第6話 伊予川(重信川)・石手川の戦い
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1529年(享禄2年)7月
- 伊予(愛媛)-
- 三人称 -
八幡浜に上陸した毛利軍は、地蔵ヶ嶽(大洲)城で宇都宮清綱の兵500と救援に来た西園寺公家の兵500と合流。毛利軍は地蔵ヶ嶽城に村上義雅を守将に兵500を置き、島津貴久、肝付兼興、宇都宮清綱の率いる兵1500を地蔵ヶ嶽城から東北にある久保高実が守る龍王城を経て、出淵盛政が籠る伊福城に進ませ、そこから島津貴久たちは山岳地帯を通って鍛冶屋峠から砥部に抜け、伊予川と石手川の合流地帯に至る。
一方の井原元師、畝方元近、西園寺公家は兵1500を率いて地蔵ヶ嶽城を横切る肱川に沿って北上。岡崎城、粟ヶ森城を経て祖母井之重の守る祖母井城を攻める。そこから井原元師軍は、祖母井城を陥落させると海岸線にある由並本尊城を落とし、そこで兵糧と物資を補給すると地蔵ヶ嶽城の村上義雅に指示を出して海岸沿いに北上し、島津貴久たちに合流した。
「攻撃開始!」
石手川を背後に地帯の北側に展開していた正岡経貞、重見通種、平岡頼房、大野利直ら予州河野氏についた国人兵4000と伊予川を目の前に地帯の南側に展開していた井原元師、畝方元近、島津貴久、肝付兼興、宇都宮清綱、西園寺公家の率いる毛利兵3500が激突する。
序盤は、十分な準備期間と数をもって待ち構えていた予州河野氏が押せ押せだったが、最初から守ることを周知徹底させた毛利軍を完全には攻めきることはできず膠着状態に陥る。
「矢を射掛けよ」
宇都宮清綱、西園寺公家の軍から西に展開していた大野利直の軍に矢を射掛ける。対抗するように大野利直の陣からも矢が射掛けられるが、井原元師の兵が持っていた竹束が掲げられ大半が防がれる。
「反撃だ」
再び大野利直の陣に矢が射掛けられる。ジリジリと削られていく大野利直軍。川を挟んで睨みあって、損害が出ていない中央と左翼の差がジリジリと出ている。
「常陸介さま。そろそろかと」
「おう。行ってくる」
畝方元近に耳打ちされ、井原元師は騎馬兵50を率いて宇都宮清綱、西園寺公家の軍の後方を抜ける。無論この動きは大野利直の軍に丸見えだった。
「毛利が川を渡って迂回してくるぞ。迎撃を要請してくれ!」
大野利直は、当然だが援軍を要請する。
「大野殿より、毛利軍が側面に回っていると、後詰めを要請しています」
「判った!正岡殿にお願いいたそう、数は?」
平岡頼房は伝令の兵に聞き返す。
「70から80かと」
「なら100もあれば良かろう」
伝令兵の言葉に平岡頼房は頷き、そう指示するように命令する。やがて伝令が通ったらしく近くにいた正岡経貞の兵が動き始める。
しゅぽん
不意に毛利軍の方から間抜けな破裂音がして空に黒い煙がたなびく。
「何じゃ、今のは?」
「さあ?」
しゅぽん
西の方に似たような間抜けな破裂音がして空に白い煙がたなびく。
「合図か?」
空にたなびく煙を眺めながら、平岡頼房は呟く。
ひゅん
「ぎゃ!」
平岡頼房の周りにいた兵が身体中に矢を生やし、悲鳴を上げて倒れる。
「な」
慌てて振り向く平岡頼房の肩に矢が刺さる。
「敵襲!東より毛利の兵その数800。旗指は村上家のものです!」
「なんだと?村上水軍か!?」
平岡頼房は肩に刺さった矢をへし折り叫ぶ。
「旗指はもう一つあります!紋は一条藤!」
「土佐(高知)の一条が?何故こんな所に!ええい、反撃せよ!!」
平岡頼房の怒声が響く。
「うむ。ドンピシャ。島津、肝付に突撃の合図を」
「はっ」
畝方元近の命令が下り「ぶおー」井原元師軍から法螺貝の音が朗々と響き渡る。「おう」と島津貴久、肝付兼興軍から野太い声が上がると、うねるように動き始める。
「では我らも常陸介さまに合流し河野軍を鏖殺しましょうか」
島津貴久、肝付兼興軍が勇ましい声を上げながら動き出して暫く、井原元師、畝方元近軍も動き始める。
「掛かれ!逃がすな!!」
毛利軍の掛け声と共に、たちまちのうちに河野軍は崩れていく。正岡経貞、重見通種、平岡頼房、大野利直といった名のある国人頭領は討死することなく西へと逃げていったが、率いていた兵の大半は死ぬか降伏するかして失われる。
この事を知った湯築城にいた河野通存は城を囲むだけであっけなく毛利に降伏するのであった。




