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魔法学園62

 

 ヴィヴィとランデルトが食堂で放課後デートをしていたという噂は、あっという間に学園内に広がった。

 どうやらあの二人は本当に付き合っているらしいと。

 しかし、何度か放課後デートを繰り返すうちに、当たり前になったようで、今では視線を感じることもなくなっている。


 ちなみに初放課後デートの翌日に、魔法学室から闘技場を覗いたヴィヴィは、ランデルトとダニエレがまた顔に怪我をしている姿を見かけた。

 そのことを心配したヴィヴィだったが、ランデルトからは男の見苦しい嫉妬だから気にしないでやってくれと言われたのだ。


 本当に魔法騎士科はよくわからない。

 ただ、六回生になって魔法科に進めば、合同授業もある魔法騎士科のことも少しは理解できるかなとヴィヴィは思っていた。

 いよいよ五回生も終わりを迎え、長期休暇が始まる。

 六回生からは、本気で将来を見据えたクラスに進級することになるので、クラスのみんながどこかそわそわしていた。


 来年は成人するというのも大きいだろう。

 そしてヴィヴィは初の恋人がいる長期休暇となるのだ。――と、胸を躍らせたが、魔法騎士科の新八回生は長い合宿のようなものがあるらしい。

 ただ手紙のやり取りは約束しており、ヴィヴィは今までと違う長期休暇に期待もしていた。

 それにマリルだけでなく、クラスが別れてしまう友人たちと泊りがけでの女子会のようなものも企画している。


 また、ヴィヴィたちはジェレミアとジュスト二人主催のお茶会への招待もされていた。

 ジゼラは招待したが、断られたそうだ。

 今や、第一王子と第二王子は手を組んだとみなされており、それぞれの実家は――特にジュストの外戚であるカンパニーレ公爵は苛立っていると噂されていた。


 結局、ジェレミアが何を考えているのかはわからないが、ヴィヴィは友人としてできることは精一杯協力しようと決めているので、父であるバンフィールド伯爵に出席の許可をもらったのだ。

 伯爵は、最近冷たい娘が話しかけてくれたことが嬉しかったらしく、話の内容にもかかわらず終始ニコニコしていたのは余談である。


「それじゃあ、みんな……次に学園で会う時は別のクラスっていうのは不思議な感じがするけど、でも変わらず仲良くしてね」

「当たり前だろ、ヴィヴィ。それに、休み中も会うんだから。なあ、ジェレミア?」

「うん、そうだね」

「二人の王子主催の茶会なんだから、さぞ趣向を凝らしてるんだろうな?」

「無駄に期待値を高めないでくれ、フェランド」

「私も楽しみにしています、ジェレミア君」

「マリルさんまで、やめてくれよ」


 珍しくマリルまでフェランドの冗談に乗ったので、ジェレミアは困ったように答えた。

 学園を卒業すれば、男女の間には明確な線引きがされる。

 六回生からはクラスも別れるために、このような気安いやり取りもできなくなるだろう。


 ヴィヴィはみんなの会話を聞きながら、少し寂しく思いつつも笑った。

 それから、ジェレミアとフェランドにしばらくの別れを告げ、マリルと一緒に寮へと戻る。


「でも、本当に早いわね。もうすぐ六回生だなんて」

「そうね。私は順当に家政科進級だけど、ヴィヴィは魔法科だものね。緊張してる?」

「正直に言えば、してる。残念ながら魔法科に進む子たちで、仲の良い女子はいないから。同じ補助委員だった男子が一人いるだけ」

「そうなのね。じゃあ、ひょっとして生徒会は……?」

「うん。執行部にはその男子がなるかな? すごく仕事もできるし、私が推薦しようと思ってるの。まあ、先輩と生徒会を理由に会えないのは寂しいけど、それ以外の時には会えるから」

「もう、学園でもすっかり公認の仲になったものね?」


 マリルの言葉に、ヴィヴィは笑顔で応えるだけにした。

 口を開けば惚気てしまいそうだったのだ。

 あれから生徒会会議がない週は、たいてい二回は食堂で放課後お茶をしている。

 ランデルトが八回生になると何かと忙しいそうだが、それでも週一回はできるだけ一緒に過ごそうと約束したのだ。

 前世で言うなら小学生か初心な中学生のような付き合いだが、ヴィヴィは満足だった。


「じゃあ、あとはプロポーズね」

「え?」

「そろそろ、先輩からあってもいいと思うんだけど」

「ええ!?」


 もうすぐ寮に着くというところで、マリルが口にした言葉にヴィヴィは驚いた。

 すると、マリルは不思議そうにしながらさらに言い募る。


「だって先輩はもう八回生でしょう? 少し先とはいえ、魔法祭の舞踏会でパートナーを申し込むなら、プロポーズが先じゃない?」

「ぶ、舞踏会はまだ半年も先よ?」

「でも形式通りにいくなら、まずヴィヴィにプロポーズする前に、ヴィヴィのお父様に許可をいただかなければいけないでしょう? それからプロポーズして、家族にお互い紹介して、それから財産分与などの話し合いを終わらせてから正式な婚約となるんだもの。でもこれが、どちらかの家族の反対があればもっと長引くし、時間がかかるわね」

「……マリルは、どうしてそんなに詳しいの?」

「つい先日、従姉が結婚したからよ。最近は先に本人にプロポーズして内諾をもらってから、父親に許可をもらうのが主流みたいだけど……ランデルト先輩はやっぱり正式な手順を踏みそうだから、そろそろかと思ったの」


 冷静なマリルの言葉にヴィヴィはただただ驚くばかりだった。

 プロポーズばかりは前世でもされたことがない。

 もちろん経験があったとしても慣れるものではないが。


 プロポーズや結婚にヴィヴィはずっと夢見ていたが、今になって少しだけ不安になってしまった。

 まだたった十五歳の自分が、一生の相手を決めてしまってもいいのだろうかと。


「私、実は先輩はもうヴィヴィのお父様に許可をもらっているんじゃないかって思っているの」

「へ?」


 考え込んでいたヴィヴィは、マリルの声で我に返った。

 そんなヴィヴィの様子にも気付かず、マリルはどこか夢見がちに続ける。


「だって、初めてヴィヴィとデートの日、迎えにきてくださってから長い時間、お父様と書斎にこもっていらしたんでしょう? きっとその時にもう、プロポーズの許可はもらってるのよ」

「そ、それはさすがにないわよ。だって、お父様も何もおっしゃっていなかったもの……」

「ヴィヴィのお父様から言うわけにはいかないでしょう? だから先輩はヴィヴィの気持ちが固まるのを待っているのかもね」

「私の……?」

「先輩は真面目な方だから、中途半端な気持ちで告白したりしないと思うの。先輩にとってヴィヴィとの付き合いは結婚前提よ。ただほら、ヴィヴィがまだ若いから様子を見ているのかもって」

「そうなのかな……」

「そうよ」


 マリルの間違いないとばかりの力説に、ヴィヴィは自信なさげに答えた。

 確かに、マリルの言い分は先輩の性格を考えれば一理ある。

 だが、ヴィヴィは先輩のことが大好きなのに、どうして不安になるのかがわからなかった。


(明日から、しばらく会えないから?)


 その寂しさが不安になっているのかもしれない。

 寮内に入ってからは誰に聞かれるかわからないため、マリルも話題を変えてくれたので、ヴィヴィはほっとしていた。

 そして部屋に入ってからは、ミアと長期休暇の予定についての話をする。

 王宮でのお茶会をはじめ、その他のお茶会、女子会と予定は盛りだくさんだ。

 ヴィヴィはミアと会話をしながらも頭の片隅で、この長い休みが色々と考えるいい機会になるかもしれないと考えていた。




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