第13話 織田信秀さんの心は折れた模様
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ー 佐渡(新潟佐渡島) 国府川陣屋 ー
佐渡島で一番大きく開けた国中平野を縦断し真野湾に注ぐ国府川の河口付近に、毛利氏の陣屋がある。俺がガチャで出た建材等を供出することで陣屋というよりはちょっとした砦みたいになっているのはご愛敬である。
で、天候が回復するのを待って沖に停泊していた毛利氏の輸送船に俺が潜水艇で接近したところ、輸送船から服部半蔵くんが降ってきて、至急報告したいことがあると言われ、ちょっとした喧騒に包まれている。
「まずは、現時点での中部地方の状況をお伝えします」
コキコキと首を鳴らしながら服部半蔵くんは手にした書簡を開く。鍛え上げられた肉体を持つ彼でも、未知な乗り物である潜水艇での移動は負担が大きかったらしい。
「能登(石川県北部、能登半島)の畠山家臣団の間で大規模な粛清が起きました」
どうやら、新型砲の夜間戦闘データ収集を兼ねた艦砲射撃があった日の翌日、畠山氏家中で行われた話し合いで、毛利氏への無条件降伏で話が纏まったという。だが、そのことに越後(新潟本州部分)の長尾氏と密かに誼を通じていた遊佐総光が激怒し、長英連や平信光といった毛利氏への降伏を主張していた人間を暗殺。
折しもその頃、能登では大量の雪が降って積もり始めていたため、長氏や平氏の家人は大抵が屋敷に籠っていたため対応が出来ず一族郎党、全て根切りにされたらしい。
「ふむ・・・西にある国では勝利の女神には前髪しかなく、一度逃せば二度と掴むことは出来ないという寓話があるが、能登畠山は生き残る最後の機会を失ったのか・・・」
「「「「「「え?外国の女の神さまって、前髪しかないのですか?」」」」」」
俺の言葉に、今回の報告の場に同席を許した初陣組が驚きの声を上げる。・・・君達、食いつくところがそこなのか?いや、長い髪は美女の条件の一つだっけ?
「あ、次の報告に移ります」
服部半蔵くんは苦笑いをしながら次は北条氏綱さんの近況を報告する。
「伊豆(静岡伊豆半島)に潜伏していた北条左京大夫殿が伊豆の国人衆と共に挙兵。これに相模(神奈川の大部分)の幾つかの国人衆が応じているようです」
「伊豆と相模の国人の中には、未だ北条への恩がある者がいますからね。今川氏虎が占領後に彼等を厚く遇していない限り、北条左京大夫殿の誘いに簡単に乗るのでしょうね」
俺は大きく頷いて見せる。まあ、今川氏虎自身が今川宗家を乗っ取ってから日が浅く、拠り所は今川館と寿桂尼殿の身柄を押さえているということだけだ。とてもじゃないけど、駿河(静岡中部から北東部)の国人や今川家直臣ですら掌握出来たとは思えないんだよね。
「今川治部少輔殿にとっては、駿河奪還のための好機ですね」
毛利徳寿丸くんの意見に初陣組が頭を上下に振る。今川治部少輔殿というのは今川元親くんのことだ。
「あそこは、春までに北条左京大夫殿が相模を纏め、駿河の国境際まで兵を送れるかどうかが鍵ですね」
息子の三四郎がうんうんと頷きながら言う意見に、またもや初陣組が頭を上下に振る。今、毛利氏や武田氏では兵農分離が進み、季節を問わずそれなりの数の兵が動員出来るけど、そうでない所は、基本農繁期を前に終結する。それまでには、自分達の縄張りは確定しておかなければならないからね。
「お前達、今川治部少輔殿を随分と買っているのだな・・・」
「「「「「「今川治部少輔殿の側には、先生が軍師と認める太原崇孚殿がおられますから」」」」」」
初陣組の声が綺麗にハモる。そのハモった声に苦笑いをしながら服部半蔵くんは話を続ける。
「その今川治部少輔殿の遠江(静岡大井川以西)ですが、信濃(長野及び岐阜中津川の一部)の南西部を経由して美濃(岐阜南部)から支援のための兵と物資が届き始めております。恐らく年明けには駿河との国境に兵を進められるかと」
「美濃に余裕が生まれたということは、尾張(愛知西部)の織田備後守殿が折れましたか」
「はっ。能登での砲撃情報を商人を使って流布させたところ、織田備後守殿は態度を一変させました」
織田信秀さん。毛利氏が伊勢(三重北中部から愛知、岐阜の一部)で使用したモノより更に強力な間接攻撃兵器を、能登でしかも海上から使用したことに気付いたようだ。
尾張の生命線である湊を質に取られ、前の美濃守護職である土岐頼芸という火種も国内に抱えている以上、最早足掻きの時間は無いと判断したのだろう。
年内に尾張斯波氏が毛利氏に降れば、今川元親くんは後顧の憂い無く全力で駿河を攻めることが出来るので早めに決断して貰いたいところだ。
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