第3話 ガチャドロ茶釜からはじまる文化人生活?
- 京 施薬院 -
「欧仙。ガチャを押しにきたぞぃ」
朝から朝廷に上奏する手紙を書いていたところ、司箭院興仙さんが部屋に入って来た。「はいよ」と俺はアイテムボックスからガチャ箱を取り出し司箭院興仙さんに差し出す。
「れありてぃを上げてもええか?」
「何を入れるんですか?」
「今まで焼くに焼けず、捨てるに捨てられなかった色々とヤバイお手紙」
しばらく二人の間に沈黙が流れる。言いたいことは解る。前管領の側近が自分で手紙を焼いているの見られたらそりゃヤバいよね・・・
「好きなだけ証拠隠滅してください。ついでにお友達のヤバい手紙も処理して回りますか?」
冗談半分で提案してみる。
「ほう。それはいい考えじゃな。うちの書類を処分したらそうしよう」
え?という間もなく司箭院興仙さんに首根っこを掴まれ、屋敷の奥に連れていかれる。連れていかれた先の部屋には・・・書類が本当に山のように積んであった。書き損じたのも残っているらしい。
司箭院興仙さんと手分けして、書き損じたものの棚から片っ端にエクスチェンジボックスに放り込む。単なるゴミくずだと思ったけど意外に評価が高いな・・・ああ、本人にはゴミでも他人の目から見たら情報というお宝か。
がしゃぽんがしゃぽん
コインがカンストするまで8畳ほどの部屋にあった紙束の半分が消えた。
「何が出るかな、何が出るかな、ちゃらぁららら、ららららぁ、ぽちっとな」
怪しいリズムを口ずさみながら司箭院興仙さんがガチャ箱のボタンを押す。
がしゃん
出てきたのは、胴回り1.2メートル 、蓋の口径24センチの青紫がかった黒色の銅と金の合金製の真形釜。あ、真形釜というの鈴のような形の釜ね。
そして釜の横には驚愕したようなタヌキの顔。顔の反対側には太い尻尾が付いており、動かすと蓋が持ち上がる謎仕様。釜の底には四本の足が付いていた。
名称はSSR分福茶釜。異議あり!ネタ成分満載の分福茶釜は良いとしてレアリティに異議がある!!
いや、出来が良いのは認めるけど・・・
「なんじゃこの珍奇な釜は!」
司箭院興仙さん大喜び。
「よし逍遙院のところに遊びに行く。誰ぞある。逍遙院のところに先触れを出せ」
興仙さんの声を聞いてやってきた家人たちがバタバタと動き出す。逍遙院?って誰だ。
- 京 某屋敷 -
ガタガタと牛車に引かれ、俺と司箭院興仙さんはとある屋敷に来ていた。京に来たばかりで土地勘なんてないから位置が判らないから本当にとあるである。というか、俺のような人間が来ていいの?
「久しいですな、逍遙院殿」
「半将軍殿の葬式以来ですかな?興仙殿」
がっははと二人は笑う。俺が半将軍と?を飛ばしていると、司箭院興仙さんが永正の錯乱で暗殺された前管領の細川政元のことだと教えてくれた。
「逍遙院殿。この男が、いま儂が世話になっている欧仙じゃ」
「安芸毛利家の家臣で畝方三四郎元近と申します」
俺は、目の前の某鑑定団の骨董商そっくりな法衣姿の男に頭を下げる。
「三条西実隆と言った方が通りが良いが、逍遙院と申します。欧仙殿」
涼やかな声で逍遙院さんは俺のことを欧仙と呼ぶ。つまり司箭院興仙さんの知人として扱いますよということだ。
しかし三条西実隆さんか・・・確か後土御門天皇・後柏原天皇そして次代の後奈良天皇に仕え、和歌、茶道、古典文学に精通し、その保持・発展させた特級の文化人。縁戚が極めて天皇家に近く、武家の足利将軍家の足利義政や足利義澄。若狭武田氏の武田元信や今川氏親さんとも付き合いがあるスーパーお公卿さんだよな。
「で、本日の急な御用向きは何でしょうか?」
逍遙院さんがちらりと俺の後ろにある大きな包みに視線をやる。
「うむ。珍奇な茶釜が手に入っての。自慢しに来たのよ」
司箭院興仙さんがかなり身も蓋もないことを言い出す。仕方なく後ろにあった包みを逍遙院さんに差し出し、包みを解く。
「ぶはっ」
鎮座する茶釜についたタヌキの顔を見た逍遙院さんが噴き出す。しかしすぐに表情を引き締めると色々な角度から分福茶釜を眺める。
「いや、失礼。見た目はふざけた造詣なれど・・・赤銅の艶やかな色といい彫金の精密さといい、いい仕事をしてますな。うむ興味深い」
「手に入れてな、久々に逍遙院殿の茶が飲みたくなったのよ。道具は使ってなんぼじゃろ?」
とんでもないことを司箭院興仙さんが言い出す。
「それは面白い。だが、この茶釜で三人だけというのはちと勿体ないな」
逍遙院さんは唸る。まあ、重さ11.2 キロで最大で21リットルのお湯が沸かせる大釜。三人だけのお茶会には大袈裟なんだよな。
「二日、いや三日待って欲しい。こういうのが好きな人間を呼んで茶会をやろうぞ」
・・・何かとんでもないことになってきた!?
三条西実隆と司箭院興仙は前管領の細川政元のときに縁があったという設定にしています
政元晩年の内大臣が実隆で政元側近の興仙とは縁があったに違いないという設定




