第4話 嫁(仮)に逢いに行き帰りにテンプレに遭う
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- 京 とある屋敷 -
「松。久しいな」
俺の目の前には、随分と綺麗になった松がいた。
「はい。ご無沙汰をしております」
若干頬を赤らめて松は頷く。
「「・・・・・・・・」」
そう言って暫く無言で見つめ合っていたが、どちらともなく笑いだす。俺の嫁として京に行儀見習いに来ていた松との久しぶりの再会だ。「綺麗になった」と褒めたら顔が真っ赤になった。待たせて悪いね・・・
松が京でお世話になっているのは北小路俊泰さん。半家という公卿の家格では堂上家の中では最下位の貴族さん。
毛利氏とは本姓が大江氏で繋がっているというプレパラートのガラスよりも薄い縁の家だけど、元就さまの叔父である兼重元鎮さんが京に居た時に縁を結んだのが切っ掛けで松がお世話になる事になったのだ。
一時間ほど話をして北小路氏の屋敷をお暇する。松がお世話になっているお礼として五貫文ほど置いてきたけど俊泰さん驚いてたなぁ。松は嫁ではあるが、今は行儀見習い中なので頻繁に会うことは出来ないのが残念だ。
「おい兄ちゃん金、出せ」
宍戸源次郎さんの屋敷への帰り道。俺は初めてのテンプレに遭っていた。金を無心するゴロツキ。その数ざっと13人。武器は良くて手入れの行き届いていない刃こぼれした太刀。大抵は木の棒。木の棒って・・・ただ木の棒組の中には一応先を尖らせて槍のようにしている輩もいる。
「いいねぇ。先の戦で都が荒れてるのは知ってたけど・・・」
俺は腰の鬼丸国綱を抜く。
「へへっ。良い刀持ってるじゃねか。やっちまえ!」
お約束な台詞を吐きながらゴロツキが襲い掛かってくる。
ざん
一刀で先頭にいたゴロツキの体が斜めに別れる。相変わらず切れ味がいいな。
「囲め!」
ざっと数人が俺の後ろに回り込んで包囲を完成させる。手際が良いな・・・だが!振り向きざま近くにいたゴロツキに斬りかかる。返す刀でもう一人。怯んで空いた穴を通って包囲を逃れる。
「やろう!」
俺の移動にあわせゴロツキたちも移動する。と、「ぎゃっ」と悲鳴を上げて一人のゴロツキが転倒する。
「はーっはっはっはっ!」
いきなり大きな笑い声が響き渡る。
「なんか面白そうなことをやっておるな」
悪役レスラーで黒のカリスマっぽい顔をしたガタイのいい初老の男性が片手に小石を弄びながら姿を現す。どっち側だ?腰に差した太刀はゴロツキが持つようなこしらえじゃないが・・・
「なんだテメェ!」
棒を持ったゴロツキの一人が男に殴りかかるが、男はあっさり棒を掴むと素早く懐に入り込みゴロツキの腹に足の曲げ伸ばしだけの蹴りを放つ。どかっという音と共にゴロツキは壁まで吹っ飛び動かなくなる。
「助太刀・・・は必要なさそうな刀持ってんな兄ちゃん。」
俺の持っている刀を一瞥した男は笑いながら次のゴロツキに襲い掛かる。俺も別の方向にいるゴロツキに斬りかかる。あっという間に5人にまで減った。
「お、覚えてろ!」
これまたお約束の捨て台詞を残して散っていくゴロツキたち。
「ふん。歯ごたえ無いな」
刀を抜くまでもなく蹴散らしてしまったことに不満を言いつつ男が俺の方にやって来た。俺たちが死体を漁らないのを見た周りの浮浪者が、ワラワラと寄って来てゴロツキたちの身ぐるみを剥いでいく。うーん、逞しいというか何というか・・・
「助かりました。某畝方三四郎元近と申します」
「あぁ良いって事よ」
「あのお名前を・・・」
「うん?ああ、小太郎という」
がははと笑いながら名乗ってくれる。できれば名字から名乗って欲しいところ・・・
「それよりお主。その刀。俺の見間違いでなければ、粟田口の太刀ではないか?」
なかなか鋭いな・・・俺は懐から懐紙を取り出して刀の血糊を拭うと、男に差し出す。
「刃文は沸出来で、広直刃調の小丁子乱れ、将軍家重宝の国綱と見えるが・・・」
うーんと唸りながら男は刀を返してくれる。俺は刀を鞘に納めた。
「某西国安芸の田舎武士であり、将軍家重宝など・・・そんなに大層なモノなのですか?」
「お主の刀、京粟田口派の刀工、粟田口国綱の鬼丸にそっくりよ」
うはっ鋭い。そしてこの男、本物を見たことがあるのが確定である。
「小太郎さま。ここで知り合えたのも何かの縁。某、宍戸家に逗留しております。いつでもお尋ねくだされ」
そう言って俺は懐から譲葉の形状に打ち伸ばした長門沢瀉を極印として打った極印銀を一枚渡す。売ればそれまで。宍戸氏の家人に見せれば取り次いでもらえる切符となるものだ。
「面白い。また会おうぞ」
男は極印銀を渡した意味を正しく理解したらしい。笑いながら去って行った。
男の正体とは!?




