3-30 小迷宮
―1―
うーん、さて、どうしようかな。一つ思いついたことはあるんだけど、出来るかどうか分からないんだよなぁ。
控え室で、どうしようか迷ってぶらぶらしているとキョウのおっちゃんがやって来た。
「お、旦那、久しぶりなんだぜ」
ああ、久しぶりなんだぜ。3日ぶりくらいか?
「そうそう、旦那、もう団体戦に出ても大丈夫だと思うんだぜ」
へー、そうなのか。また何かそういったことに関する情報でも仕入れたのかな? あ、そうだ。情報通なキョウのおっちゃんなら、もしかして知っているかも?
『キョウ殿、ここの地下が小迷宮だと言うことだが、行き方を知らないだろうか?』
せっかくこの闘技場の下に魔法を封じる小迷宮があるって聞いちゃったからね。そんなの闘技場内に居る今の内しか探索できないじゃん。今がチャンスだよね、是非、探索しないと。攻略しないと!
「あー、アレな。多分、わかると思うぜ」
知っているのか、キョウのおっちゃん。知っていたら儲けものくらいの確認だったのに、本当に知っているのか。ホント、このおっちゃん何者だ?
「あそこに行きたいのか……いいぜ。一緒に探索しようぜ」
おー、さすがキョウのおっちゃん。ノリがいいね。
「今から行くかい?」
もちろんだぜ。だって暇だもん。
「こっちだぜ」
キョウのおっちゃんの後をついていく。あれ? この道ってあの白い部屋があった場所じゃね?
到着した先は予想していたように白い部屋の近くだった。えーっと、ここって勝手に来ても大丈夫な場所なのか?
「ここは一応、立ち入り禁止区域なんだぜ。許可されるのは治癒術士と、その怪我人くらいなんだぜ」
あ、やっぱりそうなのね。それって見つかったらヤバイってことだよね。
「で、この壁に確か……。おー、あったぜ」
キョウのおっちゃんが壁をトントンと叩くと壁の一部が開く。開いた中には何かの押しボタンがあった。
「押すぜ?」
キョウのおっちゃんが中のスイッチを押すと、壁に線が入りスライドしていく。おー、こういうのってワクワクするよね。
「さあ、行くぜ」
おー。
キョウのおっちゃんと二人で階段を降りていく。いやあ、ホント、ワクワクするな。どんな秘密があるんだろうか? どんなお宝があるんだろうか? こう、探求ってのはワクワクするよね。
―2―
「最初に断っておくが、この小迷宮だけど、すでに探索済みでめぼしいモノはもう残って無いって聞いているんだぜ」
う、いきなりテンションが下がることを言うなぁ……。
『ここはかなり薄暗い造りの迷宮のようだな』
「そういえば、旦那は暗視のスキルを持ってないんだったか。あると便利なんだぜ」
そう言って、キョウのおっちゃんが懐から小さな丸い筒のようなモノを取り出す。その筒の中に魔石を入れると先端から小さな灯りが点る。おー、懐中電灯的なモノなのね。にしても暗視スキルかぁ。そりゃね、そんな便利なスキルが手に入るなら欲しいんだけどさ。
キョウのおっちゃんが灯した小さな明かりを頼りに石壁で作られた狭い道を、迷宮の中を進んでいく。
しばらくすると少しだけ開けた場所に到着した。薄暗くて見えにくいが天井の高さは4メートルくらいはありそうだ。今までキョウのおっちゃんが背をかがめて歩かないとダメなくらいの窮屈な道だったのでかなりの開放感だ。しかし、4メートルか……。いつの間にか大分深くまで降りてきていたんだな。
「おいでなすったぜ」
前方から何かがぶつかり合うようなカタカタと言った音が聞こえてくる。む?
「スケルトンにスケルトンウォーリアだぜ」
おー、有名なモンスターじゃないか。ここで登場とは!
「骨系の魔獣は倒しても復活してくるんだぜ。魔石を奪うか砕くかしないと倒せないんだぜ」
なるほど。で、目の前のスケルトン達には魔石のようなモノは見えないんだが、どうしたらいいんでしょうか? 教えて、キョウのおっちゃん。
「リーダー格のスケルトンが居るはずなんだぜ」
そこまで聞けば俺でもわかるんだぜ。
「そいつの魔石を取れば全部崩れるはずなんだぜ」
はい、予想通り。
となれば、先手必勝ッ!
――《百花繚乱》――
穂先も見えない高速の突きがスケルトンの体の隙間を貫いていく。って、上手く当たらないじゃん!
「おいおい、旦那。スケルトンはこう倒すんだぜ」
キョウのおっちゃんが手に持ったロングソードを叩き付けていた。ロングソードを叩き付けられたスケルトンが粉々になる。おー、骨には打撃か。よしッ!
目の前の骨に真紅を棍棒のように叩き付ける。骨が面白いように砕けていく。なるほど、こうやって粉砕していくのか。まったく、かんたんだ。
と、調子に乗ったのが悪かったのか、真紅の叩き付けが、次に現れたスケルトンウォーリアの盾によって防がれる。なんだと。そんな錆びたぼろぼろの盾に防がれたことがショックなんですけど。
何度も、何度も俺の叩き付けが錆びた盾によって防がれる。
「お、おい、旦那、何をやっているんだぜ」
くそ、力を入れて叩き壊そうと大振りになるから簡単に防がれてしまう。突きは効果が無さそうだし、今の突撃槍形状の真紅だと斬るのは難しそうだし……って、あ、そうか。
――《スパイラルチャージ》――
真紅が赤と紫の螺旋を描きスケルトンウォーリアの錆びてぼろぼろの盾を砕き貫いていく。まずは盾を壊せばいいじゃん。そして、そこからの!
俺は真紅を大きく振りかぶり、思いっきり叩き付ける。俺の一撃によってスケルトンウォーリアが粉々になる。よし、楽勝楽勝。
「旦那!」
キョウのおっちゃんが叫んだ先、そこには倒したはずのスケルトンが、まるで逆再生のように元の姿に戻っていた。ちょ、キリが無いんですけど。
「キリがないんだぜ」
ああ、そうだな。うーん、こういう時に範囲魔法とかで一掃出来れば楽しそうなんだけどなぁ。
このまま、ここでモグラ叩きみたいに復活するスケルトンの相手をしていても仕方ない。うん、よし、突っ込もう。
『キョウ殿、突っ切るぞ』
俺は真紅を腰だめに構え、そのまま駆け出す。くーだーけーちーれー。
槍で突破するというよりも、素早さを活かした体当たりで吹き飛ばしているような状態だ。俺が切り開いた道の後をキョウのおっちゃんがついてくる。
このまま行くぜッ!




