第7話 義隆くんが直弟子になって残ったのは島津だけ
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- 豊後(大分南部) 西山城 -
「大内は毛利さまに臣従いたします」
そう言って大内義隆くんが元就さまに向かって頭を下げた。同時に彼に同行していた陶興房さんと弘中興勝さんが頭を下げる。
「某からもお願いいたします」
この度の話し合いの仲介した俺も頭を下げる。
少弐氏を滅ぼしたときの宴席で、大内義隆くんが大友と同じ条件で毛利氏に臣従したいので仲介して欲しいと頼まれた時はびっくりしたけど、理由を聞いて納得もした。少弐氏を駆逐したことで、大内氏は毛利領内に内包されてしまったのだ。
大内氏はこれ以上の領土拡張が望めず、毛利氏はいつ爆発するか判らない爆弾を内に抱えることになる。外敵なく力を蓄えていく大内氏を、いつまでも毛利氏が放置するとは思えない。無茶な圧力で擂り潰されるより前に臣従した方が有利ではないかと考えたらしい。
大内義興さんと大内義隆くんが人質という立場を交換し、大内義隆くんが実質的な大内氏頭領となってからずっと話し合って、そう結論付けたそうだ。また、大内氏で反対派だった武将も、大内義興さんへの近況報告の使者として長門、周防を歩かせると例外なく賛成派に回ったという。
まあ、現毛利領の石見(島根西部)と安芸(広島)での発展ぶりと、長門(山口北西部)、周防(山口南東部)の復興速度を目の当りにしたらね・・・
大内義興さんも特に反対はしなかったそうだ。
「毛利なら、家督を巡って身内が争うことも少なくなるだろうよ」
と、大内義興さんはしみじみと呟いたそうだ。鎌倉から続く本領安堵と新恩給与。限りある土地を基準とするため、相続を巡って兄弟が叔父甥が従兄弟同士が血で血を洗う抗争を繰り広げてきた。
今の毛利は、俸禄は仕事の内容に応じて金で支払われる。身内で相続するのは住んでいる家と官位と蓄えた私財ぐらいだ。
代々身内で抗争し、更に弟に殺されそうになった大内義興さんにしてみれば、子や孫が血みどろの争いをする可能性が少しでも減るのは歓迎という事らしい。
大内氏の毛利氏への臣従は、薩摩(鹿児島西部)で毛利氏と和議交渉をしていた島津氏の元にもたらされた。
「儂らは京かぶれの大内とは違うでごわす!」
交渉の席で島津実久が顔を真っ赤にして叫んだそうだ。
「よろしい。ならば戦だ」
口羽広良さんがカッコよくそう言い放ったと、才蔵さんが目をキラキラさせながら報告してくれた。
- ☆ -
「大内周防介義隆。貴殿を我が弟子として認め、周俚を名乗ることを許す」
「ははっ。有難き幸せにございます」
大内義隆くん、いや周俚が大袈裟に頭を下げる。大内氏が毛利氏に臣従を許された日、大内義隆くんは俺の直弟子になることを強く希望した。
少弐資元の軍を撃退し、没落しかけた名門大内の名を再び世に示した大内義隆くんの願いを、元就さまは大笑いしながら許したのだ。
周俚にしてみれば、自身の妻子を保護してくれている俺の傘下に入ることは、え?関係ないの?まあ、妻子が世話になっているから俺の配下になりたいとした方が周りの理解は得やすいか。
ついでに弟子としての名乗りを欲しがったので周俚という名前も与えた。人偏に山で仙だから弟子は人偏に里で俚を名前につけようという事になったのだ。
「周俚が弟子になった祝いとして、俺の儀式に参加することを許そう」
俺はアイテムボックスからガチャ箱を取り出す。
「貫蔵も、居るんだろ?」
俺は天井の隅に向かって問いかける。
「はっ」
声を掛けた反対側から今川貫蔵さんが姿を現す。こっそり俺の語録を集めていたぐらいだ。ガチャ箱の秘密ぐらい随分前から知っていて当然だよね。
「うひ」
周俚が悲鳴というか奇声を上げる。
「貫蔵。許す」
それを聞いた今川貫蔵さんが司箭院興仙さんも真っ青な謎の踊りを踊り始める。うん、随分前から知っていたのね・・・
「何が出るかな、何が出るかな、ちゃらぁららら、ららららぁ、ぽちっとな」
怪しいリズムを口ずさみながら今川貫蔵さんがガチャ箱のボタンを押す。
がしゃん
出てきた手の平に収まるぐらいの大きさの様々な形をした小刀が3枚10種類。それが箱に入ったC手裏剣セットだった。テレビ番組で安全性を考慮して生まれたという卍の手裏剣まであるのがなんだかおかしい。いや、この卍の手裏剣がガチャになった理由なんだろうな。
「貫蔵。これは暗器だな。忍び働きをしている者の護身武器として下賜する。ああ、煙蔵と半蔵にも渡してくれ」
「はっ。有難き幸せ」
今川貫蔵さんは懐から大きな布を取り出し大事に包み込む。
「し、師匠。凄いです」
周俚が目をキラキラとさせる。
「他言無用だぞ」
「当然です!」
キラキラが眩しい。なお周俚呼びは身内のときだけで人前では大内義隆くんである。




