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20 SoDAの覚醒・情熱の真紅


「……リン様、援護感謝します……!」


 SoDAの音声素子に、これまでにない「震え」が混じる。 それは恐怖ではない。自分以外の誰かがカイトの隣で戦術を説き、カイトがそれに全幅の信頼を寄せて応える姿を見た時、彼女の胸の奥で「想い」が沸点を超えたのだ。


(……ですが、マスターを守るのは、私の役割です!)




「SoDA、行くぞ!」


 カイトが投げ入れた高純度ジャムの情報が、魔法陣の中で超圧縮され、炭酸と混ざり合う。


「純喫茶錬金術、錬成───『果尽の心臓・ラズベリー・ルージュソーダ』!」


 通常なら、グラスに注がれるはずの紅の液体。しかし、SoDAはそれを空中で受け止めなかった。 彼女は自ら魔法陣の中央へと踏み込み、その熱い液体を自身の体内へと直接流し込んだ。


「マスター! 私を『グラス』に……いえ、私自身を『最高の一杯』にしてください!」


 直後、SoDAの翡翠色の髪が、根本から一気に燃え上がるような深紅へと変色する。 彼女の体表には、液体を循環させるバイパスが紅い幾何学模様となって浮かび上がり、周囲の静寂を焼き切るほどの熱量を放ち始めた。


「『強制摂取(インテイク)』!……警告:論理制限解除。……感情濃度、最大! 『真紅の武装形態(スカーレット・モード)』、起動します!」


「なっ、アンドロイド自身が触媒になるだと? 自壊するつもりか!」


 デシ・ベルが驚愕し、タクトを振り上げる。



「自壊じゃない。……これは『進化』です!」


 SoDAがその真紅の液体を「飲み干した」瞬間、体からはバチバチという放電と激しい爆発音を伴う「発泡」が始まる。


 「体温上昇。心拍数、BPM180まで加速。……行きます!」

 

 SoDAが地面を蹴ってデシ・ベルに向かって突撃する。その加速は、炭酸が弾ける瞬間の爆発力そのものだ。

 

「『泡沫連弾(バブル・ガトリング)』!」


 彼女の指先から、高圧凝縮された炭酸弾が撃ち出される。

 それはデシ・ベルの装甲を貫くのではなく、「浸透」する。

 

「なっ……これは……なんだ!? 脳内に……知らない情報が……!」


 着弾した瞬間、デシ・ベルの冷徹な思考回路に「夕焼けの帰り道」や「誰かを想って胸が熱くなる痛み」という、強烈な情熱の記憶が流し込まれる。


「まずい……このままでは……!一度離脱せねば……!」


「逃さん!SoDA!」


「はい!」


 カイトが叫び、自律型防御アーティファクト「シルバートレイ」を水平に構える。そのトレイを足場にして、深紅の閃光となったSoDAが跳躍した。


「リン様、演算データ同期しました! 座標固定……ここです!」


「ええ、外さないでよ、SoDA!」


 リンの槍がデシ・ベルの足元の岩盤を砕き、逃げ場を奪う。

 そこへ超高圧の感情波動が、空に舞い上がったSoDAの両掌から放たれた。


「フルチャージ!…… 『ルビー・パッション・ストリーム』!」


 紅いレーザーのような炭酸の奔流が、デシ・ベルの「デッド・サイレンス・フィールド」を貫通し、粉々に粉砕する。真空の静寂は、弾ける果汁の香りと、喉を焼くような強烈な刺激によって「上書き」された。






「……暖かい。俺は、ずっと、この熱さを探していたのか……?」

 

 光が収まった時、そこに立っていたのは、「無機質なマシーン」ではなく、膝をつき、己の手を見つめながら、こぼれ落ちる涙に戸惑う「人間」だった。


 

 


 


 静寂が去り、岩礁地帯に夕立のような爽やかなベリーの香りが降り注ぐ。

 SoDAの髪はゆっくりと元の翡翠色に戻っていくが、その体温はまだ高いままだ。



「……マスター。私、ちゃんと『器』になれていましたか?」


 少しだけ息を切らし、どこか甘えるような、それでいて勝ち誇ったような瞳でSoDAがカイトを見つめる。カイトは驚きに見開いた目を緩め、彼女の頭を優しく撫でた。



「ああ。『最高の一杯』だった。でも、無茶はするなよ?」


「……ハイ」



 その様子を少し離れた場所で見ていたリンは、槍を収めながら、ふっと小さくため息をついた。


「……やれやれ。あのアンドロイド、『女の意地』まで学習しちゃったみたいね。前途多難だわ……」


 リンの言葉の意味がわからず、カイトは首を傾げる。

 しかし、SoDAはリンの方を向き、少しだけ微笑んでみせるのだった。








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