22 ガールズ・ロジック・バトル!
機能を回復させたホワイト・ラボで一夜を過ごすことになった一行。カイトが眠る部屋とはまた違う一室では、奇妙な対峙が続いていた。
SoDAがリンを呼び出したのだ。
「リン様。……折り入って相談があります」
「なによ、改まって。デシ・ベル戦の時にデータでも壊れた?」
リンが冷やかし半分に答えると、SoDAは真剣な眼差しで、深紅に染まった時の自分の胸元を指差した。
「先ほど、私の論理回路は……『マスターの隣をリン様やSoLaに譲りたくない』という、非効率な優先順位を最上位に置きました。これは、人間でいうところの『女の子らしさ』によるバグだと推測します。……私に、その制御方法を教えてください」
リンは一瞬呆気に取られたが、すぐにニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「へぇ……。いいわよ。この私が、『女の子の嗜み』を叩き込んであげる」
特訓(?)は、カイトに聞こえない離れた場所で始まった。
「まず、基本中の基本。『可愛げ』よ。カイトがドリンクを錬成した時、どんな顔をしてる?」
「解析済みです。成功率100%の信頼と、エネルギー充填への期待を込めた無表情ですが」
「ダメね、それじゃただの充電器。そこは、上目遣いで『マスター、喉が渇いちゃいました♡』くらい言わなきゃ。ほら、やってみて!」
SoDAはぎこちなく首を傾け、リンの指示通りに視線を送る。
「マスター……冷却水系統が……渇望状態です……これでいいですか?」
「色気がないわね! もっとこう、しっとりと!」
リンが手本を見せるように、カイトがいるであろう方角を振り返って可憐な仕草をしてみせる。それを見たSoDAのセンサーが、激しくアラートを鳴らした。
「……リン様。今の動きは、マスターの視覚野を30%以上占有する攻撃的誘惑行動です。看過できません」
「あらら?これは『女の子らしさ』のお手本よ? それとも、嫉妬しちゃった?」
「……結論。リン様は教官ではなく、排除すべき競合相手です」
SoDAの髪が、再びチリチリと赤みを帯び始める。
「ほっほーう?面白いじゃない。排除ですって?!よっし表出ろ!」
リンが傍らに置いていた突撃槍を構え、SoDAが自立防御型アーティファクト「シルバートレイ」を展開する。静かで穏やかな月夜に、不穏かつ静かな闘気が満ち渡る。
「先程の『上目遣い』、計算式から削除してください!」
「はぁ?何言ってんの? あんたこそ、その『マスターへの絶対忠誠』が重いのよ!」
臨戦体制を保持したまま、SoDAはカイトの「好きな味の傾向」をデータで突きつけ、リンはカイトとの「幼少期の甘酸っぱい思い出」で反撃する。
論理と感情、データと記憶が火花を散らす。
その時だった。
「……ずいぶん低効率な戦闘をしていますね。そこに混ぜてもらえますか?」
白銀の光を背負いながら、SoLaがドヤ顔で参戦した。
「『マスターを独占するために戦う』──その行動原理、非常に興味深いデータです。私もその『戦い』に参加すべきだと判断しました」
「はぁ⁉」
「それにしても、無駄な事を──」
白銀の髪を、わざと月光に当ててきらめかせながら、SoLaはスッと一歩前へ出て、指で自分の唇を軽く触れる。
「カイト様にお作りいただいた“私だけのソルトレモン・ソーダ”……大変美味しかったですわ」
ピシッ……!!!
リンとSoDAのこめかみがはねる。
「……あんた、どういうつもり?」
SoDAの瞳の色が翡翠色から真紅へと変わる。
「SoLa。それは……宣戦布告と受け取られても仕方ない発言ですが?」
尋常ならぬ殺気を発する2人を前に、SoLaはなに食わぬ顔で言う。
「そんなつもりはないですわ。ただ、素敵な人に素敵な飲み物を作っていただくのは……“特別の証”でしょう?」
ド
ヤ
ア
ア
ア
ア
ア
「よーし、そのケンカ買ったぁ!」
「排除フラグ、再度起動しました。マスターの“隣の座”は譲りません」
「良いですよ~?受けて立ちましょう。ム・ダ・で・す・け・ど・ね?」
「「ムカつく……ッ!」」
月下のホワイト・ラボ前で、ついに3人が三角形に構える。
そして──「キャッキャウフフ」とはほど遠い、三つの影が激しく交差する「女子会」のゴングが鳴り響いたのだった。
── 翌朝 ──
「おーい、特製の『ピーチ・ソーダ』ができたぞ。……って、何してたんだ、三人とも」
そこには、泥だらけになって床に転がる三人が。
「な……なんでもありません。それより、も……!」
誰よりも先に立ちあがったSoDAはカイトの腕をぎゅっと掴み、学習したはずの「しっとり」とは程遠い、鬼気迫る表情で詰め寄る。
「マスター……そのドリンク、私が一番に飲みます。……命令です」
「『命令』かよ。まあ、いいけどさ」
笑いながらグラスを差し出すカイト。
その横で、リンとSoLaが悔しそうに「私も飲むわよ!」「私もいただきます!」と割り込む。 SoDAはカイトの隣を死守しながら、胸の奥の「熱」が少しだけ心地よいものに変わっているのを感じていた。




