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【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される  作者: 水都ミナト@12/10『転生幼女』②巻配信
第二部 パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される
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68. ヤキモチ?

 その後、7日間のうちに2組の冒険者パーティが闇魔道具の手鏡を使用して、捕縛の上地上へ送還された。


 正式な道具を使用することはダンジョン攻略において何の問題もないが、身の丈以上の力を行使することは道理から外れる行為であった。意外と正義感の強いホムラは、手鏡を使用した冒険者パーティが許せないらしく、いつもより割り増しで痛めつけていた。


 そして傍迷惑なことに、手鏡を使った冒険者と戦った日は、エレインがホムラの憂さ晴らしに付き合わされることになるのだ。


「食らえ!」

「キャァァァッ!!《水の壁(ウォーターウォール)》ぅぅ!!」


 この日も例外ではなく、エレインはホムラが乱投した火球の嵐を水の防御魔法で何とか凌いでいた。ここ数日の修行のおかげで、《水の壁(ウォーターウォール)》は完璧に近い状態となっていた。やはり実戦形式が最も習得に近づくことができる。


「ハッ、やるじゃねぇか。これならどう、だっ」


 ホムラはエレインに素直に感心すると、徐に灼刀を抜刀して思い切り振り抜いた。生じた剣圧が風の刃のように勢いよくエレインに襲い掛かる。


(待って待って!!水だときっと防げない…!か、風には風を…!)


 エレインは容赦ないホムラの攻撃に半ばパニックに陥りつつも、杖を構えて呪文を唱えた。


「《風の檻(ウィンドウケージ)》!」

「お?」


 それは竜巻のようにエレインを囲む風の防御魔法であった。この数日間、密かに75階層に通ってはウォンに特訓を積んでもらい、習得に至った魔法である。

 ホムラの前で披露するのは初めてだったため、虚を突かれたように目を見開いている。


 ホムラが放った剣圧による風の刃は、エレインの魔法にぶつかって消滅した。エレインはホッと息を吐いて、杖を強く握り締めると、仕返しとばかりに攻撃魔法を唱えた。


「えいっ!《鎌風(カマイタチ)》!」

「うおっ!?」


 鋭い風の刃が幾筋もホムラに向かっていく。ホムラは驚きつつも、難なく灼刀で鎌風を薙ぎ払う。


「よし、ここまでにすっか」


 ホムラの制止により、今日の修行はお開きとなった。


「はふぅ…」


 満身創痍で脱力するエレインに、ホムラが歩み寄ると頭をポンっと軽く撫でた。


「驚いたぜ。いつの間に風魔法を2つも習得したんだァ?」

「え!?えっと…こっそり修行してました?」


(うぉ、ウォンに修行をつけてもらっていたなんて言えない…)


 エレインは目を泳がせながら答えた。ホムラはその様子に訝しげにしている。


「ふーん?お前最近よくダンジョンに潜ってるよな、どこに行ってるんだ?」

「えっ!?あ、あちこちですよ?」


 明らかに挙動不審なエレインに、ホムラは益々怪しいとばかりに顔を寄せてくる。その目は細められ、怪しんでいるのは自明である。一方嘘のつけないエレインは目をぐるぐる回して、冷や汗ダラダラである。


「…お前、もしかして…」

「えっ!?!?い、行ってませんよ!!75階層になんて!!!」

「…ほーう?」

「あっ!?」


 ホムラに詰め寄られ、うっかり自ら行き先をバラしてしまい、咄嗟に両手で口を塞ぐ。ホムラはビキビキと額に青筋を浮かべている。


「まさかとは思うが…前に助けてくれたとかいう、狐の面の野郎と会ってるなんて、言わねぇよなァ?」

「ひっ!ももももちろんですよ!」


 激しく目を泳がせるエレインに、ホムラは尚も詰め寄る。


「見ず知らずの魔物と関わるんじゃねぇって言ったよな?いつ襲われるか分かったもんじゃねぇ」

「ウォンはそんなことしませんよっ!!…あ」


 目の前の迫力ある顔に根負けし、エレインはポロッと友の名を口にしてしまった。途端にホムラの纏う空気が変わった。


「…ウォン、だァ〜〜??」

「ぎゃーっ!私の馬鹿!!」


 ドスのきいた太い声でエレインを睨みつけるホムラ。一方のエレインは自らの失態に頭を叩きながら涙を流している。


「…名前を呼ぶ程仲良くなったみてぇだなァ?」

「ひっ…」


(どどどどうしよう、めっちゃ怒ってる…よね!?そりゃそうだよ、危ないって言われてたし…でもでもっ、ウォンはいい魔物だし…説明すれば分かってくれるはず…!)


 エレインは必死に頭を回転させて打開策を捻り出す。導き出したのはウォンの良さを語って聞かせる作戦だった。


「うぉ、ウォンは…!物静かだけど、とっても優しくて…いつも私の話を聞いてくれて、それに、風魔法が得意で…そう!私の修行も見てくれる面倒見のいい一面もあって…えっとえっと、とにかく、ウォンはとってもいい人なんです!だから安心してくださいっ!」


 エレインがウォンのいいところを上げれば上げるほど、何故かホムラの表情は不機嫌になっていった。エレインは内心で「なんで!?」と悲痛な叫びをあげる。


「えっと、えっと、ウォンは…」

「だァー!ウォンウォンうっせぇ口だな!黙らせんぞ!」

「ピギャぁぁ!!…へ?ど、どうやって?」


 ガシッと急に顎を掴まれたエレインは咄嗟に悲鳴をあげたが、ふと疑問が頭をよぎりパチパチと目を瞬いた。


「ど、どうって…」


 激情に飲まれ勢い余って顎を掴んだものの、ホムラは自分が何をしようとしていたのかに思い当たると、カッと頬を染めて手を離した。


(な、な、俺は一体何を…)


「ホムラさん…?」


 口元を押さえて後退りをするホムラの挙動がさっぱり分からず、エレインはホムラの顔を覗き込もうとした。


「なっ、なんでもねぇ!悪かったな、急に顎なんざ掴んで」

「え?あ、私は大丈夫ですけど…ホムラさん、顔が真っ赤ですよ?ホムラさんこそ大丈夫ですか?」


 エレインはそっとホムラに手を伸ばそうとしたが、その手をひらりと躱された。


「うるせぇ、こっち見んな」

「えぇー…」

「先に戻る」


 ホムラの言葉に、エレインは不服そうに唇を尖らせているが、どうしてもホムラはそこに意識が集中してしまう。とにかく今は離れるが吉だと判断し、そそくさとボスの間の裏へと消えて行ったのだった。


「何なの…?」


 残されたエレインはと言うと、何が何だかサッパリ分からずに首を傾げるばかりである。


「エレインー」


 すると、ホムラと入れ違いに、アグニが姿を現した。ボスの間の裏の方を振り返りながら首を傾げて近づいてくる。


「ホムラ様と何かありましたか?何やらブツブツ言いながら頭を抱えていたのですが…」

「えっと…実は…」


 エレインが事の次第を白状すると、アグニは呆れたように溜息をついた。


「全く、それはエレインが悪いですよ。ホムラ様に止められていたのに他の魔物に会うなんて」

「うっ、そうだよね…」


 アグニに正論を述べられてエレインはしゅんと肩を落とした。だが、ホムラが怒っていたのはそれだけではなかったように思えた。そのこともアグニに伝えると、想定外の答えをくれた。


「そりゃ、エレインがこっそり他の友達と遊んでいただなんて、いい気はしませんよ。きっと仲間外れにされてヤキモチを焼いているのです。ホムラ様はああ見えて寂しがり屋ですから」


 ふふんと胸を張って答えるアグニであるが、こんなことホムラに聞かれたらゲンコツものだとエレインは苦笑した。


「ヤキモチ…なのかなぁ?」

「ええ、ヤキモチです。これからはコソコソせずにきちんと伝えてから行くことですね」

「え?アグニちゃんは、私がウォンのところに遊びに行ってもいいと思ってるの?」


 エレインが驚いて尋ねると、アグニは何を言っているのかと眉根を顰めて答えた。


「友達なんでしょう?いいに決まってます」

「アグニちゃん…」


 ホムラがヤキモチとはしっくりこない答えであるが、確かにホムラに黙ってウォンに会いに行っていたのは心象が悪かったなとエレインは反省した。


 アグニと共にボスの間の裏に顔を出すと、ソファでホムラが項垂れていた。エレインはてててと傍に近付いてかがみ込んだ。


「ホムラさーん」

「…なんだよ」

「…勝手なことしてすみませんでした。これからはちゃんとホムラさんに報告してから遊びに行きます」

「……おう」


 ようやく顔を上げたホムラは気まずげに瞳を揺らしていた。そして、ためらいがちに口を開いた。


「お前は、その…ウォンとかいう奴のこと、どう思ってんだよ」

「え?ウォンは大事な友達ですよ?」

「…そうか」


 ホムラは少し安心したような、何とも言えない表情をしていた。エレインの隣にやってきたアグニが、そっとエレインに耳打ちをした。


「ね?ヤキモチでしょう?」

「あァ!?アグニテメェ…おチビに変なこと吹き込んでねぇだろうな!?」

「わぎゃー!?エレイン助けてくださいっ!」


 だが、筒抜けだったようで、ホムラはガバッと立ち上がるとアグニを追いかけ始めた。その頬には心なしか朱が差しているように見えた。


(なんか、ホムラさん可愛いかも…なんて口に出したらすっごく怒られそうだけど)


 エレインはクスクスと2人が追いかけっこをする様を見て微笑んだ。


「ちょっと!?笑ってないで助けてくださいよぉぉ!?」


 部屋にはアグニの悲痛な叫びが響いたのだった。

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