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そこではゼロ以外、緊張感が漂っている。
彼女が徐々に露わになるなり、彼等の顔は引き攣る。
最悪な天候、多弁なアンドロイド、新型実験の失敗結果と、3大ストレスが露わになっている。
「補佐官!おかえりなさい」
海から這い上がったのがまるで彼女かと思える様な形だ。
そんな彼女の機嫌を取ろうと、明るい声で女研究員が近付く。
レイシャは立ち上がり、後方のプラットフォームから下船。
太いヒールの音を立てながら、部下に接近していく。
雫はずぶ濡れの体を滑り、歩幅を刻む度に水溜を作り、淀んだ。
「あー…道中は大変だったわね」
女研究員は忙しなく彼女の頭から足先を見ては、せせら笑う。
「ええ、出迎えありがとう。
悪いけどもう1台担架持ってきて。
ドライバーか針、ある?」
別の男女の研究員が慌てて取りに走った。
脇ではジェレクが納体袋を2体のゼロに引き渡し、もう2体がタンカーで待機している。
レイシャの問い掛けに少々戸惑う女研究員の背後から、ふと、男研究員が所持していたマイクロドライバーを手渡した。
「流石。じゃ、この流れでお願いしたいの」
レイシャは踵を返すと下りてきたジェレクと対面する。
「ちょっと」
彼は黒味がかるオリーブドラブの瞳を向ける。
彼女は彼の右肩に手を置くとそのまま右耳を内側に折る。
「補佐か―
部下の咄嗟の声に耳を貸す事なく、その裏の付け根に数ミリ空いた穴にドライバーを深々突き刺した。
寸秒、ジェレクが肩を痙攣させると、レイシャに少々振り向く姿勢のままフリーズした。
「早急にこの喋り過ぎるプログラムをどうにかしなさい。
ベラベラベラベラ、外に出した時にウチの事情がダダ漏れになるじゃないの!」
力強くドライバーを持ち主の胸元に叩きつけては語気を強め、顰め面のまま彼等を通過する。
「潜ったから念の為、点検はしておいて」
追加で担架を運んできた研究員が駆け付け、彼女とすれ違う。
「それでよくここのカバーが回ってたわね。
保安官なんだから個性の反映は調整して。
よろしくね、カワイ子ちゃん達」
レイシャはそのまま奥の扉へ消え、シャルがスーツケースを颯爽と運んで行った。
「でも彼はお喋りだったんでしょ?」
「だから、お喋りの方向性が違うって言ったろ!」
担架を寄越した2人はそれを見届けるなり忙しなく言った。
正面の2人は肩を竦め、歩き出そうかという所で静止したジェレクの体を直立に整えていく。
「ああそれと!」
4人の背が一気に跳ね上がると同時に、戻ったレイシャを大きく振り返る。
「そこの掃除よろしくね。血だらけ」
彼等はそのスペースを目にするなり顔が引き攣った。
「バカンスも終わったな」
「すんごい鬼の形相!笑いそうになったわ!」
担架のタイヤがロックされ、4人掛かりでジェレクを乗せた。
「さぁおいでブラザー。さっさと済ませてやっからよ」
男研究員が担架の彼に放っては、足早に押す。
そこへ咄嗟に共に担架を持って来た女研究員が加わると、悪戯に後の2人に笑みを浮かべながら立ち去った。
残された彼等は舌打ちすると白衣を脱ぎ捨て、雑に、しかし後に丁寧に、ボート内の掃除と消毒作業を行った。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。




