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第2話 あなたの運命、壊してあげるから!

こちらは、本来7000字超えだった1話を読みやすいよう分割したものです。

元々の1話の後半と内容は一切変わりません。

 ゲームなら、操作説明がてら軽い戦闘が挟まって、世界観をバシッと説明してくれるイベントが果ての祭壇で起きるんだけど……どういうわけか、あたしの身にはなーんも起きなかった。


 当然のように、あたしを召喚した神様が「こうするのじゃ」と導いてくれるわけもなくて。


 もちろん、人の気配のしない神殿を一通り歩き回ってもみた。何も起きなかったけど。


 で、仕方なく徒歩で、リーネを探して街にやってきたんだけど。


 西洋風の建築様式と、違和感しかない機械兵たち。

 空中を飛び交う妖精と、綺麗な街並み

 すごい、見覚えのある景色しか広がってない!


 はじまりの街にしてラストダンジョン直前エリア、妖精の国クレストリア。

 これから世界を覆うことになる「深淵の波」に最初に滅ぼされる国であり、主人公とリーネの故郷。


 リーネはここで、創世の聖剣レーヴァ=ルクスの担い手「剣の聖女」として選ばれて、世界を救う旅に出るんだ!


 ここで、あたしに電流が走った。

 天啓が降りた、と言ってもいいのかもしれない。


 もしかしてあたし、これからこの国に起きること全部知ってるし、その気になれば事前に阻止できるのでは?


 何なら、リーネが犠牲にならない未来、あたしならつくれるのでは!?


「こうしちゃいられない。今すぐリーネのもとに───」

「どこに行こうと言うのですか、カノン?」


 リーネが待つ王城に向けて駆け出そうとしたあたしは、襟首を引っ掴まれる。

 振り返ると、すらっとした細身の、メガネが特徴的な糸目の男がそこに立っていた。


 あたしはこの男の名前を知っている。


 オルクス・ユークラフト。

 リーネが頻繁に通っていた孤児院『灯火の家』の院長。

 ゲーム序盤、チュートリアルボス「断界機ソルファリオ」の暴走事故で死んだ───と思わせておいて、汚染されて再登場する、実質的なラスボスの男。

 今は汚染前だから、多分普通の好青年なんだろうけど。


 改めて見ると、糸目に眼鏡にオールバックとか、ビジュだけで怪しさ満点だな。


 もちろん、あたしはプレイ当時、「こいつ絶対裏切る!」と確信していた。

 裏切りとは、ちょっと違う形での再登場だったけど。


 てかあれ、もしかして今、あたしの名前呼んだ?


「カノン。カノン・フィリア。聞いていますか?」


 頭のどこかがチクリと痛む。そう、あたしの名前はカノン・フィリアだと、何故か確信できてしまった。


「あっ、はい、聞いてます!」

「リーネフォルテ様がお探しでしたよ。さぁ、こちらへ」


 オルクスは丁寧な口調であたしの手を取り、孤児院に連れ帰っていく。

 リーネを探さなきゃって思ってたけど、気付いたらリーネがあたしを探してました。

 神様、あたしは一体、前世でどれだけ目に見えない善行を積んでしまったのでしょうか?



 オルクスに手を引かれて街を歩いている最中、ふと建物のガラスに、あたしの姿が映ったのが見えた。


 毛先にかけて赤くグラデーションのかかった桃色の短髪。

 くりくりした丸く大きな空色の瞳。

 十三歳くらいかな、と思われる、小さく華奢な身体。


 間違いない。どう見たって美少女だ。木島夏音の身体じゃない!


 あたし、最高の美少女に転生してる!


 あ、いや、違う。一番はリーネフォルテね。


 だから、あたしが思う最高から二番目の美少女に転生してる!!

 と浮かれていても、ちゃっかり孤児院まで引きずられて連行されたわけ。


 ズキリと頭が痛んで、何故だかすっと情報がインストールされる。

 あたし、カノン・フィリアはこの孤児院で暮らす人間らしい。


 中庭に足を運ぶと、そこに女神が待ってた。

 そう、女神。あたしの生きる希望。


 リーネフォルテ・エル・クレストリア。


 白くて長い髪を風に揺らしながら空を見上げていたリーネは、あたしを見つけると笑顔でこちらに手を振ってくる。


 これ、本当に現実でいいんですか?


「こんにちは、カノン。今日はなんだか遅かったですね。どこに行ってたんですか?」


 精巧に作られた銀鈴のような声が、あたしの名前を確かに呼んだ。


 心臓が脈打つ、思考がうまくまとまらない。

 え、これってもしかして、恋?


 そりゃ恋はしてるよ、ガチ恋だからね。むしろこの気持ちは、まさしく愛だから。


「あ、えっと、こ、こんにちは、リーネフォルテ、様……」


 リーネの反応からして、あたし───カノンと彼女は仲が良いみたいだけど、コミュ障オタクのあたしには、最推しとの会話なんて無理難題なわけで。

 あたしは見事に、声を詰まらせて引きつった笑みを浮かべていた。

 何やってんだおい。


 そんなあたしを前にすれば、そりゃ疑問は湧くわけで、リーネは首を傾げて、その琥珀の瞳であたしを見てきた。


「どうしたのですか、カノン。いつものようにリーネと呼んでください」


 なるほど、リーネ呼びを許している間柄なのか、カノン・フィリア。


 ゲーム通りなら、彼女がリーネ呼びを許すのは本当に信頼できる相手だけ。

 つまりあたしは、リーネの信頼度ピラミッドの頂点にいるわけですよ!


 あー、最高、その事実だけでご飯三杯は食える。


「もう、カノン、聞いていますか?」

「あっ、はい」


 あたしを妄想から現実に引き戻したのは、両の頬に触れるリーネの小さな手だった。


 細いな、小さいな、肌めっちゃ綺麗だ。でもぷにぷにしてる、子供の手って感じがする。


 てか顔近い、うわすっごいいい匂いする、これがクレストリアの王族スメルってやつなのか。あたしの知識が終わってるせいでこれを形容する言葉が見つかんない。


「カノン。今日は、あなたにお別れを伝えにきたんです」

「へっ?」


 今、なんて言った?

 お別れ……って言ったよね。

 やめてよ、あたしにとってそのワードはトラウマなんだから。


「あ、あの、どうして、お別れ……あたし、何か、リーネの気に障るようなこと……した?」

「いいえ。前も伝えたはずです。『選定の儀』が近付いていると」


 その言葉を聞いて、あたしはハッとする。


 選定の儀───クレストリアの王女が成人を迎える際に行う、聖剣の継承イベント。

 継承といっても、誰かから受け継ぐとかじゃなくて。

 クレストリア都市郊外の泉の神殿に安置された剣を、鞘から引き抜くだけの儀式。


 抜けなかったら、妖精王の伴侶として捧げられちゃう。


 伝承じゃ、その剣が抜き放たれる時世界に脅威が訪れて、クレストリアの王女は『剣の聖女』として、世を導き、背負う運命にあるんだってさ。


 ……いやその『背負う運命』を押しつけられたのが、他でもないリーネなんだけど。


 改めて考えると、重すぎるよな、設定。


 そしてリーネのおかげで、今日がいつなのかだいたいわかった。

 光暦3113年。

 隅から隅までマップを探索し、あらゆるフレーバーテキストをかき集め、アーカイブを全部埋めるかつほぼ全てを記憶したあたしには、心当たりしかない年号だ。


 リーネフォルテの成人の年。


 彼女が、創世の聖剣レーヴァ=ルクスを引き抜き、世界のために犠牲となる、そんな最悪な運命が確定してしまった年。


「リーネ、選定の儀って、いつ?」


 焦燥に駆られたあたしに、リーネはそっと微笑みこう言った。


「明日です。結果がどうであれ、私はこうしてお忍びであなたと会うこともできなくなるでしょう。ですから―――カノン?」


 真剣に友達に別れを告げようとしているリーネの前で、あたしは頭を抱えて蹲る。


 なんてこった……最悪で、最高の日じゃないか。

 一度見た明日を、書き換える絶好のチャンス到来っ!!


 明日、リーネは聖剣を引き抜いて世界の英雄となる運命を歩む。

 そしてあたしは、その未来を全て知っている転生者。


 もうそういうことでしょ、神様。そうってことにしちゃうからね。


「任せて、リーネ!」


 よく距離感を間違えて他人からドン引きされていた勢いで、あたしはリーネの両手を握った。

 驚きで琥珀の瞳が見開かれて、真っ直ぐにあたしを見る。


 あたしは一つ息を吐き、高らかにこう宣言した。


「その運命、あたしが全部ぶっ壊してあげるッ!!」


 社会人中二病オタク女子、木島夏音きじまかのん―――転生して、カノン・フィリア。

 推しが世界のために犠牲にならない未来をつくる。

 これはそのために、人生を捧げたあたしの物語。


 大丈夫だよ、リーネ。

 あなたが犠牲になる必要なんてない。

 そんな世界も、脚本も―――全部あたしが、ぶっ壊してあげるから!!

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