第8話 台湾海賊拠点の制圧
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市杵島級と呼ばれる小型キャラック船が簡素な桟橋に船体を横付け錨が落とされる。
「接岸完了!棍を落とせ。下船準備」
船の縁に居たこの船の艦長でもある日祖一徹が叫ぶのと同時に、船から長さ2メートル近い木の棒が5本を一束として十束ほど無造作に落とされ、同時に3本の縄が桟橋側に落とされる。
「ごー、ごー、ごー」
毛利海軍において畝方式と呼ばれる掛け声が叫ばれ、船の縁から垂らされた縄を使って胴鎧をまとった兵士たちが次々と桟橋に降下していく。その数五十人。そのうち半分の兵が先に落とされた棍の束を拾って周りの兵に棍を配り砂浜周辺を警戒し始め、残る半分の兵は、続けて船から降ろされる葛籠を受け取り開けたところに移動させる。葛籠の中には刀や槍といった武器が入っていた。
「第一小隊から第四小隊は周辺の索敵と巡回。第五小隊は交代要員と後方との連絡任務。抵抗するなら斬って構わん」
船から落とされた縄で最後に降りてきた坊主頭にトラ髭の男、田原親述が大声で指示を出す。
「「「「はっ」」」」
葛籠から槍や小太刀を取り出し装備していた兵たちが五人一組になって整列し、田原親述に向かって頭を軽く下げると、集落を遠回りに避けるように走り出す。ちなみに毛利では畝方が組織した五人を一組としたものを小隊。四個小隊と予備の小隊を中隊。四個中隊+総指揮官が率いる中隊を大隊と呼び運用をしている。
「第六から第九は集落の制圧。第十はその交代要員と連絡任務。賊の捕虜は要らん。奴隷も積極的に保護しなくてよい」
「「「「はっ」」」」
索敵に出た兵士と入れ替わりに田原親述の元に集まって来た兵が、葛籠に残った小太刀と槍を装備すると、田原親述に向かって頭を軽く下げて集落に向かって走り出す。
「親父殿。ここに陣幕を張りますか?」
田原親述によく似た青年が声をかける。田原親述の副官であり実の息子である田原親董だ。
「船上から見た集落の様子は?」
「こちらに討って出る様子は無いようです。大国殿の予想通りかと」
「賊は命大事。遁走できるなら我先にと逃げ出すことを優先する・・・か」
田原親董は大きく息を吐く。
「どうしました?」
「いや、今更ながら畝方殿の恐ろしさを実感してな」
「石見(島根西部)大山の大天狗。その渾名に偽りなしですよ」
「西山城の目と鼻の先に夜陰に乗じて強襲上陸作戦を実行したのも驚いたがな。今回は真昼間だぞ」
田原親述の言葉に田原親董は笑う。ちなみに畝方元近の評価だが、内政と外交を熟し、大量に死をもたらす疱瘡神を調伏し、多彩な式神を数多く操り、領民に知識と富と物珍しい物をもたらす大山の大天狗。そう毛利領に住む大勢の人間は評価している。まあ、もうひとりの超常能力者である司箭院興仙とつるんでいるのも大きいのだが・・・
なお司箭院興仙は細川京兆家の全盛期を築いた管領の細川政元の側近を務めたこともある人物で、鞍馬の大天狗とも呼ばれている。その彼が以前に仕えていた管領の細川政元は、半将軍と呼ばれ意に沿わない将軍の首を挿げ替える。織田信長より前に比叡山を焼き討ちするなど幕政を牛耳った権力者だった。
「ただ、まあ畝方殿の募集に乗っかって良かった」
田原親述は顎鬚を触りながら独り言ちる。それを見ていた田原親董は「親父殿は寒いのが苦手ですからね」と突っ込むことはしなかった。
- ☆ -
海賊の拠点は直ぐに陥落した。大国四郎が読んだように拠点には20人ほどの奴隷・・・足に拘束具が嵌められていて奴隷と判断された・・・が居たぐらいで、すっかりもぬけの殻だった。
「思った以上に敵は思い切りが良いな」
3人の護衛と副官である大国四郎に守られながら、北郷忠相が集落に入ってくる。
「ここが奴らの本拠地ではない。というのが大きな理由でしょうな」
こきこきと首を鳴らしながら田原親述が北郷忠相たちを出迎える。集落を制圧した後、田原親述たちは入念に家探ししたのだが、結果は長期保存ができる食料と船の修理道具。質素な武器だけだった。
少し考えてみれば予想できるのだが、交通手段が船だけとなる秘境といって差し支えないこの地で使ってナンボの金目の物を蓄えるのはあまり意味がない。彼らの本業は商人であり海賊はあくまでも副業だ。
「位置的に、ここは破棄するのがいいな」
「定期的に巡回は必要ですがそれがいいでしょうな。それで保護した奴隷はどうします?」
僅かに眉根を寄せて田原親述は質問する。
「働くことを希望するなら雇えばよいだろう。それぞれの故郷に戻すことは出来んが、どうした?」
田原親述の表情で何かを察した北郷忠相が逆に尋ねる。田原親述曰く、奴隷の中に「自分は朝鮮王家に連なる者だ」と主張し好待遇を求める人間がいるらしい。中々に判断に困る問題だが、ワンクッションおいて北郷忠相の右後ろで控えていた大国四郎が「排除しましょう」と進言する。
「「ほう?」」
北郷忠相と田原親述が声を合わせて聞き返す。
「畝方先生曰く、どこの国であれ王家に連なる者であるならすぐに身代金に変わっている。そうでないのなら、その者の主張が嘘か、王に疎まれて助けてはいけない者だと」
最後に「疎まれて助けてはいけない者」と言われ、北郷忠相と田原親述は、大国四郎が「排除しましょう」と言ったことの意味に気付く。
そう。その者が本物であれ偽者であれ、いまはほとんど国交のない国の王家を名乗る者など保護するだけで厄介事の火種を灯し続ける穀潰し確定だ。
その後、王家に連なる者を称する奴隷がすぐに隔離され、その後消息を絶ったのは当然の帰結だった。
wikiによると倭寇と称する海賊(中国人、朝鮮人、日本人の混成チーム)が中国や朝鮮半島の沿岸で奴隷狩りをして日本や東南アジアにきた南蛮人とかに売っていたそうです。たぶん攫われた日本人もいて言葉の通じない国に売っていたんだろうなぁ・・・彼らは貿易商なので




