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【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される  作者: 水都ミナト@12/10『転生幼女』②巻配信
第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される
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27. 祖母の手記

「うーーん…やっぱりないなぁ」

「何か探し物です?」


 ドリューンが訪れた翌日の夜、エレインは手持ちのリュックをひっくり返して荷物を物色していた。

 エレインに紅茶のカップを差し出しながら、何事かと覗き込んだアグニ。エレインは感謝を述べつつ、カップを受け取り説明する。


「昨日ドリューさんに補助魔法を誰に教わったか聞かれたでしょう?」

「ああ、そうですね。2人が修行してる間も何やら考え込んでいる様子でした」

「それで思い出したんだけど、お婆ちゃんに貰った手記があったなーって…うーん、やっぱり宿に置いたままなのかな…」


 目的のものが見つからず、エレインは肩を落とした。しかも心当たりがあるのはウィルダリアの街の宿屋だ。もうどうすることもできない。それにもう十日近く戻ってないので、安価な宿とはいえ支払いが……考えないでおこう。エレインは小さく身震いした。


「取りに行ったらいいんじゃないですか?」

「え?」


 ソファに移動して消沈するエレインに、ケロリと言ってのけるアグニ。思わずエレインは眼を瞬かせる。


「えっ、と。宿って、地上にあるんだよ?どうやって取りに行けば…」

「だから、ボスの間の魔法陣があるじゃないですか。あれは挑戦者を地上へ帰すものですよ?忘れたんですか?」

「あっ」


 アグニに言われてエレインはハッとした。確かに、地上へ帰ることは出来そうだ。


 だがーーー


「でっ、でも…どうやってここに戻ってこれば…」


 エレインの言葉に、今度はアグニが眼を瞬かせた。

 それもそのはずだ。エレインは当たり前のように戻ることを考えているが、ここはダンジョン。本来エレインが住むべきは地上なのだ。

 先日アレク達が戦いに来た時に、エレインはダンジョンに残ることを選択したが、いつでも地上へ帰ることは出来るのだ。


「ふぅ、アナタって人は…」


 アグニは柔らかく微笑むと、エレインに少し待つように言い、部屋の奥へと消えて行った。

 すぐに戻ってきたアグニの手には、魔石が握られていた。


「はい、どうぞ。渡すタイミングを見計らっていたんですけど、アナタの元パーティが挑みに来た時に落として行ったのを拾ったんです。これ、《転移門(ポータル)》用の魔石ですよね?」

「ほっ、ほんとだ…!ありがとうアグニちゃん…!」

「ぐえっ、やめろくださいっ」


 少し気まずそうに差し出された魔石を見るや、エレインはアグニに抱きついて頬擦りをした。アグニは煩わしそうにしつつも、満更ではない様子だ。


「お前ら、何じゃれてんだよ?」

「あっ、ホムラ様!」


 二人が戯れていると、ホムラがやって来てどすんとエレインの対面に腰掛けると呆れた顔をした。


「ホムラさん、私ちょっと地上へ行ってきます」

「あ?一人で大丈夫なのかよ?」


 エレインがかくかくじかじかと事情を説明すると、ホムラは少し心配そうに眉を顰めた。こてんぱんにしたとはいえ、アレク達に見つかると逆恨みから酷い目にあう可能性も否めない。


「一応フードを被って目立たないようにはするつもりです。それに、二人は地上へ行けないでしょう?」

「あら、別に外に出れないわけじゃないわよ?」

「ぎゃっ!?」


 エレインの問いに答えたのは、いつの間にかソファに腰掛けていたドリューンであった。ささっとアグニが用意した紅茶を美味しそうに啜っている。


「お前なぁ…勝手に来るなっていつも言ってるだろうが」


 ホムラがげんなりとした顔で抗議するが、聞き入れられないのは分かっているようで、諦めたように息を吐いた。


「えっ、と…ダンジョンの魔物も外に出れるんですか?」


 エレインはドリューンの言葉の先を尋ねた。カップを傾けて、こくりの喉を鳴らすとドリューンは口を開いた。


「ええ、可能か不可能かで言うと、可能よ。だけど、私たちダンジョンで生まれた魔物や魔人はダンジョンの外に出るとその力を大きく低下させるの。本来の力が出せなくなるのよ」

「は、はぁ…そうだったんですか…」

「それに、ダンジョンの中だと万一冒険者に倒されても自然復活するわ。でも外での死は取り返すことは出来ないの。力を失ったダンジョンのモンスターが地上で見つかったら、どうなるか分かるでしょう?」

「あ…」


 エレインはダンジョンから地上へ出た魔物を想像する。

 恐らく冒険者を取りまとめるギルドが動き、住人の脅威となる魔物は早急に処分されるだろう。剣や槍が身体中に突き刺さって息絶える魔物の姿が容易に想像でき、エレインはゾッとした。


「だから、ダンジョンの魔物とかモンスターが勝手に外に出ることもほとんどないわ。本能的に分かっているのでしょうね。…それにしてもアナタ、随分苦労してきたのね…私ちょっと泣いちゃったわ」

「え、何の話ですか!?」


 急に憐れみの目を向けられたエレインは、思考から戻ると眉間に皺を寄せた。


「私はね、ダンジョンの木々の記憶を読むことが出来るのよ。つまり、アナタのこれまでの冒険をちょーっと調べさせてもらったってわけ」

「プライバシーの侵害ですよ…」


 エレインは気まずげに視線を逸らすと、カップの紅茶をズズズと啜る。


「それで、今はパーティから抜けてここに住み着いてるって訳なのね。まあ大体の流れは把握できたわ」

「はは…」

「それで、どうして今更地上へ行く話が出ているの?」

「ああ、祖母の手記を取りに行こうと思いまして…魔法のことや生活の知恵が記されているんです」

「あら、それは私も見てみたいわ」


 ドリューンはエレインの祖母の存在に興味があるようだ。そしてあろうことか、とんでもない提案をした。


「エレインちゃん一人で地上へ送り出すのが不安なら、アグニがついて行けばいいんじゃないの?」

「はいぃ!?何言ってんですか!?」


 急に矛先が向いたアグニは、口に含んでいた紅茶をぶぶーっとホムラに吹きかけてしまった。ポタポタと紅茶の雫を垂らすホムラの頬には青筋がぴくぴくと浮かんでいる。


「…いいじゃねぇか、行ってこいよ。地上を知るのもいい経験だ」

「で、でもっ…翼を収めることは出来ないですし…」


 着物の袖で顔を拭うホムラに言われたアグニは地上行きを逃れる方法を考えて頭を巡らせる。

 アグニは子供の姿に変化しているので、パッと見は人間に見えるが、背中にはしっかりと小さな翼が付いている。こればかりは上手く変化で消せないものだ。


「フード被れば何とかなるだろ。それか手のひらサイズの竜の姿になってエレインのフードに隠れるかだな」

「…もう行くことは決定ですか??」


 先々と話を進めるホムラに、当人のアグニはついて行けずに深いため息をつく。


「ええい!分かりました!いいですよ!竜の姿だと身動きが取れないので人型で行きます。はぁー…フード付きの外套をしつらえることにしますよ」

「あ、アグニちゃん…!ありがとう!」


 一人で地上に降りることはやはり心細かったエレインが、感涙のあまり肩を震わせている。


 こうしてアグニは、外套をしつらえ始め、数日後に完成したその日のうちに、エレインと共に魔法陣で地上へと降り立ったのだった。

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