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【完結】パーティに捨てられた泣き虫魔法使いは、ダンジョンの階層主に溺愛される  作者: 水都ミナト@12/10『転生幼女』②巻配信
第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される
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18. エレインのいないパーティ②

「おいおいおい、ふっざけるなよ…!!!」


 ダンジョンの52階層。全力で駆けながら奥歯を噛み締めるのはロイドである。


 洞窟メインのこの階層には、高く売れる魔石をドロップするキラーアントが多く生息する。全長1.5メートルはあろうかという巨大な蟻型モンスターである。アレクから資金稼ぎにダンジョンに単身潜ってこいと言われ、ロイドは迷わずこの階層を選択した。

 エレインがいた頃は、よくキラーアントの群れを狩って多くの魔石を手にして帰って来ていた。エレインは満身創痍で衣服もボロボロ、杖をついて何とか歩けるといった状態であったが、ロイドはアレク達と共にその様子を馬鹿にしたように笑っていた。


 が、いざ1人で52階層に来てみればどうだ。

 キラーアントは基本群れで行動し、その数も多ければ10では効かない。さながら軍隊のように統率の取れた動きで地形を利用し、あっという間に追い詰められたのはロイドの方であった。


「ちぃっ!」


 ガキィンと、キラーアントの鎌のような脚を盾で防ぎながら洞窟を駆け回る。次第に道幅が狭くなって来ているようで、ロイドは焦り始める。


(俺よりレベルの低いエレインは、こんなモンスターをどうやって1人で倒していたんだ?)


 そういえば一度、ふとした好奇心でキラーアントの攻略法を聞いたような気もする。どうせ自分はそんな状況に陥らないと聞き流していたのが悔やまれる。


 ギリッと再び歯を噛み締めて、ロイドは人1人通れる広さの横穴に飛び込んだ。

 咄嗟の判断であったが、キラーアント達も1匹ずつしか倒れないようで、取り囲まれる心配は無くなった。が、安心したのも束の間。ロイドが前方を目を凝らして確認するとどうやら行き止まりのようだ。


「くっ、そぉぉぉ!!」


 ロイドは壁を背にして振り返り、その勢いのまま先頭のキラーアントの関節に盾を振りかざした。


ギャァァァァァア!!


 耳をつん裂くような悲鳴と共に、盾が刺さったキラーアントが黒いモヤとなって霧散した。カラン、と音を立てて琥珀に似た結晶がドロップした。これがキラーアントが落とす魔石である。

 ロイドは慌てて魔石を回収し、次の敵に備えて盾を構えた。先頭の仲間がやられて警戒をしているのか、キラーアントは長い触覚をぴくぴくと動かしながらロイドの動向を観察している。


 ちなみにエレインは細い横穴の先に、落とし穴といった罠を事前に用意しておき、1匹ずつ確実に始末できる環境を整えて戦っていた。レベルの低さを戦術の工夫で補っていたのだ。

 奇しくもロイドはエレインと似た戦法に行き着いたのであった。


「来ないならこっちから行くぞ!!うぉぉぉ!!」


 ロイドは先程と同じように盾を突き刺してはキラーアントを倒していく。5体ほど倒した時には、もう疲労困憊で肩を大きく上下させていた。なぜだか、()()()()()()()()()()()()()()のだ。


(ちくしょう…蟻ごときにみっともねぇ…!もうこれ以上来るんじゃねぇぞ…)


 仲間が次々に消滅し、指揮系統を失ったキラーアント達は、流石に命が惜しかったのかロイドの願い通りに横穴を後退して逃げて行った。


「…っはぁーーー」


 その場に片膝をついて座り込むロイドの手には、3個の魔石が鈍く輝いていた。魔石がドロップするのも運次第なので、5体で3個は運が良かった方だろう。エレインは多い時には10個は持ち帰っていただろうか。


「…チィッ」


 何とも言えない悔しさと疲労感が、ロイドの胸の奥でモヤモヤと渦巻いていた。




◇◇◇


「おや、ルナちゃんじゃないか?」

「む、いかにもルナはルナ」


 一方、道具屋に向かって街中を歩くルナは、街の住人に声をかけられていた。

 『彗星の新人(コメットルーキー)』は今や人気のパーティのため、稀にこうして声をかけられることがある。


「いやぁ、ダンジョン攻略は順調かい?」

「ふ、愚問。準備が整ったらルナ達は70階層を攻略する」

「おおっ!いよいよ前人未到の『破壊魔神』に挑戦か!応援してるよ」

「感謝」


 ルナはふふんと少し胸を反らせて満足げに答えた。


「そういえば、最近エレインちゃんを見ないが元気にしてるか?あの子が頑張って駆け回っているのを見ると何だか励まされるんだよなあ」

「………エレインは、元気。じゃあ、ルナはもう行く」

「ああ、頑張ってな!エレインちゃんにもよろしく頼むよ!」


 チヤホヤされて得意げだったルナは一転して顔を曇らせたが、住人はその変化には気づいていないようだった。


 ルナは、住人と別れると少し歩いたところにある道具屋に到着し、古びたドアを開けた。


 ギィ、と錆びついたドアが軋んだ音を立てる。店主の趣味で、店はどことなく妖しい雰囲気を醸し出している。


「おや、ルナちゃん。いらっしゃい」

「注文していた道具を取りに来た」

「はいよ、揃っているよ」


 たっぷりの灰色の口髭を蓄えた初老の店主は、店の棚から風呂敷に包まれた道具一式を取り出した。


「《転移門(ポータル)》用の魔石が4つに、ポーションが10本、耐火の外套4着に火傷治しが5つ」

「む、間違いない」


 カウンターに並べられた道具を店主と確認するルナ。懐から巾着袋を取り出し、注文時に言われていた金額を支払った。


「それにしても…魔石が4つじゃ5人パーティの君たちと数が合わないが大丈夫なのかい?外套も4着だし…注文時から気になっておっての」


 広げられた道具を再び風呂敷に包みながら、店主が心配そうに眉根を下げている。ルナの眉がピクリと反応した。


「……問題ない。今回は4人で挑戦することになった」

「ええっ、そうなのかい…?まあ深くは詮索せんが…道具もいつもはエレインちゃんが買いに来て居たし…少し心配になっての」


 確かにいつもは買い出しという雑務はエレインの仕事であった。ルナは薄く目を細めながら口を開いた。


「…エレインは風邪を引いて寝込んでいる。しばらく回復しそうにないから今回は置いていく」

「おや、それは心配だ。ちょっと待っておくれ…よいしょ」


 ルナの言葉に目を見開いた店主は、カウンターの中にしゃがみ込み、ガサガサと何やら探しているようだ。


「あったあった、ほら、よく効く風邪薬だ。お代はいらないからエレインちゃんに渡してやってくれ」

「…預かる」


 ルナは差し出された小瓶をしばらく見つめた後、小さくため息を吐いて小瓶を受け取った。


「では、また」

「はいよ、今後ともご贔屓に」


 包んだ風呂敷を受け取り、再びドアを軋ませてルナは道具屋を後にした。


「……エレインは死んだ。これはもう不要」


 道具屋が見えなくなってから、ルナはポケットから取り出した小瓶を道端のゴミ箱に放り込んだ。

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