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「あの子、起こされただなんて言うのよ!?
とんだ思考だわ!
大事な親友で弄ばないで!
絶対通報してやる!」
肩で息をしながら話し終えた時、レアールはそっと腕を組んだ。
「済んだのかしら」
悠々と髪を後ろにやり、大きな態度で彼女は立つ。
それが、ターシャにとって余計に腹立たしくなった。
一方、レアールが前方から消えた事で、シャルは開かれた通路を前進しようとした。
だが、背後から透かさずレアールに左手で空いた左肩を掴まれ、止められた。
抵抗しているのか、強引に進もうとする力が、掴みかかる背後からの手を、ターシャと共に振動させている。
「ご対面頂いた通り、彼女は存在する。
ええ、貴方の様なお固い思考もまた、こちらからすればとんだ旧式に過ぎない」
真っ直ぐ見据えていたレアールの首の角度は上向きになり、見下げる向きに変わる。
「死ねば終わり、この世に居場所は無いだの、死んで居なくなり精々するだのという旧式を、新たな美を持って改新する。
垣間見え始める永遠の命に向けた思考と、論理。
それ止まりにしておくのならば、端から考え出さない事ね」
ターシャは彼女に目を震わせ、体は僅かに縮む。
端からは小さな軋み音が聞こえ、互いの引き合う力は増してきていた。
そんな状況でも、向かいの彼女の様子は平然としている。
「現代は変わらず、醜いモノは潰され、排除され続ける。
またそこに加わるのは、ユニークでないものをも潰される実態。
トレンドの変化は目まぐるしい。
新たな思考を引っ提げて世の中に挑まない限り、結局生き残れやしない。
そうして篩に掛けられ、物足りないとされた者が消える世界を、貴方はまだよく分かってないのかしら…
最優秀デザイナー様には、服にしか目が無いのねぇ」
「……何でっ!?」
直後、シャルは掴まれていた肩を激しく振り、レアールを解く。
しかし、透かさずレアールがその襟首を右手で掴み、更に止めた。
抵抗はまたも凄まじく、掴みかかる彼女はついに引き摺られ始める。
この異様な光景に、ターシャは顎を鳴らし目を剥く。
見ておられず、そこに伸びるレアールの美し過ぎる腕を解こうとした。
「待って止めて!そんな強引に!
…貴方も!下ろして!止まって!」
シャルにも懸命に訴えかけるが、通用しない。
レアールはシャルの襟首を掴んだまま、再び彼女の空いた左肩を掴んだ。
そのまま、彼女の両膝裏をテンポ良く打撃。
喰らった反動で彼女は膝から崩れ、担がれていたターシャは叫び声と共に転落した。
だが、何事も無かったかの様に再び彼女は立ち上がると、当然の様にターシャを肩に担ぎ直す。
レアールは通路に再び回り込み、対面する。
「不可解な忘却による通信機能エラー。
1手段として音声指令に切り替える。
シャル、止まりなさい」
行かすまいと、彼女の胸倉を掴みながら放った。
しかし、それに耳を貸す事無く彼女はレアールに突進し、肩で乱暴にホールドを弾こうとする。
ターシャの足がレアールに衝突し、激痛の声が上がった。
互いの距離が接近した所で、レアールはターシャのパンツの腰を掴み、引き摺り下ろそうとする。
だがその腕を、シャルは即制御した。
レアールは右手で再び、シャルの空いた左肩を掴み、真横へ倒そうと揺さぶる。
しかし、彼女が保つ立位は固く、互いに制御し合う状態が続き、鉄の軋み音はギリギリと高く耳を刺激してきた。
「2つ目の手段として、強制シャットダウンをする」
そう言い放ちながらシャルを大きく後方へ突き飛ばし、リリース。
彼女は大きくよろけ、ターシャは落下しかけた。
その流れで滑り落ちようとするが、シャルによる足の固定が強過ぎ、下りられない。
後方が気になり、シャルのジャケットを掴んでは、上体を大きく起こし、振り返る。
レアールはベストの胸ポケットのジッパーを開き、5cm程の機械針を取り出し、横向きに咥えた。
それに血の気が引き、恐怖の息を漏らしてはシャルの背を叩く。
「止まって!止まるのよ!」
「無事に連れて来る任務が達成されない。
貴方の行為は許されない」
この状況に不釣り合いな程、冷静なトーンでシャルは放った。
途端、ターシャは急に彼女に激しく落とされた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




