第7話 反省会は簡潔に。さあ次行ってみよう
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- 加賀(石川南部) 宮腰湊 駐屯地 -
「では、反省会を始めます」
俺の言葉に、今回の演習の反省会の会場となった一室の空気がピリリと引き締まる。
「まずは、不審船を難なく撃退することに成功したことは見事です。ただ物見の報告で、守備側に船の大きさが角盤級だと情報が流れ、早々に警戒を緩めた兵がいました。これはダメです」
何故ダメなのでしょうという顔している人間が何人かいる。
「今のところ角盤級は我等毛利のみが所有する帆船だからこれは訓練だと見抜いて気を抜いていたように見えます・・・違いますか?」
そう指摘すると、何人かは視線を泳がせる。また演習だと見抜き大胆に攻めた者もいる。賢いのは歓迎するが・・・まあいいか。
「正体を隠して敵の懐に潜り込み、然るべく後に敵内部で混乱をもたらすのは詭道の基本ですよ?」
「ですが!」
「台湾では、既に西の外国船籍であろう角盤級によく似た帆船が目撃されています」
反論しようとした言葉を遮るように指摘すると、ざわりと空気が揺れる。おい待て。何故空気が揺れる。台湾で帆船が目撃されたという情報は正式に書類で報告しているだろ。報告書を読んでないのか?呆れたような眼で周りを見回すと、露骨に視線を逸らす者もいる。ダメだ定期的にテストをしないと。
「世界は広い。なら、毛利と同等の船と火器を持つ国があると想定しなさい」
「「「「「はっ!」」」」」
その返事が口先だけでないことを祈りたい。
- 加賀(石川南部) 宮腰湊停泊中 角盤級 球磨 -
「今度からは、帆に描かれる所属を示す家紋などを偽装する・・・ですか。いや気付きませんでした」
船を指揮していた大内義隆くんが、右手で自分のこめかみをカリカリと掻く。
「こちらも無国籍だと簡単に推測されると気付くべきだったと申し訳ないと思っています」
今回は正体を隠すことと時間を優先したので、所属の偽装に気が付かず指示を行っていなかったと謝罪する。こちらが不審船の迎撃演習をしたように大内義隆くんの側も敵の港に上陸という演習を行っていたからね。演習と看破し気を緩めた人間もいれば、逆手に取って美味しいところを掻っ攫っていった人間もいて色々段取りが台無しになっている。
「いえ、今回のこちらの上陸作戦は前座の余興ですから問題はありません」
「そう言ってくれると助かります。台湾には、西の船に描かれている家紋を収集するよう式神を飛ばしておきます。では周俚。三日後に能登(石川県北部、能登半島)、それから佐渡(新潟佐渡島)にも向かいますよ?」
「佐渡もですか?」
大内義隆くんが僅かに右の眉を上げる。佐渡は、順徳天皇、日蓮、日野資朝、世阿弥といった者が追放刑により流された地だ。そして鎌倉時代初期に佐渡守護となった大佛氏の命により、本間能久が守護代として赴任。以降、雑太城を本拠に佐渡の地を治めているのだが、戦国の世の習いというか、分家の河原田本間氏、羽茂本間氏の台頭により惣領家である雑太本間氏は没落の一途。狭い土地だが有力者が割拠している状態だ。
「佐渡には大きな金と銀の鉱脈があります」
首を傾げる大内義隆くんに対し、俺は大きく頷いて指摘する。実は佐渡は日本でも有数の金鉱脈があったことで有名だが、今この時点では古事記で西三川で砂金が採れるということが有名なだけで、本格的に開発されるのは1542年に鶴子銀山が、1601年に相川金銀山が発見されてからだったりする。
「師匠の鉱脈を発見する仙術は、奇跡の領域ですから間違いないのでしょうが・・・」
「周俚よ、これは仙術などではありません。平安の時代から今の世まで川で砂金が採れる程の金鉱脈があるなら、近隣の山にも鉱脈がある可能性があるという先人達の経験則から予測しているだけの話です」
「おお、勉強になります」
大内義隆くんがキラキラの笑顔で大きく頷く。この辺は大内義隆くんに周俚という名を与え弟子とした頃と変わってない。
「まあ、例え鉱脈が無くても、佐渡は越後(新潟本州部分)から北へと攻め上がるための大事な補給基地として必要なので、気を引き締めるように」
「はっ!」
大内義隆くんは大きく頭を下げる。そう。佐渡をスムーズに占領するために、国人衆を調略したり地形の調査に2年近くの時間と人手を掛けているので、下手は打ちたくないのよね。




