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【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される  作者: 水都ミナト@12/10『転生幼女』②巻配信
第二部 パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される
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79. ドリューンの調べごと

「ホムラさん、今日は久しぶりにウォンのところに遊びに行ってきますね!この間のお礼もまだだったし…」

「…おう、あんまり遅くなるなよ」

「はぁい!では、行ってきます!」


 エレインは約束通り事前申告の上、手製のパンを抱いてウォンの元へと転移した。

 片手を上げて見送るホムラの表情は複雑そのものである。エレインがウォンの元に遊びに行くことを認めたはいいものの、やはり2人きりで会うというのは気分のいいものではない。


「はぁー…俺にアイツを縛る権利も何もねぇんだ」


 ホムラは頭を振って雑念を払った。

 その時、転移の光と共にドリューンが姿を現した。


「あら、エレインちゃんは?」

「…狐の野郎のところだよ」

「あらあら、それでそんなに怖い顔をしているのね」

「…チッ」


 ドリューンは分かりやすいホムラの様子にクスクスと笑みを漏らす。


「で、調べ物は進んだのかよ」

「はぁ…人の苦労も知らないで。いくら私でもずーっと昔のことを調べるのには根気がいるんですからね」


 ホムラの問いに、少し疲れた様子のドリューンは溜息を漏らす。そして2人は裏の居住空間へと移動し、ソファに対面して腰掛けた。珍しくアグニは昼寝をしており、ベッドですやすやと眠っている。

 その様子を微笑みながら確認したドリューンが、改めてホムラに向き合って話を切り出した。


「恐らくエレインちゃんのお友達だっていうウォンという魔物は、アナタの推測通りの種族だわ」

「そうか…だが、魔封じの面をつけてるってことは…そういうことなんだろうな」

「ええ。エレインちゃんに危害を加えるつもりなら、とっくにそうしてるでしょうし…とりあえずは信用してもいいんじゃないかしら」

「…そうだな」

「うふふ、アナタは面白くないでしょうけどね」

「…ウルセェ」


 ドリューンの調べ物とは、エレインが友人だというウォンのことであった。

 75階層という上階層に暮らす謎が多い魔物だ。エレインは信頼しきっているが、交遊を認めた以上、どんな人物であるかは把握しておきたかった。それに、以前エレインを迎えに行った時に初めて顔を合わせたのだが、かなり特殊な気配を有しており、ホムラはとある希少な種族ではないかとアタリをつけていた。


「それで、おチビが前に話していたダンジョンを下りたっていう闇の魔法使いについてだが…十中八九、狐の野郎の関係者なんだろうな」

「ええ、エレインちゃんの情報源として考えられるのはそこしかないもの」


 2人はうーんと考え込むように腕を組んだ。


「もし、それが狐の野郎と同じ種族なのだとしたら…大昔に地上に下りてから今日まで存命だっていうのも納得できるよな」

「そうね、ウォンって魔物と違って、その特有の能力を使えば…幾らでも生きながらえることはできるでしょうね」


 ダンジョンの魔物は基本的には不死である。と言っても、もちろん冒険者に倒されたり他の魔物との争いで命を落とすことはある。だが、ダンジョンに生を受けた魔物は、しばらくすれば復活するのだ。そのため、不死と言っても過言ではなかろう。

 しかし、地上に下りればそのダンジョン特有のルールは適応されない。つまり、魔物であれ寿命は存在するし、命を落とせばそれまでである。かつてのハイエルフも長寿な種族であるが、すでにそのほとんどは土に還っているだろう。


「そんな奴が街で暗躍してるとなると…ちっと厄介だな」


 地上に順応した闇の魔法使い。その者がどんな理由でダンジョンにちょっかいをかけてくるのか、その理由には皆目見当がつかないが、ダンジョンに住まう者に危害を加えようとしているのは確かだ。


「とにかく、また手鏡みてぇな怪しい道具を見かけたら早めに知らせてくれ」

「ええ、もちろんよ」


 ホムラがいかに警戒しようとも、地上に下りることはできないし、自ら危険に身を投じることも得策ではない。待ちの構えでいることしかできないのは何とも不甲斐ないが、ホムラにできることは闇の魔法使いの息の根がかかった冒険者を返り討ちにすることだけだ。決してアグニやエレインに危害が及ばないように十分に注意しなければならない。


「ったく…何も起こらねぇといいんだがな…」

「そうね…」


 ホムラとドリューンは姿の見えない脅威が、自分達に手を伸ばしてこないことを祈るばかりであった。



◇◇◇


「うむ、今日のパンも美味かったぞ」

「本当?よかった〜」


 一方その頃、エレインはウォンと共に手土産の手作りパンを平らげていた。

 食後にウォンが淹れてくれたお茶をズズと啜りながら、エレインはホッと一息ついた。


「ウォン、この間は泊めてくれてありがとうね。ほんと助かったよ」

「ふっ、俺は別に何もしていないさ。お前が勝手に居座っただけだ」

「えぇー?」


 エレインはウォンの言いように、クスクスと可笑そうに肩を揺らす。そして、少し躊躇いがちにずっと気になっていたことを尋ねた。


「あのね、違ったらごめんね?えっと…ウォンってさ…ハイエルフ、だったりするの?」

「…どうしてだ?」


 おずおずとエレインが尋ねた問いに、ウォンは静かな声で問い返した。


「えっと…初めて会った時に懐かしい気配がするって言われたのがずっと気になってて…そうなのかなーって思ってたんだけど、違った?」

「…残念ながらな」

「なんだぁ、そっか…」


 エレインは自分の中に僅かに流れるハイエルフのことをもっと知りたいと思っていた。だから、ウォンがそうだったらいいのに、と淡い期待を抱いていたのだが、違ったらしい。


「…ハイエルフとして生を受けていたのなら、どれほどよかったことか」

「え?」

「いや、なんでもない」


 エレインが残念がっていると、ウォンが何やら呟いたような気がしたが、なんでもないと言われてしまった。エレインは少し首を傾げながらも、深く追求しないことにした。


「お前は、俺がハイエルフだとしたらどうしたかったのだ?」

「えっ、うーん、そうだなぁ」


 今度は逆にウォンから問われてしまい、エレインは頭を悩ませた。そして少しずつ自分の考えを語り始めた。


「あのね、前にも話したけど、私地上で一度だけハイエルフの力を感じることができたのね。それっきりいくら念じても応えてはくれないんだけど…せっかくルーツがあるんだから、その力が引き出せたらなって思ったんだけど…」

「なるほど、何かヒントにならないかと考えたわけだな」

「うん」


 エレインの話を聞き、俯き思案顔になるウォンであったが、やがて顔を上げてエレインを見据えた。


「結論から言うが、お前はダンジョンでハイエルフの力を使わないほうがいい」

「えっ!なんで?」


 想定外の答えに、エレインはギョッとする。思わず身を乗り出してウォンの服の裾を掴んでしまった。ウォンは諌めることなくエレインを見つめている。


「お前が力を使ったのは地上だと言ったな?と言うことは、その時の力は本来の力の10分の1にも満たない力の一端だということだ。恐らくそれだけでもかなりの魔力量だったのだろう?」

「う、うん…あんまり覚えてはないんだけど、身体の中から魔力が溢れてくるようだった」


 エレインはその時のことを思い返す。増幅魔法の効果もあり、身体中に魔力が満ちていた。如何せん、容姿が変わるほどの魔力量であった。ホムラに教わった極大魔法でさえ、簡単に使用することができたほどだ。


「だろうな。本来のハイエルフは、ダンジョン随一の魔力量を誇る魔物だ。その魔力量が、ほとんど人間であるお前の器に収まるとは思えない」

「あ…そっか、地上だったから耐えることができたんだ…?」

「恐らくな。ダンジョンの中で、オリジナルの魔力量を発揮するとなると…人間の器ではダンジョン内の100パーセントの力に耐えきれずに、魔力に飲まれて自我を失いかねない」

「そ、そんな…」


 折角の力なので、うまく使いこなすことができれば魔法の幅も広がり、より高みに登ることができるかもしれないと考えていただけに、ウォンの言葉にエレインは絶句した。

 ウォンはその様子に、これ以上先の話をするべきか一瞬躊躇ったが、覚悟を決めたように話を続けた。

 

「ここからは俺の推論になるから、聞き流してくれてもいいんだが…お前の中のハイエルフの血は、ダンジョンで暴走しないように封じられているのではないかと思う。それは先祖のハイエルフが子孫を守るために施したのだろうが…いずれ冒険者となり、ダンジョンに挑む者が現れた時のために、策を打っていても不思議ではないからな。ハイエルフはそれだけ先を見通し、危険を回避する力に富んでいる」

「そんな先のことまで…?なんでそこまでできるんだろう?」


 ウォンの推論に驚きを隠せないエレインの呟くような問いに、ウォンは狐の面の中で小さく笑みを漏らした。


「子孫への愛故だろう。ハイエルフは排他的な種族だと思われているが、自分達の家族や仲間に対しては無償の愛を注ぐ。子供たちにどんな危険が降りかかるとも限らないんだ。そのリスクをあらかじめ排除できる力があるのなら、奴らならそうするのだろうな」

「愛…」


 エレインは人間として地上で育った。縁があって今は遠い先祖が生まれたダンジョンに身を寄せている。それは本当に数奇なことなのかもしれない。


「そっかぁ…私もいつか、99階層の奥深くにいるっていうハイエルフ達に会える日が来るといいなぁ」

「…そうだな」


 ウォンは柔らかく目を細めて、夢を語るエレインをじっと見つめていた。

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