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魔法学園47


「おめでとう、ヴィヴィ! ついになのね!」

「ついにっていうか……とにかく、ありがとう」


 部屋にやって来たマリルに打ち明けると、喜びを顔いっぱいに表して祝福してくれた。

 そんなマリルに、ヴィヴィは照れながらもお礼を言う。


 それからはミアが食事を運んでくる間に、あれこれと訊かれてヴィヴィは答えた。

 マリルはきゃあきゃあ言いながら興奮している。

 この寮の造りがしっかりしていなければ、今頃は騒音で苦情がきていただろう。


 それほどに二人ではしゃぎ、ミアが戻ってくると今度は三人で騒いだ。

 そして食事が終わってようやく落ち着いてきたヴィヴィは、食後のお茶を飲みながらマリルに質問をした。


「ところでね、マリル。恋人同士って何をすればいいの?」

「ええ!?」

「だって、正式に婚約したなら、お披露目パーティーとかあるでしょうけど……あ、その前に両親に許可をもらわないといけないのよね? 恋人の場合はいいのかな? それとも両親には言うべきかしら?」

「ええっと……ごめんなさい、ヴィヴィ。私も恋人ができたことがないから、わからないわ」

「そう、よね……。私こそ変な質問をしてごめんね」


 ヴィヴィ的にはどうしても前世の経験が邪魔をしてしまうので、マリルのほうがこの世界の常識に則ったお付き合いの方法というものを知っているかと思ったのだ。


「そういえば私、恋人同士の二人が手を繋いで校庭を歩いているところを見たことがあるわ!」

「ええ? 大胆ね!」

「そうなのよ。あ、でも、どちらも平民出身の先輩だったし、あまり参考にならないかも……」

「なるほど。だけど校則違反ってことではないのね」

「そうね。じゃあ、一度校則を読み直してみたら? いけないこともわかるし、何か参考になるかも」

「ああ、それはいいわね! えっと、生徒手帳は……」

「お嬢様、こちらにございます」

「ありがとう、ミア」


 貴族のご令嬢は色々と大変だなと思いつつ、ミアは制服の内ポケットに入れていた生徒手帳をヴィヴィへと渡した。

 ヴィヴィは手帳を受け取ると、真剣な表情でページをめくり始める。


「——あった、ここだわ。ええっと、『異性との特別な交際を始める場合は、まず双方ともに保護者の承諾を得た上で、学園に届け出ること』って、ええ!? 交際届出書!? お父様のサインがいるの!?」

「嘘! みんなそこまでしてるの!?」


 ヴィヴィが上げた驚きの言葉に、マリルも声を上げて驚いた。

 そして自分も見ようと手帳を覗き込む。

 そこでヴィヴィは該当箇所を指した。


「……本当だわ。でもこれって、学園設立当初のものよね?」

「まあ、校則なんてそうそう変わらないから」

「そうよね。だって保護者の許可だなんて、地方出身者は困るに決まっているもの」


 ヴィヴィが答えると、マリルは納得して頷いた。

 マリルの言う地方出身者は平民だけでなく、地方の豪族出身の者たちのことも指している。

 また学園設立当初は、貴族以外の入学は認められていなかったのだ。


「今でもこの校則を守っている恋人たちは少ないんじゃないかしら……。それにほら、『特別な交際を認められた者同士でも、みだりに接触することは避けるべし』って」


 マリルは新たな文面を見つけて楽しげに読み上げた。

 その言葉にヴィヴィも噴き出す。


「『みだりに』って、何? パートナーとしてエスコートされる時やダンス以外ってこと?」

「あとは……偶然、教本の貸し借りなどで手が触れるとか?」

「嫌だ、それってどんな恋愛小説?」


 ヴィヴィの母たちが読んでいた時代の恋愛小説は、たいていそういう場面から恋に落ちていく。

 今はもう少し進んだものが、侍女を通して寮で密かに貸し借りされているのだが、ヴィヴィにとっては可愛いものである。

 創立以来の校則は色々と面白く、他にも読み上げてはヴィヴィとマリルはくすくす笑った。

 ミアも唇を引き結んで笑いを堪えているようだ。


「要するに、先日見かけた先輩たちは校則違反だったのね」

「恋人同士で手も繋げないなんて……」


 悪戯っぽく笑いながらマリルが言うと、ヴィヴィはわざとらしく嘆いた。

 すると、ミアがぼそりと呟く。


「それでは、キスもできませんねえ」

「キスかあ……って、キス!? キスって、キス!?」

「ヴィ、ヴィヴィ、お、落ち着いて……」

「あああああ、何と破廉恥なことを! 申し訳ございません!」


 ヴィヴィはキスそのものより、ランデルトとのキスを想像して動揺したのだが、ミアは純粋なお嬢様に何てことを言ってしまったのだと焦った。

 マリルも落ち着けと言いながら、かなり動揺している。

 ちょっとした混乱を招いたミアの爆弾発言だが、どうにかヴィヴィは深呼吸をして冷静さを取り戻した。


「――大丈夫よ、ミア。ちょっと驚いただけだから……」

「ですが――」

「いいの、気にしないで。私ももう十五歳なんだから」

「……ありがとうございます」


 年齢と自分の不用意な発言は別物だとミアは思ったが、あまり引きずると逆にヴィヴィに気を使わせてしまうので、素直に許しを受け入れた。

 ミアの察しのよさにほっとしたヴィヴィは、そこでふと最初の話題を思い出した。


「ところで、その校則なんだけど……」

「どの校則?」

「男女交際に関する……えっと、まず保護者の許可を得て、学園に届け出るって校則」

「ああ……。でもたぶん、誰も守っていないと思うわよ?」

「私もそう思うけど……ランデルト先輩は真面目な方だから、守りそうで……」

「……確かに。しかも生徒会長に就任されたものね」

「お父様に……言わないとダメなのかな?」

「ええっと、それは……どうなのかしら……」


 ランデルトはミアたち侍女に堅物と噂されているほどなのだ。

 融通が利かないわけでもなく、柔軟性がないわけでもないが、とても真面目であることは間違いない。

 さすがにないとは思いたいが、もしランデルトが交際届出書を持ってきたらどうしようと、ヴィヴィは心配になったのだった。




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