表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/34

30 誰も望んでいない神回(一人を除く)




「……うわぁ」


「……ナニアレ」


「立体投影スクリーンです。アスパームを巡洋航空機で囲み、空中の1点で映像を結合させています。さらに各艦にはスピーカーが設置されており、重層的な音響装置として機能している模様です」


「なんてメーワクなサラウンドシステム……!」



 カイト・リン・SoDAが帰り着いた無駄に巨大な空中スクリーンが展開されていた。荘厳な音楽と共に流れてくるのは、ルキウスの声。


『――そして私、ルキウスは今日も完璧だ。朝日に照らされるこの横顔、まさに芸術……』


 キラキラした効果音。

 スローモーション。

 なぜか三方向からのカメラワーク。


 その下で、住民たちは無言で作業を続けている。

 疲れ切った……というより慣れきった目。

 もはや諦観の境地に達しているようだ。


「……第20話?」


 カイトが呆然と呟いた。


「はい。昨日から一時間おきに更新されています」


 Solaのホログラムが青白く揺れる。


「なお、総再生時間はすでに劇場版三本分を超えております」


『おや? 今日は観客のノリが悪いね。だが心配はいらない。僕は“理解されなくても輝ける男”だから』


 画面の中で、ルキウスがウインクした。


 ピキッ。


「……マスター」


SoDAの声が、やけに冷たい。


「今、私の内部ログに“視覚的暴力”という新カテゴリが生成されました」


「耐えろ。あとで対処する」


 そのとき。


『――おっと? ようやく帰ってきたようだね?』


 画面のルキウスが、こちらを見た。


『やあ、諸君。帰ってきたんだね。待ちわびたよ』


 前髪をかきあげるルキウスに、演出上ありえない角度で、カメラが寄る。


『君たちが来るのが遅かったから、もう第20話まで来てしまったではないか。序盤の“僕の孤独”編は必見だと思うのだが……よろしければ再上映しようか?』


「遠慮しとく。それよりお前……自分で編集して流してんのか」


『もちろん。主演・監督・脚本・編集・主演だ』


「主演二回言ってる」


『大事なことだからね』


 リンが前に出る。


「ルキウス。ここは住民の生活区域よ。即刻――」


『待ってくれリン。今ちょうど神回なんだ』


 スクリーンにテロップが踊る。




 ――「第20話:それでも私は完璧である理由」――




 SoDAが一歩踏み出した。


「確認します。あなたは現在、他者の同意なく公共空間を占拠し、自己賛美映像を強制視聴させています」


『うん』


「その結果、住民の作業効率が32%低下し、精神的疲労指数が危険域に達しています」


『でも私は元気だよ?むしろ絶好調なのだが?』


「……」


 SoDAの拳が、ぎゅっと握られた。


「マスター」


「……罠の確認は?」


「完了しました。この状況に、戦術的意味は一切ありません」


「よし」


 カイトが一歩前に出る。


「ルキウス。結論から言う」


『おっと、クライマックス前にセリフ被せるのは――』


「そのスクリーン、今すぐ畳め」


 一瞬の沈黙。


 次の瞬間、画面のルキウスが深く息を吸った。


『……そうか』


 やけに真面目な声。


『やはり、理解されないか』


「理解以前の問題だ」


『なら仕方ない』


 ルキウスは、にこやかに微笑んだ。


『第21話は、ディレクターズカット版に切り替えよう。しかしそうなると、時間が三倍になるので住民の皆さんにルキウス特製ドリンク・美容黒濁水をサービスしなくては……』



「待て」

「待ちなさい」

「やめろ」



 ズン、と地面が鳴る。


「……マスター」


 SoDAが静かに言った。


「先ほどラーニングした感情を、実践してもよろしいでしょうか」


「内容は?」


「“心の底から腹が立つ”です」


 カイトは一拍置いて、頷いた。


「……ほどほどにな」


「了解しました」


 SoDAは前を向き、一歩踏み込む。


「ルキウス」


『なんだい、SoDA。君も出演希望かな?』


「いいえ。強制的に打ち切りにさせていただきます」


『まぁ待ちたまえ、レディ?私は何も遊びに来たのではないのだよ。このルキウス、諸君らにお目に掛けたいものがあってだね』


 ルキウスはそう言うと、傍らの煌びやかな掛け布を、必要以上に華麗な振る舞いで取り去った。 



「……なんだあの大砲みたいなのは」


『ふはははは!見て驚け聞いて驚け!これなるは私自身が「純喫茶錬金術」を独自解析して作り上げた超兵器!『超高圧美学噴進砲『ロイヤル・フルーリ・カノン』っ!』


「なにっ?」


「うそでしょ?そんなことアイツできたの?」


『我が頭脳に不可能はない!そしてェ!我が歴史に「敗北」の二文字などは刻まれることはない!ゆえに先日の悪夢と共に、諸君らを蹴散らしてくれる!』


 ルキウスの目に、確固たる意志の炎が宿る。


「……マスター。彼のいうことが事実であれば、触媒次第ではこちらは甚大な被害を受ける可能性があります」


「くっ、今までの戦闘ログを参考にしやがったか?それにしても一体何を触媒にするつもりだ…?」


 焦るカイト達。

 ルキウスはゆっくりと巡洋機を動かし、街に照準を合わせる。







『あ、その前にここに至るまでの経緯を今から上演するから』



「「「いらんわっ!」」」










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ