第8話 石見(矢滝城)に戻って安芸(吉田郡山城)に向かう
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1525年(大永5年)2月
上京の重要な目的である毛利幸松丸改め恵心さまへの挨拶。朝廷への官位の上奏。僅かながらではあるが疱瘡の防疫を終えた俺たちは一度石見(島根西部)に戻ることにした。
ただ、若狭(福井南部)の小浜港での物資の備蓄は継続して行うことにする。【ノセタラダマクラカスの大予言】にあった「1525年(大永5年)天然痘の大流行」が「流行」にランクダウンしたとはいえ予断を許さないからだ。
「次は秋かの?」
「そうですね。今回の官位のお礼をしなければなりませんから」
「そのときは某も同行してよろしいのでしょうか?」
出雲(島根東部)に停泊中の市杵島の船上で司箭院興仙さんと話し合っていると尼子三郎四郎くんが話に加わる。
「それは(尼子)出雲守さまの御考え次第でしょう」
「そうですね。ですが某は、また京に行きたいです」
尼子三郎四郎くんは無邪気に笑う。尼子三郎四郎くんはここで下船して、月山富田城に向かい尼子経久さんの出雲守就任の報告を行う予定だ。これでまだ11歳だというのだから恐ろしい。
「三四郎。久しいな」
尼子三郎四郎くんを迎えに来たのは尼子国久さんだった。「こちらこそご無沙汰しています」と手を出すと尼子国久さんは「?マーク」を飛ばしまくる。
利き腕を差し出して武器を隠し持っていないことを示すための「後漢書」にもある作法だというと尼子国久さんはニッコリと笑って握手を交わし、軽く情報を交換する。尼子氏は現在、西伯耆(鳥取西部)の地盤を固めつつ備後に侵出を開始しているようだ。
「ところで、三四郎。京の米麴は手に入ったんだろうな」
「堺と大和(奈良)の麹もばっちりです」
俺の言葉にニッコリと笑う尼子国久さん。酒でなく米麴を欲しがる一段階レベルの上がった尼子国久さんだった。
- 石見(島根西部)温泉津港 -
出雲から石見温泉津港までは市杵島なら西に半日で到着する。
「お帰りなさいませ、首領」
港で俺を出迎えてくれたのは世鬼煙蔵さんと甘草定純だった。世鬼煙蔵さんが来たという事は・・・
「大内領長門(山口北西部)で飢饉が筑前(福岡北西部)で疫病が発生しました」
「疫病の種類は?」
「症状から流行性感冒かと」
「麻黄湯の備蓄は」との問いに世鬼煙蔵さんからは「十分です」と返ってくる。
麻黄湯は麻黄、杏仁、桂枝、甘草を煎じた漢方である。頭痛、悪寒、発熱、腰痛、関節痛、咳、喘息といった風邪の諸症状の緩和に期待が出来る。
風邪を引いた場合、部屋を暖かくして安静にして十分な睡眠。あとは汗をかくので水分の補給を小まめにし喉の湿度を保つことも領民には繰り返し指導している。あとガチャで出た体温計があるので地味に役立っている。
「港に来る筑前からの船は検疫と消毒を厳とせよ」
「はっ」
甘草定純が頭を下げて話の輪から抜ける。それから矢滝城に向かう道で情報を交換する。大きなところでは先日、沼田小早川氏と竹原小早川氏が庶家である浦氏と梨羽氏と椋梨氏を伴い従属してきたそうだ。これで安芸側の瀬戸内海は毛利氏の勢力下に収まったことになる。
次に元就さまの正室である妙さまの懐妊が判明したそうだ。後の吉川元春かな?あと宍戸元源さんの嫡孫である宍戸弥三郎くんとたま姫の間で婚約が決まった。これで宍戸氏も毛利氏の一門衆である。
矢滝城でどうしても俺でないと処理できない書類を回収して、吉田郡山城に向かう。道が整備されているから、北の石見から雪降る中国山脈を越えての南の安芸(広島)入りも支障が少ない。道を作って本当に良かった。
「ただいま戻りました」
重臣並ぶ吉田郡山城の評定の間で俺は元就さまに向かって頭を下げる。今回の上京の成果についての報告。元就さまに従五位下、右馬頭の内示と安芸の分郡守護への働きかけ。恵心さまと三好元長さんからの手紙を渡す。
石見での生産物の目録や俺が個人的に得た交友関係についての書類も付ける。また市杵島の2番艦田心が完成し、西回りで安芸に向けて移動していることも報告する。
「丁度いい。今年中に周防に攻め込みたい。三四郎どう思う?」
元就さまが、偶然思いついたように尋ねてくる。いや、毛利氏家臣が居並んでいて、何も言わずこちらを注目している時点で根回し済みでしょ?
「春先の田植え時期に攻める動きを見せ、秋前に攻めましょう。勝てなくとも周防長門に甚大な被害が与えられます」
「長門の国人や民には揺さぶりをかけていたな。成果はどうなっている」
「長門との国境に領地を持つ国人の中には、こちらの話に耳を傾ける者が出始めています。あと一揆の機運も高まっています」
元就さまの指摘に俺は深く頭を下げる。
「殿。伊予(愛媛)の河野殿と村上水軍に関門海峡を荒らしてもらいましょう」
居並ぶ家臣団の上座に座る口羽広良さんが進言する。
「そうだな広良。頼めるか?」
「はっ」
口羽広良さんが頭を下げる。大内氏攻めが決まったようだ。
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