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魔法学園74

 

「ヴィヴィアナ先輩、曲が始まります!」

「あら、大変」


 会場に戻ると、ちょうど三曲目が始まるところだった。

 ヴィヴィとジュストは走るようにダンスフロアに滑り込むと、何事もなかったかのように踊りの輪に加わった。

 お互い澄ました顔をしていたが、すぐにおかしくなって噴き出す。


「先輩、踊り始めたばかりなのに、僕はもう息が切れています」

「私もよ。それなのに、笑いも堪えないといけないなんて、拷問だわ」


 もうほとんど背丈の変わらないジュストと手を繋ぎ、くるりと回った時に本部席のジェレミアと目が合い、わざとらしく窘めるような表情を向けられた。

 今の無作法なダンスの入り方を、しっかり見ていたぞと言わんばかりだ。

 実際、見ていたのだろう。

 ヴィヴィもまたわざとらしくつんと顎を上げて無視する。


 そしてもう一度くるりと回ると、今度はランデルトの姿を見つけた。

 ランデルトは知らない女子生徒と踊っていたが、ヴィヴィの視線に気付いたのか、顔を上げて微笑む。

 やっぱりあの笑顔に弱い。

 ヴィヴィは今のを見られていたらどうしようと、恥ずかしくなって顔を伏せた。


「先輩は……」

「ええ、何かしら?」


 ジュストは何か言いかけたが続かず、ヴィヴィは視線を合わせて促した。

 すると、ジュストはためらいがちに口を開く。


「その……ヴィヴィアナ先輩は、ランデルト先輩と一緒にいて楽しいですか?」

「――え?」

「ランデルト先輩と一緒にいる先輩は、無理しているように見えます」


 そこまで言って、ジュストは顔を赤くして俯いた。

 ヴィヴィは一瞬困惑したものの、この気持ちを上手く伝えられるような言葉を探した。


「もし、ジュスト君から見て、私が無理をしているように思えるのなら、そうなのかもしれないわ。でもね、それは私が先輩のことを大好きで、嫌われたくないからなの。どうすれば先輩好みの女性になれるか、どうすれば好きになってもらえるかって考えて、先輩の前に出ると緊張してしまうのよ」

「それって……疲れませんか?」

「いいえ、楽しいわ」

「楽しい?」

「私はね。たぶん、人それぞれだと思うけど、今は緊張して当たり前なのよ。まだ付き合い始めて半年ほどだもの。だけど一緒に過ごす時間が増えていけば、先輩の――相手の好みもわかってくるし、もちろん嫌なところだって見えてくるわ。それも含めて全部が恋愛だと思うの。それに私だけが好かれるように努力しているんじゃなくて、先輩も私のために色々と考えてくれているのはわかっているから」


 そう答えたヴィヴィは直感を信じて、ランデルトがいるであろう方に視線を向けた。

 途端に、示し合わせたようにランデルトと目が合う。

 今度はヴィヴィも微笑むことができ、微笑み合う二人をジュストは見ていた。


「……僕にはまだ難しいみたいです」

「これに関しては、必ずしもわかるわけじゃないと思うわ。恋の形は色々あるから」

「そうみたいですね。兄上を見ていると、そう思います」

「ジェレミア君?」

「え? あっ、いえ。よ、よくわからないですけど、兄上には幸せになってほしいなって……」


 納得したように呟いたジュストの口から、ジェレミアの名前が出てきて、ヴィヴィはかすかに驚いた。

 ジュストは無意識だったようで、あたふたしながらも言い繕う。

 そんなジュストを見下ろして、ヴィヴィは微笑んだ。

 ジェレミアにしてもジュストにしても、入学したばかりの頃のことが嘘のように変わった。

 第三王子のことはヴィヴィにはどうしようもないが、二人はきっと将来も助け合っていくだろうと思える。


「私は、ジュスト君にもジェレミア君にも、幸せになってほしいわ。でも幸せの形も色々あって、他人が判断できることでもないから難しいのよね。だからまずは自分が幸せになれるよう努力したらいいと思うの。ねえ、ジュスト君。一緒に幸せになりましょうね?」

「……なんだかプロポーズされているみたいです」

「あら、本当ね」


 顔を赤くしたジュストの言葉に、ヴィヴィは目を丸くして、それから二人で笑った。

 今のヴィヴィは十分に幸せで、これからもこの幸せが続くよう努力するつもりだ。

 そしてみんなが幸せになれるように、できる限りの力を尽くそうと思っていた。




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