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【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される  作者: 水都ミナト@12/10『転生幼女』②巻配信
第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される
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25. 燃えるような熱情

 ボスの間で距離を取って対峙するホムラとエレイン。アグニとドリューンは少し離れたところで様子を見守っている。


「さて、と。最近はコントロールの練習ばかりだったからな。せっかくだし他のことやってみるか」


 ホムラはそう言うと、右手を掲げて顔ほどの大きさの火球を作り出した。


「どうだ?何か感じるか?」

「何か…?いつもと同じかと…」


 ホムラの問いの要領を得ないままに、エレインは首を傾げながら答える。ホムラはそのまま拳を握って火球を消した。


「今からまた火球を作る。さっきのとの違いを意識して見てろ」

「はあ………、っ!?」


 ホムラはふぅっと息を吐くと、静かに目を閉じた。そしてカッと目を開くと、殺気のようなプレッシャーがエレインを圧迫した。一気に身体中の汗腺が開いてぶわりと冷や汗が滲む。

 ホムラは再び右手を掲げると、先程と同じサイズの火球を作り出した。だが、先ほどのものよりもゴウゴウと燃えたぎる音が大きく聞こえる。火球自体の密度が高まっているのだろうか。炎の色もオレンジ色だったものが青黒く変色して行った。


「どうだ?全然違うだろ?」

「ち、違います…うっ」


 ホムラは火球を握り潰し、放っていた殺気も収めた。真正面からホムラのプレッシャーを浴びていたエレインは杖をついて立っているのもやっとである。


 離れた位置で見ていたアグニとドリューンも、ピリピリと肌を指すような感覚に襲われていた。


「はぁ…ホムラ様の殺気…相変わらず素敵ね…」

「ドリューさんって前から思ってましたけど、かなり変わってますよね」


 ドリューンはホムラの殺気を感じて、両頬を手で包み込みながらうっとりと蕩けた顔をしている。隣のアグニはその様子をやや引きながら見上げていた。


 そんな外野は無視しつつ、ホムラはエレインに歩み寄ると、説明を続ける。


「今の火球には、お前を殺すつもりで殺気を込めた。最初の方は特に何も考えていなかったから、害のあるものには感じなかっただろ?」

「は、はい…2つ目の方は、命の危険を感じました…うっ」

「おいおい、別に殺すつもりはねぇんだから泣くなって」

「ずびばぜんんん」


 エレインはあまりの恐怖に、つい涙が溢れてしまった。何やかんやでいつもホムラは優しいため、ついつい忘れがちになるのだが、本来は恐ろしいダンジョンの階層主であると改めて感じてしまった。

 ホムラは呆れたように息を吐くとエレインに近づいて、着物の袖でグイッと涙を拭った。ドリューンが何やら怒ったように叫んでいるが、ホムラは気にしない。


「俺が言いたかったのは、魔法に込める気持ちの話だ。強い意志を込めるか込めないか。それだけでも魔法の威力は段違いに跳ね上がる」

「気持ち…」


 エレインは自分の手を見つめて、今までのことを思い返した。魔法を使うのに必死で、そこに込める気持ちにまで気が回っていなかった。


「よし、理屈よりも身体で実感した方が早いな。強い意志を込めて火球を使ってみな」

「強い意志…や、やってみます」


 エレインはぐっと杖に力を込めて魔力を集中した。


「身体のうちにある燃えたぎる感情を自覚しろ!怒りでも情熱でも、やる気でも、エネルギーに代わるものなら何でもいい!とにかく腹の奥深くで燃える気を感じろ!」

「そ、そんなこと言われても…」


 ホムラが助言をしてくれるが、それが中々難しい。懸命に念じるが、エレインの杖の先で燃える火球は、いつもとさして変わりが無い。


「強くなるんだろ?昨日アレクとやらに宣言してたじゃねえか。あれは口だけなのか?お前ならできる!俺はお前の根性だけは認めてんだよ」

「っ!くぅぅ…」


 ホムラに激励され、エレインはハッとした。

 そうだ、アレク達を見返すぐらい強くなって、1人でも戦える冒険者になるのだ。それに、修行をつけてくれているホムラの期待にも応えたい。


 エレインは今までに無いほど集中した。

 周りの音が遠く聞こえるような感覚に襲われ、杖の先の火球が白みを増していく。


「お!そうだ、やればできるじゃねえか。そのまま上に掲げて維持してみろ」

「は、はひっ!」

「もっと!もっとだ!!」

「はいぃぃ!!」


 エレインは杖を高く掲げる。火球は既にエレインをすっぽり包み込めるほどのサイズになっており、尚も勢いを増している。

 ホムラもヒートアップしているようで、すっかり瞳孔が開き切っている。アグニはエレインの火球を見ながら密かに冷や汗をかいていた。


「ちょ、ちょっと…ホムラ様!?こ、これはヤバいんじゃ!?」


 明らかに高火力の火球であるが、エレインがいつ制御できなくなるか分からない。室温もぐんぐん上昇しており、アグニは心配そうにドリューンを見た。


「はぁ…熱い…素敵よホムラ様、熱いわ…溶けてしまいそう」

「あぁぁ!!?ドリューさん!?燃えてる!燃えてるー!!」

「はぁぁん熱い…」


 水分が蒸発しているのか、いつも艶やかな手足は少しひび割れていて、ドリューンの長い髪の先は発火していた。本人はうっとりとだらしなく口を開いているが、このままでは延焼して危険だ。

 やはりこうなったか、と思いながら、アグニは事前に用意しておいたバケツの水をドリューンにぶっかけた。


「はぁ、やれやれですね」


 ドリューンの鎮火を終え、アグニはホムラ達に視線を戻した。


「よっしゃ!俺に向かって放て!!」

「はっはいぃぃ!いきますよ…!うわっ、たたた」

「ちょっと何してんですかぁぁぁ!?!?」


 すっかり周りが見えなくなっている2人は、あろうことか危険極まりないサイズと威力の火球を撃ち放っていた。

 相変わらず狙いの定まらないエレインの魔法であるが、ホムラは嬉々として灼刀を抜き、火球に切り掛かった。ホムラの灼刀がエレインの火球を真っ二つに割り、二つに分かれた火球はそれぞれホムラの後方の柱に直撃して激しく燃え盛った。


 火球が柱にぶつかった衝撃で、熱風がボスの間に吹き荒れた。アグニは慌てて翼を広げると、ドリューンを庇うように包み込んだ。そしてーーー


「こんの…馬鹿共がぁぁぁぁぁぁ!!」


(ドリューさんが燃え尽きちゃうでしょうがぁぁ!?)


 修行に熱中する二人への不満の叫びが、虚しく室内にこだました。

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