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31 ルキウス日記・「我が美学は不屈なり」



(機密指定:極秘/本人以外閲覧禁止)

〈記録日時:後退行動より三日後〉





……私は負けていない。


断じて、決して、天地がひっくり返ろうとも、私は負けていない。


泥まみれになった軍服? 

あれは単なる“舞台装置”が汚れただけだ。


スクラップになった大量のドローン? 

彼らはAI搭載型の機械だ。彼らの敗北は、彼ら自身の判断によるもの。従って、私の敗北の証拠などでは断じてない。


巡洋機の損壊?

あのパワードアーマーの鉄塊どもに押されただけの現象。自然界に重力があるのと同じ、不可避の事象。しかも私が指揮をしていたわけではない。


よって、私の芸術的完全勝利の記録は、一点の曇りもなく保持されている。






……だが。


あの液体。

あの、レモンの、暴力的な酸味。


あれだけは認めざるを得ない。

私の喉を、内側から焼き、私の様式美に無粋な乱れを生じさせた“あの瞬間”だけは、審議に値するのだ。


夜通し、私は鏡の前で思案に耽った。

乱れても美しい前髪と赤くなった鼻先を角度十七度で観察しながら、ありとあらゆる理論を比較検証し、私の美学体系に照らして解析した。




そして夜明け頃――私は真理に到達した。


私が酸味に屈したのではない。

私の美学が足りなかったのでもない。


“美しさを爆発的に加速させる触媒”


それが存在しなかっただけなのだ。


これに気づいた瞬間、私は指をパチンと鳴らした。

まるで世界が私の正解を祝福して光を差し込ませたようだった。






数日後。

私は帝都の最高機密エリアに足を踏み入れた。

師団長権限は便利である。

多少の警告音が鳴り響こうとも、私が「祝福のファンファーレ」と言えば、それは祝福なのだ。

そのままマザー・コンピューターまで直進し、私はカイト――あの裏切り者の残した錬金術データをサルベージした。

そして私は、それを“美しく”作り替える作業へと没頭した。



 液体を弾丸に。

 風味を衝撃波に。

 感情を圧力へと変換する。



私の芸術と錬金術が融合した異端の兵器が、ついに産声を上げた。


その名も、『超高圧美学噴進砲・ロイヤル・フルーリ・カノン』


フフ、美しい。美しすぎて、世界が泣いてしまうな。なんとも我ながら罪深い。おお、神よ!私の罪を我が美に免じて許し給え!




しかし現在、ひとつだけ問題が残っている。


私の喉を焼いたレモンでは、王の砲には不十分。

この世のあらゆる果実の中で、



“圧倒的な感情”

“孤高の香り”

“存在するだけで他を跪かせる威厳”



これらすべてを兼ね備えた“真なる王の果実”が、まだ見つかっていない。これは憂慮すべき事態だ。



レモン如きは所詮、ただの前座だ。

私の美学を完成させるのは、もっと崇高で、もっと劇的で、もっと……芸術的な果実でなければならない。





私は確信している。

この世には必ず“王の果実”が存在する。

そしてそれを見つけ、砲に装填したとき――私の美は、宇宙規模で爆ぜる。

その日を思うだけで、胸が震える。






美は止まらない。

私も止まらない。












第3師団長 ルキウス・ヴァレンハイト

(美学軍師/至高の統べる者)






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