表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/147

魔法学園134

 

 ジェレミアとフェランドと久しぶりに会話を楽しんだ数日後。

 ヴィヴィはレンツォと〝ウルの木〟について話をしていた。

 今現在、〝ウルの木〟は王宮の一角にて厳重に管理され育てられている。

 だが、あの発見から――三年前から王都近くに新たに警備兵を配置した樹木園を造り、苗木を育ててきていたのだが、それらが樹液を採取できるほどに立派に育っているらしい。


「新しい〝ウルの木〟から樹木を採取し、従来と同じ力が備わっているのが確認でき次第、王宮の〝ウルの木〟は伐採し、また苗木を植えることになったよ。もちろん伐採した〝ウルの木〟は盾などの防具に加工され、樹脂を塗って強化して使われることになるけどね」

「そういえば、もうそんなに経つんですね……。時の流れって、本当に早いです」


 三年前、ヴィヴィがまだ七回生だった頃、新しい発見に無邪気に喜んでいた自分を思い出し、しみじみとしてしまった。

 あれからもう苗木が成木になるほどに時間は経ったのだ。

 ちなみに〝ジロの木〟は魔力を与えれば成長速度は早められ、寒冷地や熱帯地でなければまず育てられるので、各国でも広がっているらしい。


「ヴィヴィはまだ若いんだから、そんなこと言ってないで、もっと楽しんだらどうだい? 研究に打ち込みすぎだよ」

「……まさかその言葉を、レンツォ様からお聞きすることになるとは思いませんでした」

「確かに」


 ヴィヴィの言葉にレンツォもすぐさま頷き、二人で笑った。

 あれからレンツォは樹脂を使って色々と新しい試みを成功させ、その名を世界中に轟かせている。

 ただ、いつもちょっと相談に乗った程度のヴィヴィの名も一緒に発表するので、ヴィヴィもすっかり世界的に有名になってしまっているらしい。

 バンフィールド家にはヴィヴィへの様々な招待状が各国から届いており、父と兄が処理をしてくれているのだ。


 さらには、夜会に出席すれば諸外国の貴公子――いわゆるイケメンがやたらとヴィヴィに声をかけてくる。

 そのイケメンたちの言葉は決まって「世界的に有名な研究者のバンフィールド伯爵令嬢が、まさかこのように美しい方だったとは」とか何とかと始まるのだ。

 研究一筋で有名になってしまったヴィヴィは、野暮ったいとでも思われているのか、その決まり文句に嘘はないようには思えた。

 ただ、逆に失礼であることに、男性たちは気付いていない。


 研究途中に王宮内を移動していると、偶然を装ってローブをまとったヴィヴィの前でハンカチを落としたり、ぶつかりそうになったり――これはすぐに侍女兼護衛にガードされるが――とにかく、色々と接近してこようとしてくる。

 彼らには申し訳ないが、ヴィヴィにとってイケメンは、ジェレミアはもちろんフェランドやジュリオ、アンジェロで見慣れているので、今さらであった。

 もちろんイケメンは今でも好きだ。

 ただもうときめくことさえない。


(私、枯れてるかも……)


 そこまで考えて落ち込みそうになり、いやいやと思い直す。

 最近、かなりときめいたことがあったのだ。


「先日、訪ねていらっしゃったジュスト殿下には驚きましたもの。もう十六歳でいらっしゃるので当然ではありますけど、ずいぶん凛々しくなられて……。初めてお会いした時はまだ十歳だったのに、早いなあと……」

「ああ、そういえばそうだったね。ジュスト殿下は男の私から見ても、かっこよかったな。まだ少し幼さが残っているけど。やはり兄弟だからか、あの頃のジェレミア殿下によく似ていたね」

「え? そうでしたか?」

「ん? そっくりとまではいかないけど、かなり似ていると思うよ。ヴィヴィはジェレミア殿下と近すぎたから、気付かなかった? ジェレミア殿下も当時からかなりかっこよかったけど」

「いえ、かっこいいのはわかっていましたけど……」

「まあ、ヴァレリオも、兄君のヴィエリ殿も伯爵も三人三様でかっこいいからねえ。そんな三人に囲まれて育ったんだから、免疫もできているのかな」

「……そうかもしれませんね。それにレンツォ様もかっこいいですから」

「おや、ありがとう。じゃあ、結婚する?」

「しませんって」


 すっかりお馴染みになったやり取りに収まり、二人はまた笑って、〝ウルの木〟の話に戻った。

 〝ジロの木〟にしてもそうだが、やはり幹を傷つけ樹液を採取する方法は、木の寿命を縮めるようで、〝ウルの木〟もこの三年よくもったものだと。

 〝ウルの木〟に関しては、今まで本数がそれほどなかったので高価であったが、このたび成長したものが魔法に対してしっかり耐性があれば、かなり普及させることもでき、多少の価値は下がるが、それでもこのインタルア王国の大きな収入源になるだろう。


 しかも、苗木の頃から何度も攻撃魔法を仕掛けて育てたもの、何もしなかったものなどの比較実験も合せてしているので、その結果も得られるはずだ。

 ちなみに、樹齢が高いほど魔法に対する耐性が強いことは実証されているので、そのあたりも樹木園で管理されていくらしい。


「〝ウルの木〟はその樹皮だけでも魔法への耐性が強いからね。それに樹液を塗って盾や鎧にできれば、これほどに心強いことはないだろう。まあ、実際のところは防御魔法を施して育てた〝ジロの木〟の盾のほうが効果は高いが、希少性で言うなら〝ウルの木〟の木材のほうが高いから……ある意味、人気は出るだろうね」

「ああ、希少性の高いものって、好きな人は好きですよね」


 前世でも限定物は高値で売買されていたなと思い出す。

 ヴィヴィも一時期は踊らされてバッグなどを買ったりしたものだ。

 その中で特に気に入っていたのは、限定色のメイクボックスで旅行にも簡単に持ち運べて便利だった。


(あれは軽くて、お揃いのポーチも可愛くてよかったな。ただ合皮製だったから、そのうち手提げ部分がボロボロになっちゃって。もう少し耐性があれば……)


 そこでふと何かが引っかかった。

 今は魔法の耐性がある〝ウルの木〟についてレンツォと話していたのだが、ひょっとしてと思う。


「レンツォ様、〝ウルの木〟は魔法に耐性があると言っても、〝ジロの木〟のように吸収するのではなく、弾くんでしたよね?」

「そうだね。ああ、ということは、鏡のように反射してしまうかもしれないから、盾などで攻撃魔法を防ぐ時には周囲へ注意したほうがいいのかな……。それも確認しなければならないね」

「それはそうですけど、そこまでの心配はいらないと思います。もし鏡のように反射してしまうなら、学園の広場で魔法を放った生徒たちに被害が出ているはずですから」

「そうか。そうだったね。さすがヴィヴィだよ」

「いえ……」


 学園の広場の木々は今もそのままにされているが、〝ウルの木〟の種子などを盗まれないよう常に厳しく監視されている。

 それは当然の処置ではあるが、今はその広場に『魔法学科、第百二十三回卒業生、ヴィヴィアナ・バンフィールド嬢によって、偉大なる発見がされた記念すべき場所である』との記念碑が立てられているとジョアンナから聞いたヴィヴィは、激しく身悶えたのだ。


 その話を聞いてから、それとなく学園に撤去してくれるよう手紙を送ったが、卒業生の偉業は讃えるべきだと断られてしまっていた。

 確かに、ヴィヴィが在学中にもそのような記念碑は見たことはある。

 それがまさか自分の身に降りかかるとは思ってもいなかったが。

 監視さえされていなければ、記念碑を破壊しに行くのにと時々衝動に駆られるのは仕方ないだろう。


「とにかく、今まで〝ウルの木〟に対して、魔法を弾くと表現していましたが、どちらかというと『防ぐ』や『遮る』のほうが正しいのではと思ったんです。それで、もし『遮る』なら、たとえば〝ウルの木〟で箱を――木箱を作れば、その中に魔法を閉じ込めることはできないでしょうか?」

「魔法を閉じ込める?」

「はい。もちろん攻撃魔法などの形のないものは、きっと蓋をする前に消失してしまうでしょうが、氷結魔法で作った氷を閉じ込めたとしたらどうなるのか知りたいのです」

「氷を閉じ込める……」


 ヴィヴィの発案に、レンツォは呆気に取られていたように呟いた。

 だが自分の思いつきに興奮してきたヴィヴィは、そのまま続けた。


「レンツォ様、協力してください!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ