第5話 そよそよ戦ぐ次世代の風
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毛利義元くんを台湾に送るという計画を頓挫から延期に変更しました
(そして結果的に延期もしませんが・・・)
- 1538年(天文7年)10月 -
- 加賀(石川南部) 宮腰湊 -
「ご無沙汰しております大兄さま」
とてとてと、凛々しい顔つきの毛利徳寿丸くんと俺の嫡男である三四郎が走ってやって来る。少し後ろには引率兼護衛役の尼子詮久くんと、6人の少年の姿も見える。
彼等が今回の軍事行動に参加できるのは、彼等が所属する毛利氏の運営している兵士の養成学校での成績が良かったから。他の特に軍を志す学生達は、数年以内に予定されている尾張(愛知西部)侵攻で初陣を飾ることになっている。
「伊予(愛媛)の河野宗三郎と申します」
「伊予(愛媛)の河野六郎と申します」
垂れた糸目と吊り上がった糸目の少年がほぼ声をダブらせて頭を下げる。確か河野宗三郎くんが河野宗家で河野六郎くんが分家の嫡男だったな。
「周防(山口南東部)の杉次郎左衛門と申します」
猫目の小柄な少年が頭を下げる。
「安芸(広島)の二宮杢助と申します」
こちらは杉次郎左衛門くんとは真逆の犬っぽい大柄な少年が頭を下げる。
「播磨(兵庫南西部)の黒田甚四郎と申します」
どんぐり眼にハの字眉の少年が頭を下げる。なお、黒田甚四郎くんは三四郎と毛利徳寿丸くんの次にくる若さである。
なお5人は既に元服しており、順に諱を河野通宣くん(16歳)、河野通政くん(16歳)、杉隆相くん(16歳)、二宮俊実くん(16歳)、黒田満隆くん(14歳)となっている。
「ああ。皆、よく来たな」
グリグリと一番近い毛利徳寿丸くんの頭を撫でる。ちなみに毛利徳寿丸くんは史実と違って6年程早く生まれているけど、史実の小早川隆景くんだ。
尤も、今の毛利氏は、他家を取り込むために養子を送り込む必要が無いし、現竹原小早川氏当主の小早川興景くんも史実とは違い、今年の頭に元就さまの姪との間に嫡男である又四郎くんが生まれたので、養子になる線は薄い。そしてこれは、次男で史実では吉川氏の養子になった毛利元春くんやこの後に生まれるであろう四男以降の息子達も同じだろう。
ただ、毛利義元くんに嫡男が生まれたら、毛利元春くん以降の息子達は、滅んだ名家を復興させたり、跡継ぎのいない家の人間に請われての養子になるとかして、毛利姓を名乗らない可能性はある。
「大兄さまの指揮の元で初陣が飾れるとは感激です」
毛利徳寿丸くんが、物凄くキラキラな笑顔で俺を見る。本来なら毛利徳寿丸くんの初陣はもっともっと後の予定だったんだけど、毛利義元くんが13歳で播磨(兵庫南西部)の姫山城の戦いで、毛利元春くんが11歳で台湾の地で初陣を済ませている。なら、毛利徳寿丸くんが二人の兄の初陣した年齢に近い年齢になったとき、チャンスが巡ってきて本人に初陣を済ませる気があるのなら済ませようということになったのだ。
え?一族の子息を贔屓するのは良くないって?太平の世ならまだしも、物心ついてから今まで戦乱の世で日本の半分を支配している親や周りで支えてる大人の期待に応えるのって大変よ?しかも長男も次男も結果を出している。これぐらいならね。
「此度は、初陣の機会を与えて下さり、ありがとうございます。父上」
三四郎がペコリと頭を下げると、それを見て慌てて毛利徳寿丸くんも頭を下げる。ちなみに二人は同い年で、しかも三四郎は毛利徳寿丸くんの姉であるしん姫さまの婚約者。物心ついた頃からお互いをライバルだと認めて切磋琢磨している間柄である。なら、三四郎と毛利徳寿丸くんは競わせて鍛えるというのが元就さまと一致した意見だったりする。
「今回の目的は、船上からの照明弾の使用と夜間艦砲射撃の実戦訓練を兼ねた七尾城への威力偵察です。直接的な戦闘は想定していませんので敵の首級はとれないけど、危険な目にも遭わないでしょう」
「「はい」」
三四郎と毛利徳寿丸くんの二人が元気よく返事をする。二人を見る他の面々の目は暖かい。
「あ、作戦を行うことは決まっていますが、いつ行うかは決めていません。いつ出陣の命が下されても各自対応できるように」
「夜討ち朝駆けは武士の習い。奇襲の常道でしたね」
尼子詮久くんが真面目な顔で指摘する。
「そうです。ここより東は敵地。いつ敵から奇襲を受けたり侵攻されるか判りません。その辺の対応はみっちり鍛えてあげますからね」
俺の言葉に尼子詮久くん以外の人間の顔が引き攣ったのは言うまでもない。




