第250話 次の人生は50点を……
「ジーク様ー、朝ですよー」
朝、ヘレンが起こしてくれる。
しかし、俺の身体が動かない。
「ヘレン……」
「ジーク様?」
「寒い……」
「へ?」
何だ、これ?
自分の身体が自分のものではないように重い。
しかも、足や腕が痛いし、異様に寒い。
「ゴホッ、なんか声が……」
詰まっている感じがする。
「ジーク様? 寒いんですか?」
「ああ……エアコンを切ってくれ」
「切ってますけど……むしろ、暑いくらいなんですけど」
どういうこと?
「これは……あの時の感覚に似ている………死……」
「ジーク様ぁ!? あわわ!」
「ヘレン、すまん……」
俺はここまでだ……
次の人生でも使い魔を召喚するよ……
だからきっと……
「ジーク様ぁ! だ、誰かー!」
あぁ……ヘレン、どこに行く……いや、これでいいんだ。
俺は1人で川を渡るよ……
瞼が重くなったのでそのまま目を閉じた。
◆◇◆
俺は歩いていき、川の前で立ち止まる。
川の先は霧がかかっていて見えないが、川には小舟が置いてあったので乗り込む。
どこに行くのかなと思って、ふと、下を見ると、レオノーラのサインが書いてあった。
「んー? あ、マルティナ号か……縁起が悪いな」
そう思って、舟から降りる。
すると、誰も乗っていない舟が勝手に動き出し、霧の奥深くに消えていった。
「何だったんだ? んー? あれ? あれれ?」
何かに引っ張られる感覚がし、どんどんと川から離されていく。
後ろを振り向くと、赤い髪の女が俺の手を取り、歩いていた。
「アデーレ?」
なんでいるのかと思ったが、急に辺りが暗くなった。
ふと目を開けると、アデーレが座っており、俺の頭に濡れたタオルを置いていた。
「あら? 起こしちゃった?」
「アデーレか……エスコート、ありがとうよ……」
危うくマルティナ号で地獄に行くところだった。
「何を言っているの?」
「俺は生きてるよな?」
「ええ。風邪ね。本部長のやつをもらったんじゃないかしら?」
風邪……これが風邪か。
俺は前世でも今世でも牡蠣に当たったくらいしか、身体を壊したことがない。
健康体なことが自慢だったんだが、風邪か。
「ジーク様ぁ……」
ヘレンが覗き込んでくる。
「お前がアデーレを呼んでくれたのか……ありがとうよ」
「いえ……」
あぁ……俺の可愛いヘレン……
「アデーレ、頼みがある」
「何? もうすぐでエーリカさんがおかゆを持ってくるからそれを食べてから薬を飲んで寝なさいよ」
「俺が死んだらヘレンを頼む……」
アデーレは優しいからきっと最後まで面倒を見てくれるだろう。
「ジーク様ぁ!?」
すまんな、ヘレン……
「いや、ただの風邪だから」
アデーレが呆れた顔で手を振る。
「全身が痛いし、寒気がする。さらには喉が変だ」
「風邪じゃないの」
「天才は早死にするもんだ……」
無念……
「それ、美人じゃない?」
美人薄命か。
「アデーレさんも死んじゃう!?」
一緒に死ぬか。
「ありがとう。でも、いい加減にヘレンさんは冷静になりましょう」
アデーレが呆れていると、扉が開き、鍋を持ったエーリカが部屋に入ってきた。
「あ、ジークさん、起きました? ヘレンちゃんが『ジーク様が死んじゃうー!』って飛び込んできたから心配しましたよー」
エーリカはそう言って、枕元にある丸テーブルに鍋を置く。
「すまんな。お前らを最低でも5級にしてやりたかったんだが……」
「えーっと?」
エーリカが困った顔でアデーレを見る。
「ずっとこんな感じ。風邪を引いたことがないのかしら?」
「あー、それっぽいですねー……」
エーリカはそう返しつつ、タオルを取ると、俺の額に手を乗せる。
エーリカの手はひんやりしているのだが、どこか温かい。
さらには笑顔が眩しく、なんか後光が差しているように見えた。
「あぁ……」
聖女? いや、天使だ……
エーリカは天使だったんだ。
だからいつも優し……ん? 天使?
俺を迎えに来たのか、こいつ……?
「やっぱり熱がありますねー……なんかすごい目で見てくるんですけど……」
「放っておきなさい」
「ジークさん、おかゆを置いておきますので食べられる時に食べてください。薬も置いておきますのでちゃんと飲んでくださいね」
薬?
「マルティナが作ったやつじゃないだろうな? 薬なら俺が作る」
「大丈夫かな、この人……」
「マルティナちゃんはお母さんと一緒に王都ですよー。薬は市販のものですから安心してください。というか、薬を作れる状況じゃないですよ」
作っておくべきだったか……
「食欲がない」
「もうちょっとしてからでいいですよ。でも、昼までには食べてくださいね。あと、水も置いておきますからちゃんと水分補給をしてください」
知ってる。
それが風邪の対処法だ。
でも、それで治るんだろうかって思ってしまう。
「ああ……レオノーラは?」
「レオノーラさんは支部長に説明に行っています」
仕事か。
平日だもんな。
「そうか。レオノーラに王都の高級レストランに連れていけなくてすまないと伝えてくれ」
「まだ言ってる……私らは?」
は?
「お前らは落ちてるだろ」
ないない。
受かってるわけがない。
「その辺りは変わらないのね……」
「ジークさんですねー……」
2人が呆れる。
「エーリカ、アデーレ、俺のことはいいからヘレンを連れて、仕事に行け。うつしたら悪い」
「ジーク様ぁ……」
よしよし、ヘレン。
お前にはまだ3人娘がいる。
俺の代わりにこの未熟な錬金術師を導いてやってくれ。
「ヘレンちゃん、ここにいると、ジークさんが眠れないから行こうか」
エーリカがそう言って、俺の枕元でうろうろしているヘレンを抱える。
「眠る!? 一生!?」
そうなんだ……
「ヘレンちゃん、黙ろうか」
「あ、はい……」
エーリカの笑顔に影が差すと、ヘレンが頷いて静かになった。
「じゃあ、ジークさん、また来るから。ちゃんと食べなさいね。ダメだったら食べさせてあげる」
「ああ。でも、自分で食う」
介護は嫌。
俺は1人でも大丈夫なんだ。
「後でプリンを作って持っていきますから」
「ありがとうよ」
2人が出ていったので水を飲み、ベッドに倒れる。
そして、そのまま眠った。
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