったティムを刺し、今まさに階段を駆け上がって逃げようとしているマッティスを捕まえることが最重要だ――――
「待てァ!」
「断ります」
俺が階段を蹴り上がり、最高速で突撃――――してしまうとマッティスが死にかねないため、そこそこの速度で迫る。
しかし、マッティスはその瞬間、冷静にもう片方の左手に持っていた水晶のようなものを砕いた。
俺の体はマッティスに到達せんと迫り――――見えない壁のようなものにぶつかって弾かれた。
「痛って……!」
一瞬頭が混乱するが、恐らくさっきの水晶が使い捨ての魔道具とかで、その効果が、不可視の壁を作るといったものなのだろう。
しかし、不可視だろうが壁は壁。壊れないわけじゃない。俺の馬鹿力なら何とか――――
――――冷気。
階段の奥の暗闇から何かを感じ取った俺は、急いでレイとティムたちの前に躍り出る。
「餌の時間ですよ! アイセンティ・ピーグ!」
そのマッティスの声の意味を理解する前に――――階段の奥から轟音と共に現れた氷山が、唸り俺たちへと襲う。
「うおぉぉぉぉぉ!?」
俺はそれを素手で受け止め――――掌の痛みに耐えながら、なんとかレイたちの手前でそれを受け止める。
その正体は、巨大――――というより圧倒的な体長を持つ魔物。
節足動物特有の足がずらりと並び、その数は100に達するほど。しかし、体高だけでも俺は勿論、マッティスなども優に越える。
そして、その体の全てが――――氷の結晶で構成されている。
その硬度は一般的な氷などでは話にならない。それも氷山――――大自然を相手にしているような絶望すら感じさせる硬度。
その体躯を揺らす度に冷気が漂い、空気中の水分が凍結する。
――――強い。魔王軍が使役していてもおかしくないほどに。
そして、俺たちを罠に嵌めたであろうマッティスは、不可視の壁での時間稼ぎもあってか、とっくに逃げ出している。恐らく、このアイセンティなんたらに巻き込まれないためだろう。どちらを優先すべきか――――どちらもだ。
俺は、両手で受け止めていたアイセンティなんたらを力ずくで蹴り飛ばし、怯ませる。
そしてその隙に、
「壊れろォォォァ!」
俺の全力の拳を、不可視の壁に叩きつける。すると、ガラスが砕けるような音と共に、その場にあった抵抗が消え去った。
「嗚呼、痛え! アイン、どうする!?」
すると突如、腹を刺されて倒れていたはずのティムが立ち上がった。
まるで腹を刺されたことなど意に介していないかのように、すぐさま俺に意見を聞いてくる。
「は、お前、無事なの!?」
「いやあ無事だった! どうするよ、この明らかにヤバそうなの?」
ティムはそう言いながら、剣の柄に手をかける。
まあいい。見るところ、ティムも痩せ我慢しているわけではなさそうだ。無事なら無事で、せかせか働いてもらおう。
「レイ、ティム、テト! お前らは今すぐマッティスを捕まえに向かってくれ!」
「え、あの、アインさんは!?」
「俺はこのムカデの相手をしなきゃならねえ!」
不可視の壁は砕いた。ならば、マッティスを追うことも当然可能だ。今ならまだ遠くへ行っていないだろう。
「いくらアインでもそれは無茶だろ!」
「あの顔を見ろ!」
俺は指で、アイセンティなんたら……ちょっと名前が被ってるんだよクソが、冷えムカデの顔を指し示す。
そこには、体温の低さのあまり、口の下に貼り付いた何かがあった。しかしそれは、冷凍されているからか、生前からほとんど変わらない見た目をしていて――――
「……人間の、手?」
「マッティスは餌とか言ってたろ、もしこのムカデが人を食ってるとしたら、マッティスの役割は餌の供給! マッティスがこのムカデを管理しているのはほぼ確定したが、マッティスが管理している魔物が、このムカデだけとは限らない! 今マッティスを逃がしたら、また被害者が生まれるかもしれない!」
滑舌が試される早口で、何とかレイとティムに意志疎通を図る。
直後、怒り狂うように咆哮と冷気を放ちながら再び突撃してきた冷えムカデを、パンチで迎え撃つ。
何とか衝撃は殺せたが、冷気が地味に辛い。例によって強靭な俺の体は、一度触れたら肉が貼り付きかねないほどの冷気にも耐えているが、さすがに何度も触れたら不味いかもしれない。
俺は服の裾を千切り、手から腕にかけて布切れを巻く。効果はほとんどないだろうが、まあ無いよりマシだろう。
「一番最悪のパターンは、このムカデが王都まで出てきちまうこと。ただでさえあのムカデは餌が反抗してきてお冠だ! 食い止める役は絶対に必要。そしてそれが出来るのは、残念ながら多分俺だけだ」
「…………分かった」
ティムが深い沈黙の後に頷く。ここで決断が早いのは良いことだ。レイにはない要素を、確かにティムは持っている。
「じゃあ、頼んだぞ!」
「死ぬなよ、アイン!」
ティムがまだ少し逡巡の残るレイの腕を掴み、階段を駆け上る。良い子だ。
餌が数匹逃げていることに怒り心頭の冷えムカデは、冷気を撒き散らしながら再び突撃する。芸がないな。
誠に遺憾ながら、俺の二つ名は『城壁のアイン』。先のようなワイルドウッズのような集団戦ではなく、今回はタイマン。
食い止めることには定評があるし、何より俺は勝つ気でいる。こんな危険な魔物、放置しておけないからな。
「ここは遠さね――――え?」
芸のない突撃の繰り返しに、こちらも再びパンチで返そうとしたその時、冷えムカデの顎が器用に俺の腕を掴み――――引力。
「うおあああああっ、マジかよ!?」
そのまま引き摺られるように、俺は階段の奥、遺跡の深部へと引き込まれていった。
アイセンティ・ピーグ
マッティスが育て上げた魔物。めっちゃ強い。
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