第5話 大内軍、戦略的転進(撤退)
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大内軍と毛利・尼子軍が戦端を開いた。大内軍の陶興房・問田興之・杉興相の軍はすでに毛利・尼子軍の先陣を蹴散らし、第2陣を食い破っている。
「強いな」
「自分たちの次の神輿の初陣ですからね」
元就さまの言葉に俺は相槌を打つ。この時代、兵の大半は普段は農作業に従事する雑兵で、多少の兵力差は将の強さで何とかなったりする。
今回の大内軍の戦いは嫡男である義隆の初陣であり、それなりの人数が気合十分で参加しているのだろう。結果尼子軍が良いように蹴散らされている。
「なら、大内としても負けたくはないよな?」
「桜尾城の友田興藤を既に討ち取ってます。戦果としては十分でしょう」
俺の言葉に元就さまがにやりと笑った。
日が沈み辺りが薄暗くなり、曇天の空からぽつぽつと雨が降り出す。
「条件は揃ったな・・・」
元就さまは甲冑を装備しながら笑う。
「訓練も十分に行いましたし、上手くいくでしょう」
豪華な伊勢エビの前立てのついた兜を被りながら俺は答える。周りの目がかなり痛いけど気にしない。
「では者ども。進軍開始だ」
「応」
小さな声が上げられ、その場にいた兵たちが動き出す。ちなみに今回元就さまが提案した作戦は、俺と今川貫蔵さんが道先案内。元就さま・坂元貞さん・熊谷貞直くん・香川光景さん・三須房清さんといった地元の安芸(広島)の武将が中心となって行われる夜の闇を踏破しての夜襲だ。
ぺき
暗闇の中で乾いた音が響き、雨で濡れているはずの地面がぼーっと光る。光源の正体は、大人気贈答品である夜光灯の蛍光石に変わる光源としてちょっと前からガチャで出ているCのケミカルライトである。リサイクルできる蛍光石と違い使い捨てのアンプル形式だけど、へし折れば8時間ほど光り続ける。レイティングが低いので頻繁に出るし一回で30本も出る便利グッズだ。
「おう」
後方から感嘆の声が聞こえてくる。訓練で何度か見ているハズだけど、必ず感嘆の声が漏れ聞こえてくる。気持ちは解るけどね・・・夜襲するといっても馬鹿正直に最短距離を踏破しては見つけてくださいと言うようなモノなのでちゃんと迂回しているのだ。
俺と今川貫蔵さんが道先案内をしているのは、俺と今川貫蔵さんがガチャRの光源増幅タイプの暗視ゴーグルを持っているから。一定の光源以上を感知すると自動で切れるから「目があ」とかにはならないから大丈夫だよ。
「首領さま。見えてきましたこの先7町(約763m)です」
今川貫蔵さんが耳打ちしてくる。夜営をするのに篝火を焚く訳にいかないが、完全な暗闇にも出来ない。今川貫蔵さんの忍としての能力と暗視ゴーグルがあれば大内軍を見つけるのは造作もない事である。俺は急いで元就さまの元に走る。
「おう。何時みても不気味だな」
元就さまが真剣な声で呟く。ほっといて欲しい。
「大内軍の陣地を見つけました、このまま直線距離で7町です」
「おう。じゃあ合図を頼む」
「はい。では後ほど・・・」
俺はそそくさと今川貫蔵さんの元に戻る。「ざくざく」と俺の横を兵士たちが駆けていく。俺は懐から導火線のついた鏑矢の鏃を取り出すと、矢筒から取り出した矢に装着し、背負っていた弩に装填する。導火線のついた鏑矢の鏃は、明に行った時に押し付けられた橙月姫さんが帰りの船で製作した花火だ。
「爆発は芸術だ」と、どこぞの芸術家っぽい事を言ってたけど突っ込まなかった。触るな危険である。ちなみに花火自体は1447年(文安4年)に、京の浄華院で行われた法事後の余興で境内で披露されたという記録が公家の万里小路時房の日記にあったりする。披露されたのは仕掛け花火やネズミ花火。ロケット花火だったらしいけどね。
「貫蔵。ゴーグルを外して花火に点火」
「御意」
貫蔵さんが腰に吊っていた火口棒(竹製の圧気発火器)で火種を作ると、導火線に着火する。
ひょーおおおおおおお
弩から放たれた鏑矢が甲高い音を鳴らしながら夜空に消える。
ぼふん
鈍い音と共に空高くに明るく光る玉が打ち上がり、大内軍の陣を闇の中に浮かび上がらせる。
「わー」という鬨の声が上がり、毛利・尼子軍が大内軍に突撃を敢行する。謎の光と奇襲に大内軍は大混乱に陥って早々に桜尾城へと逃げていった。
襲撃を受けた大内軍の戦死者は520名。毛利・尼子軍の戦死者は20名。毛利・尼子側のワンサイドゲームである。
そして、この被害を聞いた大内義興は、即座に力攻めで桜尾城を陥落させると、杉興相を桜尾城に入れて軍を周防へと戦略的転進を行ったのであった。




