第9話 賊を撃退し義興さんの依頼を受ける
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大内高弘との戦いは一方的なものになった。15対50と戦力差はあったが、異様な仮面と覆面男5人の乱入に崩れる。
「せい」
俺は体勢を低くすると巨大な鎌を横薙ぎに払い、敵兵の脚を刈る。
「どっせい」
「ふん」
「おりゃ!」
刈られて倒れた兵士を才蔵さん佐助さん十蔵さんがその手に持った鈍器で殴る。(才蔵さんの斬馬刀は刀がつくが、使い方は正に鈍器だ)。
どごん、ばがん、ずもんと洒落にならない音と共に、腕や脚に関節が増え、胸が陥没し、潰れたトマトのように顔が爆散した敵兵もいる。
足を刈られても倒れなかった敵兵には今川貫蔵さんが襲い掛かり、首から鮮血を吹き出して倒れていく。
また、敵兵の攻撃を才蔵さん佐助さん十蔵さんが受け止めた時は、俺が三人の体越しに大外から鎌の先を突き入れたり、貫蔵さんが回り込んで斬り伏せる。
「戦いは数だよ兄貴」と、厳つい顔の男が眉なしオール―バック男に向かって叫んだ言葉が浮かんでくるが、練度はこちらの方が格段に上。数では勝てない戦いもあるのだ。
「ひぃ!お助けぇ」
たちまちのうちに敵兵の三分の一が打倒されるか逃げ出すかして戦線から脱落する。
「押し返せ」
大内義興さんの命令の下、劣勢だった大内義興さんの兵が反撃を開始する。多勢の有利を崩された大内高弘の兵に戦局を覆すだけのものはない。大内高弘の兵は潰走した。
- ☆ -
大内高弘たちを追い払った俺たちは大内義興さんの前に連れてこられていた。
「直答を許す。名を何と申す」
内藤興盛さん、だったかな?偉そうな口調で俺に声をかける。目の前には大内義興さんが簡単な椅子に腰かけている。
「すけきよ」
ぶっきらぼうに声を返す。
「おいお前、左京大夫さまに無礼である。そのふざけた仮面を取れ」
内藤興盛さん激おこである。
「俺が顔を見せないのはな。顔が無いからよ」
そう言って俺は仮面をぱらりと外す。仮面の下から現れたのは顔の左半分が火傷によるケロイド状に酷く爛れた顔・・・を精巧に再現したマスクだ。
大内義興さんかその部下の人に仮面を取れと激怒されることは想定済み。そう言われた時の為の仮面の下に施されたもう一つの偽装だ。
「うっ」
明らかに動揺を見せる内藤興盛さん。
「我らの顔も望みますか?」
今川貫蔵さんが覆面に手をかけて顔の下半分を晒す。こちらは刀傷っぽい大きな跡が見て取れる。
「いや、それには及ばん」
大内義興さんが軽く頭を下げ、後ろにいた男に視線を送る。控えてた男は、革袋を乗せたお盆を持って俺の前にやってくる。
「少なくて申し訳ないが、ご助力した礼として是非とも受け取って貰いたい」
そう言って男は革袋を俺に差し出す。俺は重さを確認するように上下させそのまま黙って革袋を受け取り懐に収める。こうい時は多寡をどうこう言ったり、露骨に中身を確認とかはしない方がいい。
「ありがたく」
ぼそりと礼を述べて頭を下げる。
「で、主らは傭兵か?」
大内義興さんは興味深げにこちらに視線を送ってくる。
「いえ。訳あって身分は明かせませんが、修行のため九州を漫遊しております」
「その風貌で、か?」
大内義興さんは笑う。
「流石に普段は深編笠を深く被っております」
「ああ、そなたら紀伊興国寺の薦僧か?」
大内義興さんはぽんと手を打つ。興国寺の修験者。いわゆる虚無僧。諸国を行脚修行する有髪の僧のことだ。時代劇だと尺八を演奏して喜捨を得たり、山道で複数で現れて主人公を取り囲み、一斉に襲い掛かって撃退されるアレだ。
「お山は興国寺ではありませんが、修験者ではあります」
俺の言葉に大内義興さんはうんうんと頷く。
「さて、すけきよ殿。主らの腕を見込んで頼みがある。大友修理大夫殿の上原館まで護衛を願えないだろうか?」
「これも何かの縁でござろう。引き受けさせていただく」
佐助さんに、宿で待機している嫁たちに「先に石見(島根西部)に戻るように」という伝言をお願いして、大内義興さんには上原館まで護衛することを伝える。ここで大内義興さんが討たれて、おかしな傀儡を送り込まれて大友に筑前(福岡北西部)、豊前(福岡北東部から大分北部)に出てこられても困る。
大内義隆くんを推し立てて筑前と豊前に攻め込むとか、今は勘弁してもらいたい。周防(山口南東部)も長門(山口北西部)も復興は道半ばだ。
しかし、一度助けただけで警護を依頼してくる大内義興さんの軽さがちょっと気になるなぁ。




