第1話 朝倉氏の奉公(罰ゲーム)の時間が終わる
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- 加賀(石川南部) 金沢城(仮)予定地 公務の館 ー
「本日正午をもって加賀の平定は完了。朝倉氏に課された課題は終了です。ご苦労様でした」
俺の言葉に、朝倉宗滴さんと朝倉景紀さんはほっと息を吐く。朝倉宗滴さんとの縁で、朝倉宗滴さんの義息である朝倉景紀さんが俺の義娘である朝顔を娶って俺の一門になったことで朝倉家が断絶する可能性は減っている。
けど、ここで結果を出さなければ、朝倉氏は毛利氏に武家として貢献することが難しくなるので武門の二人には嬉しいのだろう。尤も、武家というか武官でなくても文官としての才があれば毛利氏ではいくらでも立身出世は出来る。
今は出家が決定している当主の朝倉孝景さんも、5年ぐらい真面目にお寺で修行していたら、文官として還俗させるつもりだ。まだ内緒の話だけどね。ただ朝倉孝景さんの史実の実績から見て、ちょっと野心が高過ぎるかな?って思うけど、朝廷や幕府との繋がりを得て一乗谷城城下に京文化を花開かせたり、不得意な軍事は朝倉宗滴さんとかを名代に軍を周辺諸国に派遣して睨みを利かせたり。あと、京から医学者を招いて明の医学書に注釈入れて出版したり、飛鳥井流の蹴鞠を取得したり和歌の評価を逍遙院さんに依頼したり、家臣に軍略や剣法を研鑽させて後に有名な兵法家を何人も生み出したり兎に角多才だ。
「宗滴殿は、某の奉公明けの手紙を持って大坂城の士官学舎に出向。次世代の戦についての研修を受けて下さい」
「次世代の戦ですか?」
朝倉宗滴さんが首を傾げる。
「三国崩しという火砲の原理を応用し小型化した銃という兵器の特性について実際に触って勉強してきて下さい」
「承知しました」
朝倉宗滴さんは頭を下げる。史実における鉄砲伝来は、もうあと五年しかないからね。尤も、うちはでは火縄ではなくライフル銃の様なものにまで進化させているから圧倒的な優位は変わらない。しかしそれでも、西洋列強を警戒しなければならない。
これは、史実と違って台湾も日本も発展させ過ぎたことが理由だ。なんというか台湾に赴任した司箭院興仙さんと尼子国久さんの酒造コンビが、物凄く頑張った。唐芋、ジャガイモ、キャッサバ芋は勿論。米、大麦、葡萄といった酒にできる系の作物の大増産に成功したのだ。
仮に西日本で大飢饉が起きても計画では余裕でカバーできるだけの量が来年から量産される見込みだ。そしてこれらの食料は、東南アジアでの交易に利用する。既に天然ゴムとして使用できるインドゴムノキは発見していて、取引も始めている。出来れば鉱山とかの利権も確保したい。
まあ、食料の供給が原因で台湾の場所は兎も角、存在そのものは西欧諸国にバレているようだ。そして何やら画策しているらしく、中継となっている港に停泊させている軍船の数を増やしているという報告が上がってきている。ソースは、台湾に近付こうとして遭難した不幸なオランダの武装貿易船の乗組員。
ちなみにその船員、台湾に近付こうとして海中から現れた巨大な蟹に船が襲われ、命からがら海に飛び込んで難を逃れたと主張しているらしい。
「義父殿はこの地に留まるのですか?」
「ここには、研修が終わった伊勢(三重北中部から愛知、岐阜の一部)北畠殿が着任予定ですね」
朝倉景紀さんの問いに、北畠晴具さんが加賀に来ることを告げる。
「毛利は尾張(愛知西部)を攻めると聞きましたが?」
「攻めますよ?ただ優先順位で言えば、越前(岐阜北西部を含む福井嶺北)、加賀を復興し整備する方が先です。また攻めるとすれば能登(石川県北部、能登半島)そして越中(富山)を攻める方が先。尾張を攻めるのは少なくとも2年後でしょう」
俺の言葉に、朝倉宗滴さんと朝倉景紀さんが「何を言ってんだお前」という顔をする。
「時間を掛け過ぎですか?」
「逆です。早過ぎです。なんですか2年って」
すかさず朝倉景紀さんが突っ込んでくる。
「検地と道路整備に金をばら撒いて作業に邁進すれば1年。戦が出来るまでに復興させるのに2年あれば余裕でしょ」
「その間の食料はどうするんです」
「はて?食料は来年には山程・・・もしかしなくても、今月の月次報告読んでませんね?」
朝倉景紀さんを睨むと全力で目を逸らされた。
「景紀。今後も抜き打ちで尋ねますから、物資関係は常に把握しておくように。さて話のついでに尾張の状況をおさらいしておきましょう」
がっくりと項垂れる朝倉景紀さんは見なかったことにして、話を進めることにする。




