33 ルキウス日記「その威厳揺るぎなし。来たれ復讐の時」
〈記録日時:王の果実確保後〉
ついに私は――伝説に残る“果実の王”を、この手に収めた。
その存在感は、抱き上げた瞬間に理解した。
重い。
しかし、その重さは“質量”ではなく、玉座の威圧だ。
果実は、ただそこにあるだけで周囲の空気を震わせていた。
隊員たちは一歩たりとも近寄れず、ただ遠巻きに敬意と恐怖を滲ませた眼で見つめるのみ。
当然だろう。
王は、ただの庶民に容易く姿を晒すべきではない。
その気高き気配が、すでに格の違いを教えている。
もっとも本音を言えば、“世界に一つしかないため砲にぶち込んで試射などできるはずもない”
という実に俗っぽい理由もあるが――それを私が日記に書く必要は、ない。
果実の正体を知るべく、私は期待に胸を躍らせ、最高機密端末でこの果実のデータをスキャンした。
数秒の沈黙の後、表示されたのは……。
【解析結果:果物の王様・ドリアン】
【詳細情報:アクセス拒否。最高管理権限が必要です】
…それだけだ。
解剖図も、成分詳細も、生成因子もない。
私の師団長権限でさえ、奥深い階層にはアクセスが許可されなかった。
私が閲覧できない?
この私が、だと?
そんな馬鹿な、と言いかけたが……私はすぐに悟った。
「……クク、クハハハハ!」
思わず笑いが込み上げた。この私の、帝国師団長たる私の権限を以てしても閲覧不能だと? つまり、この果実の真価は、帝国の軍事機密すら超越した「神の領域」にあるということだ。あるいは、あまりにも高潔な美しすぎて、既存の言語では記述不可能ということか。
たった一つ、この手にある唯一無二の宝石。 試射などという無粋な真似は必要ない。王の力とは、振るわれる前から勝利が約束されているものなのだから。
私は満足した。
これは本物だ。
この威厳、この秘匿性、この徹底したベール。
まさしく王の風格。
あぁ……愛おしい。
この“王”を砲に装填した暁には、
私の美学は次元を超え、全てを跪かせる。
そして今。
私は部隊に命じた。
「目的地――都市アスパーム。美の敵に、審美の裁きを下す。」
すべてはこの瞬間のため。
私の美を一瞬でも否定したあの都市へ。
私は“王”を伴って帰るのだ。
いざ、リベンジの時。
世界よ、震えよ。
私の美が、ついに覚醒する。
――ルキウス・ヴァレンハイト
(美学の体現者/真なる果実王の伴走者)




