30 誰も望んでいない神回(一人を除く)
「……うわぁ」
「……ナニアレ」
「立体投影スクリーンです。アスパームを巡洋航空機で囲み、空中の1点で映像を結合させています。さらに各艦にはスピーカーが設置されており、重層的な音響装置として機能している模様です」
「なんてメーワクなサラウンドシステム……!」
カイト・リン・SoDAが帰り着いた無駄に巨大な空中スクリーンが展開されていた。荘厳な音楽と共に流れてくるのは、ルキウスの声。
『――そして私、ルキウスは今日も完璧だ。朝日に照らされるこの横顔、まさに芸術……』
キラキラした効果音。
スローモーション。
なぜか三方向からのカメラワーク。
その下で、住民たちは無言で作業を続けている。
疲れ切った……というより慣れきった目。
もはや諦観の境地に達しているようだ。
「……第20話?」
カイトが呆然と呟いた。
「はい。昨日から一時間おきに更新されています」
Solaのホログラムが青白く揺れる。
「なお、総再生時間はすでに劇場版三本分を超えております」
『おや? 今日は観客のノリが悪いね。だが心配はいらない。僕は“理解されなくても輝ける男”だから』
画面の中で、ルキウスがウインクした。
ピキッ。
「……マスター」
SoDAの声が、やけに冷たい。
「今、私の内部ログに“視覚的暴力”という新カテゴリが生成されました」
「耐えろ。あとで対処する」
そのとき。
『――おっと? ようやく帰ってきたようだね?』
画面のルキウスが、こちらを見た。
『やあ、諸君。帰ってきたんだね。待ちわびたよ』
前髪をかきあげるルキウスに、演出上ありえない角度で、カメラが寄る。
『君たちが来るのが遅かったから、もう第20話まで来てしまったではないか。序盤の“僕の孤独”編は必見だと思うのだが……よろしければ再上映しようか?』
「遠慮しとく。それよりお前……自分で編集して流してんのか」
『もちろん。主演・監督・脚本・編集・主演だ』
「主演二回言ってる」
『大事なことだからね』
リンが前に出る。
「ルキウス。ここは住民の生活区域よ。即刻――」
『待ってくれリン。今ちょうど神回なんだ』
スクリーンにテロップが踊る。
――「第20話:それでも私は完璧である理由」――
SoDAが一歩踏み出した。
「確認します。あなたは現在、他者の同意なく公共空間を占拠し、自己賛美映像を強制視聴させています」
『うん』
「その結果、住民の作業効率が32%低下し、精神的疲労指数が危険域に達しています」
『でも私は元気だよ?むしろ絶好調なのだが?』
「……」
SoDAの拳が、ぎゅっと握られた。
「マスター」
「……罠の確認は?」
「完了しました。この状況に、戦術的意味は一切ありません」
「よし」
カイトが一歩前に出る。
「ルキウス。結論から言う」
『おっと、クライマックス前にセリフ被せるのは――』
「そのスクリーン、今すぐ畳め」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、画面のルキウスが深く息を吸った。
『……そうか』
やけに真面目な声。
『やはり、理解されないか』
「理解以前の問題だ」
『なら仕方ない』
ルキウスは、にこやかに微笑んだ。
『第21話は、ディレクターズカット版に切り替えよう。しかしそうなると、時間が三倍になるので住民の皆さんにルキウス特製ドリンク・美容黒濁水をサービスしなくては……』
「待て」
「待ちなさい」
「やめろ」
ズン、と地面が鳴る。
「……マスター」
SoDAが静かに言った。
「先ほどラーニングした感情を、実践してもよろしいでしょうか」
「内容は?」
「“心の底から腹が立つ”です」
カイトは一拍置いて、頷いた。
「……ほどほどにな」
「了解しました」
SoDAは前を向き、一歩踏み込む。
「ルキウス」
『なんだい、SoDA。君も出演希望かな?』
「いいえ。強制的に打ち切りにさせていただきます」
『まぁ待ちたまえ、レディ?私は何も遊びに来たのではないのだよ。このルキウス、諸君らにお目に掛けたいものがあってだね』
ルキウスはそう言うと、傍らの煌びやかな掛け布を、必要以上に華麗な振る舞いで取り去った。
「……なんだあの大砲みたいなのは」
『ふはははは!見て驚け聞いて驚け!これなるは私自身が「純喫茶錬金術」を独自解析して作り上げた超兵器!『超高圧美学噴進砲『ロイヤル・フルーリ・カノン』っ!』
「なにっ?」
「うそでしょ?そんなことアイツできたの?」
『我が頭脳に不可能はない!そしてェ!我が歴史に「敗北」の二文字などは刻まれることはない!ゆえに先日の悪夢と共に、諸君らを蹴散らしてくれる!』
ルキウスの目に、確固たる意志の炎が宿る。
「……マスター。彼のいうことが事実であれば、触媒次第ではこちらは甚大な被害を受ける可能性があります」
「くっ、今までの戦闘ログを参考にしやがったか?それにしても一体何を触媒にするつもりだ…?」
焦るカイト達。
ルキウスはゆっくりと巡洋機を動かし、街に照準を合わせる。
『あ、その前にここに至るまでの経緯を今から上演するから』
「「「いらんわっ!」」」




