第10話 能登夜間砲撃戦
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俺の戦闘配置の声に、船倉から兵士達が姿を現す。船には、甲板の船縁や段差のある場所には夜光灯が埋め込んであって、足元を薄く明るく照らしているので、段差に蹴躓くという事は稀だ。
しかも今回はこちら側からの奇襲なので、事前に余裕を持って戦闘配置につくことは可能だった。では、何故わざわざ船倉から兵士が出て来るのか?これは夜間の緊急戦闘の訓練も兼ねているからだ。
やがて艦首に不自然に置かれていた木箱が河野通宣くんと河野通政くんによって解体され、中から現代風なシルエットの砲塔が姿を現す。
砲の口径は75ミリ。砲の全長は400センチ。鋼鉄製の砲身の中身はライフリングが施されており、砲身の中央部には、砲弾射出時の反動を吸収するための駐退機と、砲身先端から出る煙というかガス除けのための盾。最後部には、砲弾装填部と弾薬が風雨や海水に曝されないよう、屋根付の囲いがされている。かなりスケールは小さいけどね。
ちなみに艦尾にも同じような砲塔があり、そちらには杉隆相くんと二宮俊実くんが配置についている。
「艦首1番砲準備完了」
河野通宣くんが叫ぶ。
「艦尾2番砲準備完了」
マストの中段にいて伝令の中継役を任された黒田満隆くんの声が伝声管を通して聞こえる。
「1番砲、2番砲準備完了しました」
俺の隣にいた側近筆頭でもある嫡子の三四郎が報告してくる。
「基本方位。真南から西へ8度修正願います」
方位磁石が設置された板を見ていた毛利徳寿丸くんが叫ぶと、一番砲塔近くにいた河野通宣くんと河野通政くんが、砲塔から少し離れた床に設置されたハンドルをグルグルと回し始める。
ハンドルは、砲塔の乗る台座の下にある大小様々な歯車を組み合わせて作った回転機構に直結されていて、僅かな力でも動かせるようになっていて、床はギシギシと音を立てながらゆっくりとゆっくりと砲塔の向きを変えていく。
「方位。修正完了」
河野通宣くんが叫ぶのと同時に、黒田満隆くんの声も聞こえてくる。
「一番。照明石榴弾装填。仰角52度。二番。焼夷火炎石榴弾装填」
少し離れたところにいた艦長の大内義隆くんが叫ぶと、足早に砲塔横に戻っていた河野通宣くんが砲身の後ろにある装填口に、薬莢が装着された砲弾を皮手袋を装着した右手をグーにして押し込み蓋を閉める。
「仰角修正」
続いて河野通政くんが砲塔に装着されたハンドルを回すと、キリキリと砲身が鎌首をもたげるように持ち上がる。
「一番、砲弾装填完了」
「仰角修正完了」
「「準備完了しました」」
河野通宣くんと河野通政くんが叫ぶ。
「二番。焼夷石榴弾装填完了しました」
黒田満隆くんの声が聞こえてくる。ちなみに石榴弾というのは、西洋では葡萄弾。現代なら榴弾と呼ばれる種類の砲弾のこと。熟れると外皮が弾けて中から果肉が出る石榴に由来したものであり、榴弾の文字に「榴」の字が使われている理由でもある。
「一番。撃て!」
大内義隆くんの命令と同時に、ズドンという轟音が鳴り響き、砲の先端から砲弾と爆発によって赤黒く染められた煙が吐き出される。尚、火縄で火薬に火を点けて起爆するタイプではなく、起爆用の火薬を別に用意し打撃を加えて起爆させるタイプだ。
バン
数秒後、天空に破裂音が鳴り響き、砲弾の中に仕込んでいたアルミニウムと酸化鉄を混ぜた固形物が激しい閃光を放ちながら、落下傘によってゆっくりとゆっくりと落ちてゆく。照明弾自体はガチャで出た戦闘拳銃に付属していた弾を参考に構造とかが判っていたから再現は難しくなかったよ。
「一番、二番。南に一度。仰角45度に修正」
「一番、二番。南に一度。仰角45度に修正完了しました」
マストの一番上にいる見張り員から、砲塔の方向修正の指示が伝声管を通じて伝達され、指示完了の声が返ってくる。
「一番に焼夷石榴弾を装填。二番。撃て!」
再び大内義隆くんの命令と同時に、ズドンという轟音が鳴り響く。数秒後、天空に破裂音が鳴り響き、照明石榴弾に比べると光量は少ないが、流星のような複数の火玉が地上へと落ちていく。これは、照明弾とは違い固形物にマグネシウムや黄燐といった発光より可燃性を主眼においたものを仕込んでいるからだ。
尚、マグネシウムは、鉄を鋼鉄へと鍛錬するために作った高炉が完成したことで、苦土岩から熱還元法で抽出できるようになったので安定して手に入れるようになった。
なにしろ苦土岩自体は、石灰岩に含有される方解石や霰石がカルシウムの代わりにマグネシウムを含んだものなので、石灰岩が産出される場所では普通に産出されるんだよね。
「着だーん」
マストの上からの声と同時に、七尾山の麓に火柱が上がる。
「んー出来れば焼夷剤はナパームといきたいところだが、ヤシ油はともかくナフサがなぁ・・・」
「ナフサとは何でしょう」
三四郎と毛利徳寿丸くんが揃って首を傾げる。
今回、彼等の初陣も兼ねているので、二人とも真新しい鎧と頭に鉢金を巻いているのだが、何というか仕草が可愛らしいな。
「ナフサは燃える黒い水・・・石油という物を加工したもので、ナフサを使えば焼夷石榴弾の威力が飛躍的に上がるのよ」
俺の言葉に、二人は七尾山を焦がす炎と俺の顔を交互に見ならドン引きした顔をする。
「攻撃は最大の防御ですよ」
少し離れたところにいた大内義隆くんが物凄い笑顔で指摘する。
「だな。新型砲の威力や飛距離、夜間戦闘による目標への命中精度は後日の調査結果を待つとして、あと10発は条件を変更して七尾山に打ち込もうか?」
「畠山修理大夫の心を木っ端微塵にするおつもりですか?」
俺の言葉に大内義隆くんは物凄い笑顔を崩す事無く指摘してくるが、目が全然笑っていない。
「攻撃は最大の・・・いや、いい。だが最低でもあと5発は打ち込むぞ」
「半分ですか。まあいいでしょう」
大内義隆くんは大きく溜め息をついた。
尚、夜間砲撃はこの後2発ずつ打ち込んだところで台座に異常が出て中止。速やかに佐渡(新潟佐渡島)へと移動せざるを得なかったんだけどね。
大変お待たせしました。某ゲームの欧州遠征イベントで資源と心に壊滅的なダメージを受け回復に時間がかかりました
申し訳ありませんでした




