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魔法学園66

 

 一度教室に戻ったものの、次は新入生との対面式のため、先生がくるとすぐに体育館への移動となった。

 ヴィヴィとアルタは先ほどよりもぐっと親しくなれていて、一緒に向かいながらもあれこれと話をしていた。

 それがヴィヴィの緊張だか期待だかわからない複雑な気持ちを解してくれる。


 いよいよひと月ぶりにランデルトの姿を見ることができるのだ。

 もちろん会話ができるわけではない。

 しかも今日は委員会があるので、放課後も会えない。

 だが明日は放課後にまた食堂で会おうと四通目の手紙で誘われていたので、ヴィヴィはそれだけを頼りに、ランデルトと付き合っているのだと自分を励ましていた。


 そして始まった対面式では、在校生の出番は八回生以外には、はっきり言ってない。

 皆たいていはあくびを堪えながら、式が終わるのをやりすごすのだが、今年は第三王子が入学してきたことで、皆の関心を集めていた。

 今のところ、男子寮で何かあったとは聞いていないが、皆はジェレミアの出方を窺っているらしい。

 また、ジュストとは一学年しか違わないので、そのことに関しても注目されいると、ミアから聞いていた。


 ただ、ヴィヴィの関心はひたすら壇上の近くに控えるランデルトのみである。

 ひと月ぶりに目にするランデルトは、さらに日に焼けているようだ。

 しかし、どことなく動きがぎこちない気がした。


(次は先輩の挨拶よね……)


 生徒代表として、会長から新入生に向けての歓迎の言葉が贈られるのだ。

 ちなみにお祝いの言葉は入学式で贈っているはずである。

 ヴィヴィは壇上へ上がるランデルトを、どきどきしながら見守った。

 先ほど、動きがぎこちないと思ったのは勘違いだったようで、とても堂々としている。


(ああ、やっぱり好きだな……)


 演台の前に立ったランデルトを見て、ヴィヴィは自分の想いを改めて噛みしめた。

 その時、距離があるはずなのに目が合い、ランデルトは微笑んだ。

 すぐに視線は新入生たちへと向けられたが、ひと月ぶりのランデルトの微笑みは、ヴィヴィの心臓を鷲摑みにする。


 ヴィヴィは興奮のあまり倒れてしまいそうになった。

 しかし、ここでそんなことにでもなれば、大騒ぎどころの話しではなく恥ずかしくて死ねるレベルである。

 よろめくことも許されず、ヴィヴィは耳に心地好い低音の声を聞いて、どうにか正気を保っていた。


「ヴィ、ヴィヴィ……大丈夫? 顔が赤いけど……?」

「鼻血出そう」

「ええ?」

「だって、ランデルト先輩がかっこよすぎて……」


 対面式が終わり、教室へと戻る途中、アルタが遠慮がちに問いかけてきた。

 ヴィヴィが素直に答えると、アルタはポカンと口を開けたが、すぐにはっとして、それから恐る恐るまた質問してくる。


「ヴィヴィとランデルト先輩は……お付き合い、しているのよね?」

「ええ。そうなんだけど、この長期休暇は先輩が色々とお忙しかったので、お会いできなかったの」

「それは確かに久しぶりで興奮するかも」

「でしょう? でも、先輩の様子がいつもと違ったような気がしたわ」

「そうかなあ? いつも通りかっこよかったと思うけど……」

「え? アルタ、先輩はダメよ!」

「いえ、それは、ない……」


 ヴィヴィが答えると、アルタは同情しただけでなく、先輩はかっこいい発言まで飛び出した。

 それを聞いたヴィヴィの焦りように、アルタは否定しようとして噴き出す。


「アルタ……?」

「ご、ごめんなさい。ヴィヴィが……可愛くて……」

「ええ!?」

「だって、もっと……余裕があるのかと。でもヴィヴィも私と……私たちと、そんなに変わらないんだなって思ったら安心しちゃった」

「安心?」

「何て言うか……貴族の方って、何でもできて、何でも手に入って、悩みなんてないかと思ってた……ごめんね、偏見だった」

「う、ううん! 謝る必要はないわ! 私って態度は大きいし、顔もきついから……でも本当は自信がないの。魔法科に進級したのだって、本当によかったのかって不安でいっぱいで……。ジェレミア君のお茶会でアルタやリンダ、他の二人と仲良くなれて本当に嬉しいの。今日もクラスに入るのが怖くて、アルタがいてくれたから堂々としていられたのよ。それで、早くアルタともっと仲良くなりたくて、言葉遣いまで強制しちゃって……ごめんね」

「そ、そんな! ヴィヴィこそ、謝らないで! 私だって、こうしてヴィヴィとここまで親しくなれるなんて思っていなくて、今はすごく嬉しいから!」


 そこまで言って、今度は二人で噴き出した。

 お互い謝り合って、仲良くなれて嬉しいと言い合って、子供みたいだと思ったのだ。

 ひと通り笑いが収まると、ヴィヴィはゆっくりと口を開いた。


「それじゃあ、これから改めて友達として付き合ってくれる?」

「もちろんよ」

「身分とかなしで?」

「遠慮なくね」


 ちょっとだけヴィヴィが緊張して問いかけると、アルタは明朗に答えてくれた。

 これから三年間の学園生活がぐっと楽になったようで、ヴィヴィはほっとした。

 本当にアルタに出会えてよかった。

 絶対にジェレミアには何かお礼をしようと改めて決意した時、どこからともなくヴィヴィを呼ぶ声が聞こえた。


「――ヴィヴィアナ君……ヴィヴィアナ君」

「はい?」


 あたりをきょろきょろと見回しても、声の主が見つからない。

 低い男子の声なのだが、ヴィヴィには聞いたことのない声で顔もわからないから余計だろう。

 すると、アルタがヴィヴィの腕を軽く引っ張った。


「ヴィヴィ、あちらに……」

「え?」


 アルタは声の主を見つけたのか、指をさして教えてくれる。

 そちらへと視線を向けたヴィヴィは驚いた。


「……ダニエレ先輩?」


 アルタが指さした先――一階の階段下の陰になった所から、ランデルトの友人のダニエレが隠れるように立っていた。

 そして、顔だけ出してヴィヴィへと手招きしている。

 あまりにも怪しい人物と化してしまっているが、ヴィヴィは顔だけはよく知っているので、招きに応じて近づいていった。




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