第8話 川中島の戦いその4
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「第一隊、突撃!」
魚鱗の先頭は島津貴久さん率いる薩摩(鹿児島西部)隊。
「チェストー!」
裂帛の気合いを込めた声が戦場を駆ける。声の主は瀬戸口重為さんだな。瀬戸口重為さんは、薩摩示現流の開祖である東郷重位の祖父にあたる人物で、その剣術は薩摩示現流の源流らしく質実剛健。最初の一撃に全てを賭ける・・・とまでは行かないけど、初手から全力でいく剣術の使い手だ。
そんな彼が手に持つのは多分下手な刀より殺傷力があるんじゃないかという木製の大太刀。それを振り回しながら武田軍の先陣に突っ込んでいく。
「ほぅ・・・」
徐々に武田軍の中央を押し込む第一隊とそれに対し毛利軍を包囲すべく左右に広がりつつある武田軍に俺は思わず手をパンッと叩く。
「数的不利を承知で鶴翼の陣に・・・後続で来る予定の別動隊と遊軍で包囲を完成させる腹つもりか・・・」
尤も清野氏の館から出立した穴山信友と小山田虎満が率いる別働隊の兵3000は既に壊滅しているし、我々を奇襲するはずだった遊軍も別働隊と合流すべく移動していて脅威にはならない。
「相手はこちらを包囲しつつ援軍を待っている。が、包囲できるほどの軍は来ない!焦らす相手を削れ!!騎馬隊は、突撃の合図を見逃すなよ!!!」
毛利義元くんが大声で指示を出す。そしてじりじりと削れていく武田軍。
「よし。騎馬隊は両翼に展開している武田軍を分断せよ!その後各個に撃破だ!!」
毛利義元くんの命令のもと、後方に控えていた尼子晴久くん率いる騎馬隊が動き始める。その騎馬隊が棒を振り回しながら展開中の武田軍を蹴散らしていく。
「さて、史実の再現と行きましょう!畝方出ますよ!」
そう言って俺は、乗っていた馬の腹を蹴り武田軍の本陣目掛けて走り出す。そして数人の部下たちが追随してくるのが見える。
「このまま武田の大将を取ります!」
「「「「応!」」」」
俺の声に後続の部下たちが応える。
「はぁっ!」
薩摩隊が拓いた武田軍本陣へと続く道をひらすら駆ける。
やがて見えてくる本陣の陣幕。既に薩摩隊の一部が取り付いていて乱戦状態だ。
「怪我をしたくなければそこをどけ!」
叫びながら陣幕のなかに飛び込む。
そこには床机に座った武田晴信くんと、色黒で隻眼の男がいた。
「もらった!」
馬上から武田晴信くん目掛けて木刀を振り下ろす。
「なんとぉお!」
武田晴信くんは持っていた軍配で木刀を受け流す。
ガシ!
再び木刀を振り下ろすが、武田晴信くんは再び軍配で木刀を受け流す。
ガシ!
三度木刀を振り下ろすが、武田晴信くんはこれも軍配で木刀を受け流す。
「若!」
隻眼の男が割って入り、武田晴信くんの盾になる。
「山本勘助と申す。お相手願いつかまつる!」
隻眼の男、山本勘助が木刀を突き出してくるので、軽く受け流す。
「ぬるい!」
馬上の敵を一人、短い木刀で相手をするのは大変だろう。やがて毛利軍の兵士たちが陣幕になだれ込んできて、俺と対峙する山本勘助と武田晴信くんを包囲する。
「参りました」
逃げられないと判断した武田晴信くんが両手を上げて降参の意志を示す。
「お疲れさん。模擬戦の前に渡した筒を貰えますか?」
「あ、はい」
武田晴信くんが陣幕の隅に置いていた葛籠を持って来て中からー本の筒を取り出す。
「さて」
筒の蓋を外し、導火線を引っ張り出して火を点ける。
パーン
空に閃光と黒い煙の塊が流れる。模擬戦の終わりを告げる花火の合図だ。
「さて、簡単にですが反省会を始めましょうか?」
「ここで?」
俺の言葉に武田晴信くんが首を傾げる。
「まあ、総括的なものは後日行うとして、軽くね」
コホンと咳払いする。
「戦力差がないのに隊を分けるのは各個撃破の危険があります。現に清野氏の館から出立した武田軍兵3000はこちらの急襲を受けて壊滅していますからね。しかし一番の問題は、その事が本陣に伝わっていないことですね」
「もしその情報が本陣に齎されていたら、我々は遊軍や別働隊と合流すべく陣を移動させていたし、戦力差も広がらなかったと?」
「そうですね。万が一のときに総大将の元に情報を持ち帰るということはとても大切ですから」
そう。来るかどうか分からない援軍をアテに作戦を練るのはリスクが高いよね。
「我々の動きがバレたのは?」
「昨晩、武田の陣で炊煙が何時もより多く上がっていたのを観測しましてね。戦場で食事を多く振る舞うということはどういうことかと考えれば自ずと推測できます」
そう言うと、武田晴信くんは納得したように頷く。まあ、武田が動くのが判ったのは、史実からの予想だから威張れることじゃないけどね。
それからしばらく感想を言い合い、川中島の模擬戦はこうして幕を閉じた。次は江戸城での御披露目会である。




