第15話 賤ケ岳の西 とある湖岸への揚陸作戦
閲覧・感想・ポイント評価・ブックマーク・誤字報告ありがとうございます
文化人でもある朝倉宗滴さん(敵対したが敬意はあるので保留)が仕掛けた苦肉の計。どこかの時点でこちらの食糧集積所を焼き討ちして退路を断つ予定だったのだろう。朝倉兵たちの荷駄を検めたところ明らかに大量の油壺を隠し持っていたことが判明する。
なお、朝顔が朝倉宗滴さんの策を見破ったのは、彼女が石見(島根西部)にある矢滝山愛宕司箭院という学問所で生徒として学問に励み、卒業してから嫁ぐまでは文学系の先生みたいなことをしていたのが理由だ。特に俺が教材として提供した簡易版の古典文学のうち軍記物が大好きだったからね。
あと、物語風な手紙の文末に「手紙をしたためて方々に送る」と書いてあるということは、既に元就さまと越前(岐阜北西部を含む福井嶺北)の国境に駐屯している北陸防衛隊に朝倉氏の毛利氏への敵対が報告されているということだ。
元就さまなら即座に北陸防衛隊を敦賀へと送り込むし、北陸防衛隊を指揮している尼子国久さんも戦の準備は整えているだろう。しかもいま敦賀沖には我が軍の軍船が停泊している。
そして、敦賀郡司である朝倉景紀さんが毛利氏に寝返ったことになっているし、利用しない手はない。これで南の六角氏に続き北の朝倉氏が包囲の輪に参加できない、もしくは大幅に遅れることになる。細川晴元による毛利氏包囲網は破綻したといっていいだろう。
「しかし良かったですね。最悪でも名門である朝倉宗家の血は残せる」
そう囁くと、朝倉景紀さんは身体をビクンと跳ねさせる。
「あと九郎左衛門尉殿には宗滴殿をこちらに引き込んでもらうという仕事があります」
「え?」
朝倉景紀さんの顔がきょとんとなる。
「文武に優れた将を野に放つとか黄泉路に送り出すとか、そんなもったいな・・・げふんげふん。万卒は得易く一将は得難しですよ。そうとう骨が折れるハズです。覚悟しておいてください」
お家のためとか言えば、朝倉宗滴さんも二つ返事でこちらに投降するだろう。この時代の武士は生きることに躊躇いが無い。死んでどうこうというのはもっと後の時代の信念だからね。
策の詳細を知っていた朝倉軍の幹部を口では言えないような説得を行い、何も知らない賦役で駆り出された農民兵。金で雇われた傭兵や手柄を求めて陣借りをしていた牢人のうち希望者を再雇用。部隊規模を100人ほどに縮小して再編成する。
うちの幹部と話し合った結果、朝倉景紀さんは出番が来るまでは長法寺にて軟禁。島津忠近くんに兵200を預けて、朝倉景紀さんを監視させる。俺たちは兵3,200を率いて、最終的な備蓄基地をつくるため賤ケ岳西の麓に向かう。
ー 北近江(滋賀北半分)賤ケ岳近くの湖岸 ー
夜の闇の中でクルリと光が円を描く。すると離れたところで真横に光が走る。
ずさっ
砂の上を硬いものが滑るような音がいくつも響き渡り、やがて「ばたん」「ばたん」という音が響く。
「イワミの砂丘に雁は舞い降りるか?」
俺は暗闇に向けて声をかける。
「イワミの砂丘に雁は舞い降りない。砂丘に舞うのはカゲロウ」
闇の向こうから今川貫蔵くんの声で合言葉が返ってくる。俺は懐からガチャ品の夜光灯を取り出すと顔の近くへと掲げる。闇の向こうに今川貫蔵くんの顔が浮かび上がる。
「ご苦労さま。道標である夜光灯は100歩毎にあります」
「了解しました。ということだ。輸送を開始してくれ」
「はっ」
今川貫蔵くんが後ろに声をかけると、男の声とどすんどすんと音が響き始める。音の正体は加工された木材やセメントといった建築用の資材。いま行われているのは、衣川城から船を使い夜陰に紛れおこなわれる揚陸作戦だ。
「敵はこちらに気付いていますか?」
「気づいてないようです。ですが、そろそろ敵を上平寺城から引き剥がさないといけませんね」
斥候からの報告によると、上平寺城に籠る渡辺勝さんの軍はかなり疲弊しているらしい。それと、京極高清とその重臣たちは、一度上平寺城が開城したときに城外へと逃げ出して姿をくらましたという。
降伏するために開城したのに再び城内に追い返されるとかふざけた話だが、敵の目的はあくまでも渡辺勝さんを餌に毛利軍を北近江の東端に釣り出すことなのだから当然の行動なのだろう。
「ああ、六角の方はどうなりましたか?」
「詳細は後ほど報告いたしますが、昨日の早朝に北式部少輔殿を総大将にした兵15,000と六角軍の兵5,000が大津の西で激突しました」
俺の問いに今川貫蔵くんは淡々とした口調で答える。ちなみに北式部少輔殿というのは元就さまの異母弟である北就勝さんのこと。というか動員されてる兵が増えている。
「六角軍は半日と持たず崩壊。潰走しました」
平地で三倍差の相手と激突。まあそうなるな・・・
1,000字毎にズレてる・・・




