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【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される  作者: 水都ミナト@12/10『転生幼女』②巻配信
第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される
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28. それぞれの思い

 エレインとアグニが地上へ向かうよりも数日、時は遡りーーー


 アレク達がホムラと対峙した正にその日。

 魔法陣により地上に転移したアレク達は、ダンジョンの前で折り重なって伸びていた。


「うっ…ここは…?」


 何だ何だと騒めく観衆が4人を囲むようにして見下ろしている中、アレクが目を覚ましてゆっくりと身体を起こした。心配そうに彼らを遠巻きに見守る住人達を見回しながら、ぼんやりとした頭で記憶をたぐる。


 最後に覚えているのは真っ赤な景色だった。

 巨大な火竜の鋭利な牙が並ぶ大きな口。

 アレク達は、確かにその喉奥から吐き出された業火に焼かれた。


「…はっ、リリス!?ロイドにルナは…!?」


 70階層での出来事を思い出したアレクは、顔を青ざめさせて仲間達を探した。彼らはアレクのすぐ側で意識を失った状態で倒れていたが、皆目立った外傷はなく、息もあるようだった。


 ほーっと深く息を吐いたアレクは、3人の身体を揺すり、意識を呼び起こした。


「う…どう、なったんだ?」

「…ぐっ」

「はっ!こっ、ここは!?」


 目覚めた3人は頭を押さえながら身体を起こした。アレク同様辺りを見回し、記憶を回帰している様子だ。ロイドは次第に顔を青くしていき、ルナは悔しそうに歯を噛み締め、リリスは目に涙を浮かべて俯いた。


「…とにかく皆無事で良かった。今日のところは宿に帰って休もう。今後のことは明日の朝にまた話すとしよう」


 野次馬に囲まれて体裁も悪い。アレクの言葉を契機に、4人はヨロヨロと立ち上がると、身体を支え合って宿へと向かった。




◇◇◇


 宿に戻り、ロイドはベッドに足を投げ出して仰向けに横たわっていた。


(…俺は、何もできなかった)


 炎の鬼神と戦った時、ロイドは騎士(ナイト)としてリリスとルナを守る役割を買って出た。だが、鬼神のプレッシャーにあてられ、足がすくみ、自らも盾の影に隠れて動くことができなかった。アレクの盾となり、共に攻撃に転じることが出来たなら、少しは善戦できたのではないか。


「いや、それでもあのホムラって男には手も足も出なかっただろうな」


 ロイドは自らの弱さを痛感していた。

 

 それに、エレインの補助魔法のことにも驚かされた。

 今までダンジョンで感じていた湧き出るような力は、エレインによってもたらされていたのだ。

 確かに昔、補助魔法のことをエレインから聞いた記憶がある。その時に、大した力もないくせに何を言っているのかと、皆で一蹴してしっかり聞き入れなかったことが悔やまれる。エレインともっと信頼関係を築き、仲間として受け入れて来たのならーーー今更後悔しても、もう遅いのだが。


 先日魔石狩りにダンジョンに潜った時、感じた身体の重さ。

 今日の戦いで感じた身体の重さ。

 これが補助魔法で底上げされない本来の自分の力だったのだ。


「俺は、弱い……」


 ロイドは天井の木の木目を睨みつけながら、ある決意を固めていた。




◇◇◇


「くそっ!」


 ルナは部屋に帰るや否や、三角帽子を脱ぎ捨てて床に叩きつけた。


 ルナは五大属性ではなく、稀少な闇魔法の使い手の家系だった。そのことに誇りを持っていたし、魔法使いとしても秀でているという自信があった。

 ルナは魔法使いとしての自負があっただけに、ビクビクおどおどしながら使いものにならないエレインが、同じ魔法使いを名乗ることに酷い嫌悪感を抱いていた。


 だが、ルナの自慢の魔法は、ホムラに手も足も出なかった。


 それどころか、魔法使いとして見下していたエレインの魔法が、これまでパーティを支えてきていたなんて。


(認めたくない…いや、そんなことは認められない)


 ルナはギリリと歯を噛み締めて、やり場のない怒りを込めて、バンバンと枕に何度も拳を落とした。




◇◇◇


 リリスは、部屋に入るや否や、その場にへたり込んだ。そしてハラハラと涙を零した。


(やっぱり、人の道に外れることをした報いが返ってきたんだわ…)


 70階層に挑戦する前から感じていた言いようのない不吉な予感は、最悪な形で的中してしまった。


 リリスは、アレク達と一緒になってエレインのことを馬鹿にして笑って来た。それなのに、そのエレインに支えられて来ただなんて。


「エレイン、あなたは酷い仕打ちをして来た私たちに…ずっと、認められなくてもずっと…魔法を使ってくれていたのですね……どれほど辛かったでしょう…」


 今更エレインを憐れむことも、詫びることも叶わない。そうしたところで、今までの愚行は取り返すことができない。


(ああ、神よ…私はこれからどう償って生きていけばいいのでしょう…)


 リリスは手を合わせて、窓から覗く月に祈りを捧げた。

 偶然にも、今夜は満月だった。

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