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【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される  作者: 水都ミナト@12/10『転生幼女』②巻配信
第二部 パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される
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59. 密林の中の出会い

 結局エレインは丸3日の間寝込んだ。

 その間、ドリューンや偶然70階層を訪れたリリスがエレインを介抱してくれた。


 ドリューンはその能力で薬草を咲かせ、煎じてエレインに飲ませてくれた。リリスは治癒魔法が使えるため、エレインの体力回復の助力をした。地上から果物や食材など、見舞いの品も沢山持ち込み、アグニがほくほく嬉しそうにしていた。

 そしてリリスはエレインからこっそり頼まれていた服も、新調して持って来てくれた。更に72階層の攻略の助けにと、防寒外套も工面してくれた。


「エレイン、元気になったら何があったか詳し〜く教えてもらいますからね」

「え…わ、分かった…」


 服がダメになった経緯を簡単に話した時、リリスはとっても楽しそうに口角を上げてニヨニヨと含み笑いを浮かべていた。


 あの後、体温を奪われないようにホムラが機転を利かせて服を引き裂いたとアグニに聞いた。素肌を見られたことはとても恥ずかしかったが、命には変えられない。

 エレインは、あの時のことは忘れることにした。


(素肌を見られただけ(・・)だもんね…!)


 ホムラは、たまにエレインの顔をジッと見つめたかと思うとブンブン首を振って気まずそうな顔をした。だが、極力いつも通り接する努力をしてくれるため、エレインだけがいつまでも意識する訳にはいかない。


 寝込んでいる3日のうちにお互いに折り合いをつけて、エレインとホムラはいつも通り気安く接することができるようになった。


 そしてエレインが回復し、元気を取り戻したため、ホムラは徐々に修行を再開した。エレインの本調子を確認し、念のため更に2日あけてから72階層の攻略に繰り出した。


 無理のないペースで、3日かけて上層への階段を見つけ、73階層へ進出した。


 73階層は極寒の階層から一転し、暑い砂漠の階層であった。ホムラとアグニは暑さには強いため、ケロリとしていたが、エレインは全身から汗が吹き出し、脱水症状を起こさないようにこまめに水分と塩分を補給しながら階層を進んだ。

 途中、巨大サソリやサバクアリジゴクなど、巨大な魔蟲に襲われながらも、5日かけて階層を攻略した。

 虫が苦手なエレインは、71階層同様二度とこの階層には足を踏み入れまいと密かに誓った。


 続く74階層は、高い壁が入り組んだ迷宮となっていた。かなり広大な迷路になっていたため、目印を付け、マッピングをしながらの攻略となった。そのため、攻略に7日を要した。

 魔獣やモンスターはほとんど居なかったが、あちこちに罠が仕掛けられており、エレインは危うく串刺しになるところをホムラやアグニに何度も助けられた。


 いずれにしても驚異的な攻略スピードであるのだが、本人たちの知る由は無かった。



 そして、75階層ーーー



「うわー…すごい樹木…密林の階層ですかね」

「そうだな。それにしても変わった植物が多いな」

「食用もありますかね?あ、あの果実絶対毒がありますね。怪しい斑点模様をしています」


 そこは深い深い密林であった。鬱蒼と繁った草木。上を見上げても枝葉が天を覆うように伸びており、階層全体が薄暗い。湿度もかなり高そうだ。これまで見たこともないような不思議な草花もあちこちに見られる。


「食べれるかどうかは持ち帰ってドリューさんに聞いた方がいいかもね」

「あ、それいい考えです」


 アグニはこれまでの階層で目ぼしい食材を見つけられずにぼやいていたため、この階層には期待を膨らませている様子だ。


「この階層も油断すると迷いそうだな。木に目印を付けながら進むか」

「はい!」


 ダンジョンでコンパスは効かない。北や南がどちらかも分からない中、無闇に進むのは得策ではない。特にこうした密林の中だと、同じような景色が続くため迷いやすい。


 エレインは、杖の先で樹木に印を刻もうとしたが…


(うーん、この木…すごく立派…傷付けるのは可哀想だよね)


 と、思い直して、リュックからハンカチを取り出して細かく割いた。そのうちの1本を枝にくぐり付けて目印とした。


「いいんじゃねぇか?」


 エレインの意図を察し、ホムラは微笑みながらエレインの頭を撫でた。エレインも嬉しそうに微笑むと、早速探索を開始した。


 しばらく密林の中を進んでいると、不意にアグニが叫んだ。


「あ!何だか甘い匂いがします!これは食材発見の予感です!」


 そう言ってくんくんと鼻をひくつかせながら、小さい身体を活かしてスルスルと先へ進んでいってしまう。


「あ、おい。待てって…!」


 ホムラが慌てて後を追う。エレインも急いで近くの枝に目印のハンカチを結ぼうとしたが、焦ってしまって中々上手くいかない。


「よし!できた!…って、あれ?アグニちゃん…?ホムラさん…?」


 ようやくしっかり結んで振り返ると、既に2人の姿は密林の奥へと消えていってしまっていた。


(う、うそーーー!?ど、どっちに行ったっけ…)


 エレインは顔を青くして左右を見渡す。だが、どこもかしこも同じ景色でサッパリ方向が分からない。


(こ、この場合、動かずに待つのが得策…?)


 万一真逆の方向に進んでしまうと取り返しが付かなくなる。エレインが杖を抱えて思案していると、不意に後方の木々が激しく葉を揺らしてカサカサと大きな音を立てた。


「ぴゃっ!」


 慌てて振り返り、音がした方を見上げると、そこには4匹の猿が枝に捕まり激しくその枝を揺らしていた。猿の大きさはエレインより少し小さいほどだが、その牙は刀のように鋭く長い。

 猿はエレインを既に標的としてロックオンしているようだった。エレインと目が合うと、鋭い牙を見せびらかすようにニタァと口角を上げた。


「いやぁぁぁぁ!!サーベルモンキー!?!」

「キキッ、キェェーー!!」


 エレインが叫んだと同時にサーベルモンキーの群れは、巧みに枝を伝ってエレインに迫ってきた。


「いやぁぁぁぁあ!!!」


 エレインは回れ右をして勢いよく駆け出した。

 サーベルモンキーはその名の通り、鋭い刀のような牙が特徴だ。獰猛で加虐的な性格をしており、群れで獲物を捉えてはその牙で獲物の身を引き裂く。一思いに殺さずに先ずは逃げられ無いように足を切り刻み、次に腕、そして身体に牙を突き立て獲物が絶命するまでの苦しむ様子を楽しむという非道極まりない魔獣であった。捕まったら一貫の終わりである。


 エレインは走りながら杖の先に魔力を集中して炎を作り出そうとしたが、空気中の湿度が高く、上手くいかない。それに周りは木々で囲まれているため、火属性魔法は勝手が悪かった。


(ど、どどどどうしよう?水?風?何が効果的なの…)


 必死に頭を働かせるが、打開策は見つからない。その上、足場も悪く木々が邪魔をして上手く走ることも叶わない。地の利は完全にサーベルモンキーに軍配が上がっている。


 猿たちはエレインを追い詰めるように統率の取れた動きで四方を取り囲み、接近してくる。キキッキー!ウキャキャッ!とまるで狩りを楽しんで笑っているようにさえ見える。


 そしていよいよ巨大な樹木を背に、エレインは追い詰められてしまった。


(ど、どうする!?とりあえず襲ってきたら防壁魔法を使って身を守って…でもそれからは?ずっと守ってばかりだと倒せない…)


 ぐるぐると頭を回転させるが、その間にも猿たちはジリジリと値踏みするようにエレインににじり寄って来る。

 そして仲間同士でアイコンタクトを取りながら、獰猛な叫び声を上げてエレインに飛び掛かってきた。


(だ、誰か助けて…ッ!)


 エレインは目を閉じて咄嗟に《水の壁(ウォーターウォール)》を発動したが、魔法が攻撃を受けた時の衝撃が一向に訪れない。

 恐る恐る目を開けると、エレインから放射線状に4匹のサーベルモンキーが仰向けに倒れて息耐えていた。額に短刀が突き刺さっている。


「え…?」


 エレインは辺りを警戒しながらも防御魔法を解除した。すると、後方の木の上でカサリと枝葉の擦れる音がしたので慌てて振り返った。


 そこには、手に短刀を構え狐の面を付けた人物が佇んでいた。狐の面からはみ出る髪は濃紺で、後頭部で一つに束ねられている。赤い渦巻き模様を有した白い着物を身に纏っている。華奢だがスラリと背が高い。


(人…?いや、でもここはダンジョン、しかも未踏の75階層…魔物…なの?)


 エレインがジッと見ていることに気付いた狐の面の人物は、くるりと後ろを向いて立ち去ろうとした。


「あ、待って…!痛ッ!」


 エレインは咄嗟に引き留めようとしたが、棘を持った植物に引っ掛けて足首を傷付けてしまった。

 すると、狐の面の人物が素早く木から飛び降りて、エレインの足を掴んだ。


「わわっ!?」

「ジッとしろ。この棘には弱いが毒がある」

「えっ、毒っ!?」


 面の中で発せられた声は、くぐもっていたが凛とした響きを有していた。

 毒という言葉にサッと顔を青ざめさせたエレインがへたり込むと、狐の面の人物はグッと傷口付近を圧迫して血ごと毒を押し出した。そして懐から瓢箪を取り出して、中に入った液体を口に含むとブーッと傷口に吹きかけた。


「イテテテテッ!し、沁みる…」

「我慢しろ。殺菌効果がある」


 狐の面の人物はそう言いながら、手際よく取り出した風呂敷でエレインの傷口をギュッと巻いて止血をした。


「あ、ありがとう、ございます…」


 処置をしてもらった足を押さえて、エレインは礼を言った。狐の面の人物は何も言わずに立ち上がると、エレインに背を向けて歩き出した。


「あ、待って…その、な、なんで…」


 何故、助けてくれたのか。


 エレインが問わんとしたことに見当がついたのだろう。狐の面の人物は、立ち止まって静かな声で言った。


「お前が…」


 少し躊躇いながら、エレインの方を振り返り、続きを口にした。


「お前が、この森を傷付けるような人間であったなら、俺は見殺しにした」

「え…」


 エレインは目印をつけるために樹木を傷付けることを避けた。そしてサーベルモンキーから追われている時も、無闇矢鱈と草木を踏み躙り、枝を折るようなことはしなかった。


「も、もしかして…始めから…」

「…この森に害を成す者ならば、俺はお前達を排除するつもりだった」


 恐らくこの者は、エレイン達が森に踏み入った時から監視していたのだ。エレインはまだしも、ホムラやアグニにも気取られないとはかなりの手練れなのだろう。


 エレインが何か言おうと口を開いた時、


「おチビー!どこだー!?」

「エレインー!返事をしてくださーい!」


 遠くからエレインを探す声が聞こえてきた。


「あ…こ、こっちにいますー!」


 エレインも大声で返答する。狐の面の人物はホムラ達の前に顔を出すつもりはないのだろう、素早く再び木の上に飛び乗った。


「この森には色んな植物が生息している。くれぐれも気をつけるんだな」


 そしてそう言い残して、ホムラ達の声と逆方向に向かって木の枝を軽やかに飛び移りながらあっという間に消えて行ってしまった。

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