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テロとの接し方 番外編 地下鉄の悪夢

今日で地下鉄サリン事件から20年が経つ。

世界で指折りかつ最も安全とされた先進国の首都中枢の地下鉄にサリンがばら撒かれた。

サリン、そしてオウム真理教。日本にとってみれば忘れがたい脅威であるはずだ。

しかし、現在その印象は薄れているという。


オウム真理教は元は1984年設立のオウムの会というヨガサークルだったという。

1980年代からのオカルトブームはこの手の新宗教を大いに盛り上げ、オウムの会もまた雑誌『ムー』に掲載された空中浮遊写真の影響もあってオウム神仙の会と名を変え規模を巨大化、1987年にはオウム真理教に改称し、対には宗教法人化へと向かっていた。

1988年、在家信者を死亡させる不祥事を起こし、それの隠蔽のために死体を焼却し遺棄した。

翌年、この事件を目撃した信者を殺害。また坂本弁護士一家殺害も同年に起こっている。坂本弁護士はオウム批判の急先鋒であり、テレビで批判的なVTRを流す前にTBSが弁護士の発言を弁護士に無断で信者に教えるなどしたことが発覚している。

この後、熊本での国土利用計画法違反事件などとともに1990年、彼らはついに動き出した。


真理党結党。衆院選出馬するも全員落選で供託金没収。この事態が教団を武装闘争路線へと向かわせることになる。

教団を政府は危険視しており、得票数操作を行った。妄想がついに彼らの狂気を固定化した。

サリン、ホスゲン、VX、青酸ガス、イペリット=マスタードガス、ボツリヌス菌や炭疽菌といったBC兵器を量産。

その他にもソ連崩壊の余波の残るロシアから各種兵器を輸入しようとしたり、自分たちでライフルの製造をしてみたり、ブラックマーケットから対戦車兵器を購入したりという、遂にはウラン鉱から原爆の製造を考察し始めるなど日本の犯罪史上類を見ない行動に出たのだ。


1993年から、オウムはBC兵器による暗殺事件を立て続けに起こし始める。

当時の警察はこれらの事件がいかなる手段で行われたか、何が使われたかを知らぬため原因不明の事件と言うしかなかったのだ。

1994年、オウムは長野県松本市の裁判官宿舎をサリンで攻撃。これが世に言う松本サリン事件である。同年には薬剤師リンチ殺人事件や資産家拉致事件等も発生している。

1995年、仮谷清志さん拉致事件が発生し、ついにオウムが尻尾を出したと警察関係者が動き出す。3月19日、オウム擁護派の宗教学者の家に爆弾を送りつける。そして3月20日、霞が関行の営団地下鉄でサリン攻撃を敢行。


こうしてみると強烈ともいえる数々の犯罪。さらに儀式用に麻薬であるメスカリンやLSD、覚醒剤などの密造。左道タントラなる教祖による処女姦通や教祖の血の入った液体を飲む血のイニシエーションなどといった異常な儀式。PSIヘッドギア等による洗脳。

普通に考えればまさしく異常。脱会できないように監禁したりといった事態もあったのにもかかわらず、オウムは未だに名を変え、存在し続けている。


原因は破壊活動防止法にある。

検察、伝家の宝刀。国家の破壊者を殲滅せしめる聖剣。

法に姿を変えた天叢雲剣ともいえる究極の対テロ法である破壊活動防止法=破防法は

1.団体の活動として暴力主義的破壊活動を行った団体であること(ただし、団体活動の制限を受けずに内乱等を除く暴力主義的破壊活動であって予備、陰謀に留まるものは除き、未遂は含む)。

2.継続又は反覆して将来さらに団体の活動として暴力主義的破壊活動を行うおそれがあると明らかに認められるに足りる十分な理由があること。

これらがそろうだけで団体の行動を完全に封殺でき、構成員の一部人権を剥奪可能なうえに、

3.団体活動の制限では、そのおそれを有効に除去することができないと認められたとき。

この三つがそろった団体を解散させることができる。

オウムにこれを適応しようとしたものの、今後脅威が続くかわからないという理由で適応が見送られたのだ。これで適応せれなきゃ何に適応する気だという批判は根強い一方、悪しき前例が作られなくてよかったという人もいる。

団体規制法という下位互換の法律の制定でお茶を濁したものの、実際、この法律の適応条件はそこまで破防法と変わらない。

しかし効力は弱い。しかも締め付ければ野党議員と弁護士がキレる始末。

これは野党に影響力を有する団体がこの手の法律に抵触しそうだからという見方もあるがはたして。


近年オウムの後継団体は若者に対して勧誘を強めている。

表向きはヨガサークルや哲学サークルを装い、人を誘ってしまうのだそうだ。

革マル派などの左翼系テロ組織などの復調と同じで、事件を知らない世代が取り込まれつつあるのだ。

私もその世代だ。事件当時は幼稚園入園直前だったはずだ。

日本の教科書の戦後史の薄さはまさしく危険であろう。テロ事件などを啓発するのもまた非常に重要なはずなのに、浅沼稲次郎視察に比べると赤軍のテロやオウム事件は掲載も少ない。

もはや脅威は右翼からそれ以外になって久しいにもかかわらずだ。

私はある意味幸運だったのかもしれない。小学生のころ、パナウェーブ研究所事件の時、同級生の少女が言った「まるでオウムみたい」という言葉がオウムという巨悪の存在を知らずにいたことをきづかせてくれたのだ。


そして、地下鉄サリン事件は意外な副産物を生んだ。

日本の実戦経験である。

世界広しといえども、毒ガステロに出撃し除染、分析を行った軍や警察、国家憲兵は日本の自衛隊と警察しかない。


日本はあの事件以降国内で大規模テロは起きていない。

しかし、未だに危機はあり続ける。

今年初めのISILによる日本人人質殺害。そして、つい二日前に発生したチュニジアでの博物館襲撃事件。

テロの脅威は未だに去っていない。

節目の年、そしてテロの犠牲者が出た年だからこそ考え直そうではないか。

テロは地震と同じだ。いつ自分のもとに来るかわからない。

いつ何があっても大丈夫なように。ちょっと緊張感を持って生きるというのは重要かもしれない。

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