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【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される  作者: 水都ミナト@12/10『転生幼女』②巻配信
第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される
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38. 極大魔法

 100人の冒険者をなんとか地上へ帰したホムラ達は、ボスの間の裏で一休みしていた。


「はぁー…流石に100人相手にすんのはちょっと燃えたな」


 肩を回しながら楽しげに話すホムラに絶句したのは、エレインとアグニであった。


「いや、ほんと戦闘狂って言葉はホムラさんのためにありますよね…」


 エレインの言葉にアグニが激しく頷いている。


「ところで、最後の魔法よーく見てたかァ?」

「あっ、はい!凄かったです…」


 エレインは、ホムラの極大魔法の様子を思い返した。


 極大魔法とは、その属性の最上級魔法である。初級、中級、上級とあり、その更に高みに位置する魔法だ。勿論習得は容易いものではなく、そもそも必要な魔力量も膨大なので、滅多にお目にかかれるものではない。

 エレインも実際に目にするのは初めてであった。

 確かに、70階層の主ともなれば、極大魔法を使えてもおかしくはない。


「よし、お前あれ覚えろな」

「はい!……はいぃぃぃぃ!?」


 サラリとホムラに告げられ、エレインは絶叫した。


「え、そ、そんな…私、初級魔法ですら危ういんですよ!?」

「大丈夫だ。初級魔法はだいぶ安定して使えるようになってきただろ?増幅魔法とやらと並行して修行しろ」

「そ、そんなぁぁあ…」


 修行してどうにかなるものなのか。エレインは頭を抱えてしまった。


「あら、いいじゃない。増幅魔法がうまく発動すれば、極大魔法だって使えるんじゃない?極大魔法が発動するかで、ちゃんと魔力量が増えてるか確認することもできるし」

「ドリューさんまで…」


 増幅魔法で魔力量を増やし、極大魔法が使える土壌を整え、極大魔法の特訓をしろということか。スパルタな師匠達に、エレインは目に涙を滲ませる。その時、ポンと肩に手を置かれて振り返ると、アグニがグッと親指を突き上げて『どんまい』と爽やかな笑顔を向けてきた。


 こうしてエレインの修行は過酷さを増していったのである。



◇◇◇


「いいかァ?極大魔法を使うには、そもそも練り上げる魔力量が段違いになる」

「はい…」

「だがお前は、初級魔法に上級魔法並みの魔力量を込めてっから、リミッターを外す感覚さえ掴んじまえば、さほど難しくはないと思うぞ」

「本当ですか?……って、今なんて言いました!?」


 翌日、朝からホムラとエレインはボスの間で修行を開始していた。

 昨日大暴れして100人の冒険者を返り討ちにしたため、恐らく地上は大騒ぎになっているだろう。そのため、しばらく挑戦者は来ないのではないかとホムラは考えていた。

 その間暇なので、エレインの修行に精を出すホムラであった。


 一方のエレインは、ホムラからポロッと明かされた内容に驚きを隠せなかった。


「え、え…え?私、初級魔法に上級魔法並みの魔力を練っちゃってるの…?」

「あ?気付いてなかったのかァ?お前の魔法は、明らかに初級魔法の威力でも大きさでもねぇだろうが」


 狼狽えるエレインに対して、ホムラも別の意味で驚いている様子だ。見るからにエレインの魔法は威力が強すぎた。あえてそうしているのかと、わざわざ指摘はしなかったホムラだったのだが…


「だから制御が効かなくて足元がおぼつかなくなるんだよ。わざとやってるとばかり思ってたが…その様子だと違ったみたいだな」


 ホムラは呆れたように肩をすくめた。


(なんと…だから制御が難しかったのか…)


 エレインはがくりと肩を落とした。そして、ふと疑問に思ったことを実践してみることにした。ホムラは遠目で見守ってくれている。


 杖を掲げ、内なる魔力に意識を向ける。いつもより少なめに、半分、いや、もっと少なく魔力を練り上げ取り出すイメージで。血液が巡るように杖に魔力を巡らせる。


「《火球(ファイアボール)》!」


 エレインは顔の大きさほどの火球をいつも使っている的当ての的目掛けて撃ち出した。


「お?」

「で、できた!」


 いつも補助魔法で脚力を強化して踏ん張らないと、明後日の方向に飛んでいく火球が、的めがけて飛んでいき、その中心を射抜いた。


(そっか…魔力量を込めすぎてたんだ…)


 なんと初歩的なことだったのか。エレインは、初級魔法に見合わない量の魔力を込めすぎていたのだ。

 急にレベルが倍近く跳ね上がったにも関わらず、これまでと同じ要領で魔力を練っていたことで、込められた魔力量も倍近くになってしまっていたのだ。


(そりゃ自分サイズの火球が出来上がるはずだよ…)


 自嘲しつつも、手を握ったり広げたりしながら、エレインは身体に巡る魔力に意識を向けた。


「なんか、ちょっと魔力量のコントロールが分かってきたかも…」


 これまで、がむしゃらに魔力を込めていたが、使う魔法によって取り出す魔力量を調節する必要があるのだ。基礎の基礎であるのだが、これまで必死に頑張りすぎてしまっていたようだ。


 そもそも、エレインが初級魔法しか使えなかったのは、単純に魔力が足りなかったのと、初級魔法ですらコントロールがおぼつかなかったから、祖母が教えなかったのだ。


「なんか掴んだみたいだなァ。魔力量の調整ができりゃ、増幅魔法で増やした魔力も感じやすくなるだろ」

「はい!今なら何だか出来そうな気がします…!」


 先程は魔力量を絞ったが、これまでと同様、それ以上に魔力を集中させる。目を閉じ、身体中に巡るもの、お腹の底から込み上がるもの、自分の魔力を全て感じ取る。魔力の海に身を投じ、漂うような感覚。

 エレインは今までにないほど集中して、自分の魔力を全て掌握していた。


(この魔力量を、増幅する…!)


 自分の蓋をこじ開けて、容量を広げる。今までの上限を超える。


 その時、エレインは身体の奥深くから、魔力の源が渦巻きながら噴き出てくる感覚に襲われた。


「わ、わわっ」


 思わず目を開くと、エレインの身体から金色に輝くオーラが滲み出ていた。


「うまくいったみたいだな」


 傍で見守っていたホムラが、ニヤリと口角を上げた。


「よし、そのままの状態で極大魔法の特訓に移るぞ!」

「はっ、はひぃぃっ!」



◇◇◇


「ぶはぁぁあ…」


 その後エレインは、みっちりホムラに特訓を受け、増幅させた魔力も全て空っぽになってボスの間に突っ伏した。日々の特訓で体力もついてきてはいるが、流石にハード過ぎた。


「ん?」


 その時、ふと投げた視線の先にキラリと光るものを見つけ、エレインは重い身体を持ち上げてずりずりと這いずって行った。


 摘み上げたそれは、剣の装飾の一部のようだった。確か、アレクの剣にも豪奢な装飾が施されていた。


「そういえば、アレク…もう諦めたのかな…」


 最後の最後まで、ホムラに憎しみの視線を向けていたアレク。エレインはどうしても、彼があのまま引き下がるとは思えなかった。

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