第253話 先輩
共同アトリエに戻ると、席についた。
「ジークさん、支部に戻りましたが、今後の仕事はどうしましょうか?」
エーリカが聞いてくる。
「現在の仕事の状況は?」
「役所、軍、病院からお仕事をもらっていますが、それも大半はできています」
役所は木箱、軍はキュアポーション、病院はメスとガーゼだ。
このうち、俺が担当していたメスは終わっているし、すでに納品している。
「いつぐらいにできる?」
「キュアポーションは2、3日もあれば既定の数に達します」
「ガーゼは昨日で終わったよー」
「木箱は……あなたが良いって言うまでね」
木箱は上限がないからな。
「また営業でもしてみるか?」
「良いと思います。またリストでももらえるんじゃないですかね?」
役所と軍はそうだろうな。
病院は……ガーゼを納品したらか。
「よし、レオノーラとアデーレは病院と役所に納品して、ついでに次の仕事はないか聞いてきてくれ。俺はエーリカと軍に行ってくる」
「りょーかーい」
「わかったわ」
俺達は2階の倉庫に行き、納品する品物を魔法のカバンに収納すると、支部長に一声かけ、支部を出た。
そして、レオノーラとアデーレと別れると、エーリカと軍の詰所に向かう。
「歩けるって良いな」
「ジークさん、昨日はすごい弱気でしたもんね」
エーリカが笑う。
「体調を崩すっていうのがあまり経験がなくてな。エーリカはどうだ?」
「子供の頃はよく崩してましたね。さすがに今はあまり崩しません。ジークさん達が来てからは皆無ですね。あのサプリメントが良かったのかな?」
そのサプリメントを飲んでいたのにダメだったな。
まあ、ウイルス性なら仕方がないと思おう。
「それは良いことだな。お前らが倒れたら薬を作ってやる」
エーリカが倒れたらお返しのおかゆもだな。
あの2人は無理だろうし。
「ありがとうございます」
俺達は軍の詰所までやってくると、中に入ろうとしたが、その前に扉が開き、中から黒髪の若い女性が出てきた。
エーリカの学校の先輩であるマライアだ。
「あら? エーリカにジークさんじゃないの。あなた達も仕事?」
マライアが声をかけてくる。
「キュアポーションの納品ですね。先輩は?」
「ウチは軍用船の納品が終わったからその料金を受け取りに来た感じね」
まだ終わってなかったのかと思ったが、よく考えたらこいつらは俺達と違って、一隻じゃないか。
「お疲れ様です」
「その節は色々とごめんね。そういえば、エーリカ達は王都に鑑定士の試験を受けに行ったんだっけ?」
知ってるんだな。
さすがは田舎……これ、口に出したら怒るのかな?
「はい。錬金術師は持っておいた方が良いということだったので」
「まあ、あった方が良いのは確かだけど、協会の人間がいるのかしら? まあ、いいか。受けた感じはどうだったの?」
マライアの言葉にエーリカが苦笑いを浮かべた。
「無理ですね。わからなくて、半分以上、当てずっぽうで答えちゃいました」
「あー……鑑定は慣れが大事だからね」
「先輩は持っているんですか?」
「持ってるわね。民間の錬金術師は持っている人が多いわよ。ウチみたいに家族経営だと鑑定がないとマズいからね。民間は協会と違って、Aランクのあれこれを持ってこいって言っても誰も持ってきてくれないもの」
規模が違うからな。
まあ、4人しかいないウチも同じようなものだけど。
「そうなんですね。鑑定のコツとかあります?」
「慣れ。ひたすら見て、慣れるしかない。私は子供の頃から父に市場に連れていかれて鍛えられたわ」
9級のヴァルターは知らんが、マライアはこの年で7級だし、そこそこ優秀なんだよな。
やはり子供の頃から英才教育を受けていたようだ。
「そ、そうなんですね」
「大丈夫、大丈夫。私も最初は全然わからなかったけど、素材を見ていけば次第にわかるようになったから。鑑定士は筆記もないし、わかるようになれば受かるものなの」
それはそう。
「わかりました。頑張ります」
マライアが初めて役に立ったな。
それに一応、先輩らしいことを言っている。
「マライア、来月の錬金術師試験は受けるのか?」
ちょっと気になったから聞いてみる。
「あー……そっちね。まあ、錬金術師としてはそっちがメインになるでしょうね。でも、どうかなー……6級は難しいし、取ってもねー……」
受けないんだろうか?
確かに6級は銀に変わるため、難易度が上がるが。
「いらないのか?」
「そこが民間と協会の差ね。鑑定士は大事だけど、錬金術師資格はそこまで上を目指す意味がないの。取っても家族経営だから別に給料が変わるわけでもないし」
それはわかるが……
「お前、跡取りじゃないのか? いずれ店を継いだ時に店長がランクの高い資格を持っておいた方が良いだろ」
「それが民間と協会の違いなのよ。前にヴァルターが資格より腕って言ってたでしょ? ウチらのアトリエって、地元に密着しているからもうお客さんが固定されているのよ。それは代々商売をして、得てきた信頼から成り立っている。だから私が資格なしでもこれまでと同じ品質のものを納品すればお客さんはそれで良いのよ。逆に資格を持っていても腕がなければ離れていく。こう言ったら何だけど、錬金術師じゃない人からしたら『資格って何?』って感じだからね」
なるほど。
もしかしたらそれでヴァルターは9級で止めているのかもしれないな。
そもそも試験を受けてすらいないかもしれない。
「じゃあ、受けないわけか」
「うーん……考え中。勉強は嫌いじゃないし、王都に遊びに行きたいから受けるかもしれない」
「そんなもんか」
「そんなもんね。まあ、資格は適度に受けるつもりではあるからウチが潰れたら雇ってちょうだい。じゃあね」
マライアは笑いながらそう言うと、帰っていった。
「あいつの店は絶対に潰れそうにないな」
マルティナとは違う。
「学生時代からメンタルおばけで有名でしたね。逆にヴァルター先輩は意外と気にしいなんですよ」
へー……どうしてもどうでもいいって思ってしまうな。
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